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太田達也の視点

退職給付会計における割引率の見直しの要否の判断について

2013.02.01
公認会計士 太田 達也

退職給付会計における割引率

「退職給付に関する会計基準」(以下、退職給付会計基準)では、将来発生すると見込まれる給付を予測し、そのうち当期まで発生していると認められるものを退職給付債務(PBO)といい、割引計算により測定されます。具体的には、当期までに発生していると認められる額を、一定の割引率及び支払見込時から現在までの期間に基づいて、割引計算します。
退職給付債務の計算における割引率は、安全性の高い債券の利回りを基礎として決定します。割引率の基礎とする安全性の高い債券の利回りとは、期末における国債、政府機関債及び優良社債(優良社債には、例えば、複数の格付機関による直近の格付けがダブルA格相当以上を得ている社債が含まれる)の利回りをいいます。
貨幣の時間価値のみを反映させるべきとの考え方から、リスクフリー・レートに近い安全性の高い債券の利回りを基礎とする必要があるものと考えられています。

割引率の見直しの要否

割高な割引率を用いた場合、退職給付債務が過小評価されることになり、負債の計上額が過少計上になってしまうという問題があります。適正な水準に設定することが必要であることは当然です。
「退職給付に関する会計基準の適用指針」(以下、適用指針)では、「各事業年度において割引率を再検討し、その結果、少なくとも、割引率の変動が退職給付債務に重要な影響を及ぼすと判断した場合にはこれを見直し、退職給付債務を再計算する必要がある。」としています。また、「重要な影響の有無の判断にあたっては、前期末に用いた割引率により算定した場合の退職給付債務と比較して、期末の割引率により計算した退職給付債務が10%以上変動すると推定されるときには、重要な影響を及ぼすものとして期末の割引率を用いて退職給付債務を再計算しなければならない。」としています(適用指針30項)。この10%の取扱いは、平成24年5月17日付の退職給付会計基準の改正においても廃止されず存続することになりました。
ここで重要な留意点は、10%以上変動すると推定されるときには、期末の割引率を用いて退職給付債務を再計算しなければならないと記述されていますが、10%未満の変動であると推定されるときに、一律見直さなくてよいとは記述されていないという点です。
改正後の退職給付会計基準の適用後は、連結財務諸表上未認識の数理計算上の差異や未認識の過去勤務費用を即時認識することになりますが、10%未満の変動であると推定されるときに見直さないということになると、10%を超えた途端に退職給付に係る負債の額とその他の包括利益の額に大きなインパクトが生じることになります。10%未満の変動であると推定される場合であっても、退職給付債務に重要な影響を及ぼすと判断される場合には、割引率を見直し、退職給付債務を当期末の割引率により再計算する必要があると考えられます。この点、10%ルールを適用しないで、毎期見直すことを原則とすることに変更することを検討している企業があるように聞きます。

割引率の改正

平成24年5月17日付の退職給付会計基準の改正により、割引率の取扱いが変更された点に留意が必要です。
改正前の取扱いでは、割引率の基礎となる期間について、退職給付の見込支払日までの平均期間を原則とし、実務上は従業員の平均残存勤務期間に近似した年数とすることができるとされていました。
改正後の取扱いでは、IFRSなどの国際的な会計基準と同様に、退職給付支払ごとの支払見込期間を反映するものでなければならないとされ、例えば(1)退職給付の支給見込期間及び支給見込期間ごとの金額を反映した単一の加重平均割引率を使用する方法や、(2)退職給付の支給見込期間ごとに設定された複数の割引率を使用する方法(=イールド・カーブ1を用いる方法)が含まれるとされました(適用指針24項)。(1)及び(2)は並列的に示されています。
以下、改正前の取扱いと改正後の適用指針で示されている二つの方法を数値例により比較します。

例  割引率の取扱い(改正前後)

前提条件
甲は1年後の退職が見込まれており、給付見込額が60であるとします。乙は2年後の退職が見込まれており、給付見込額が80であるとします。丙は3年後の退職が見込まれており、給付見込額が100であるとします。単純化のため、退職給付は一時金制度のみとし、退職確率等その他の計算基礎は考慮しません。

  1年後 2年後 3年後
甲(1年後退職) 60    
乙(2年後退職)   80  
丙(3年後退職)     100

割引率の基礎となる優良社債の利回りは、次のとおりとします(利回りの数値はあくまでも仮定です)。


残存年数 1年 2年 3年
債券利回り 2.0% 3.0% 4.0%

1. 改正前の取扱い

平均残存勤務期間(=退職給付の金額を考慮しないで計算されている)である2年に応じた単一の利回り3.0%を使うことができます。

2. 改正後の取扱い

(1) 複数の割引率を使用する方法
60については2.0%、80については3.0%、100については4.0%で割引計算をします。

(2) 単一の加重平均の割引率を使用する場合
給付見込期間及び給付見込期間ごとの退職給付の金額を反映した単一の加重平均割引率を用いる方法による場合は、(60×1年+80×2年+100×3年)÷(60+80+100)=2.17年に応じた単一の割引率を用いることになります。

  •  1残存期間が異なる複数の債券などにおける利回りの変化をグラフにしたものであり、横軸に残存期間、縦軸に債券などの利回りをとります。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。


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