平成23年度税制改正の会計処理への影響と対応策 ~税率の変更、繰越欠損金の改正、定率法の改正...etc.~

2012年1月5日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

平成23年度税制改正(積み残し)の成立及び公布

平成23年度税制改正の積み残しのうち法人税法と国税通則法(納税者憲章を除いた部分)の改正が、平成23年11月30日に成立し、同年12月2日に公布されました。

本稿では、法人税法の改正について、会計処理に与える影響と対応策について解説します。特に税率の変更や繰越欠損金の改正が税効果会計に与える影響が大きい点に注意が必要です。

税率の変更に係る対応策

法人税率が引き下げられることになり、また、3年間に限定して復興特別法人税(付加税)が課せられることになったので、税効果会計の法定実効税率の見直しが必要になります。

税効果会計基準では、一時差異の発生時期ではなく解消時期に適用される税率を用いる点に留意する必要があります。今回の改正により、一時差異の解消する時期によって、複数の法定実効税率を用いて、繰延税金資産及び繰延税金負債を算出することになります。

法人税率の引き下げ及び復興特別法人税ともに、平成24年4月1日以後に開始する事業年度から適用されるので、企業の決算期によって異なった対応が必要になります。例えば3月決算会社の平成23年12月31日に終了する第3四半期決算の場合は、次のようになります(税率は、東京都かつ外形標準課税適用法人の場合を前提。以下同様)。

3月決算会社の平成23年12月31日に終了する第3四半期決算の場合

3月決算会社の平成23年12月31日に終了する第3四半期決算の場合

(注1)東京都の場合(かつ外形標準課税適用法人)

(注1)東京都の場合(かつ外形標準課税適用法人)

(注2)東京都の場合(かつ外形標準課税適用法人)

(注2)東京都の場合(かつ外形標準課税適用法人)

一方、12月決算会社の平成23年12月31日に終了する年度決算の場合は、次のようになります。

12月決算会社の平成23年12月31日に終了する年度決算の場合

12月決算会社の平成23年12月31日に終了する年度決算の場合

さらに、3月決算会社の平成24年3月31日に終了する年度決算の場合は、次のようになります。

3月決算会社の平成24年3月31日に終了する年度決算の場合

3月決算会社の平成24年3月31日に終了する年度決算の場合

このように、各企業において自社の事業年度(または会計期間)を前提として、改正税法の適用時期(平成24年4月1日以後に開始する事業年度から適用)を確認し、適切に対応する必要があります。

既存の繰延税金資産・繰延税金負債の修正も必要

税率変更に係る税制改正の「公布日」を含む会計期間で既存の繰延税金資産及び繰延税金負債の修正を行うことも必要である点に留意が必要です。すなわち、新たな一時差異に対応する繰延税金資産及び繰延税金負債の計算だけでなく、既存の繰延税金資産及び繰延税金負債の修正をも行わなければなりません。

改正後の税率が翌期以降に適用される場合は、繰延税金資産及び繰延税金負債の期末残高について税率変更があったものと見なして修正します。一方、改正後の税率が期首から適用される場合は、繰延税金資産及び繰延税金負債の期首残高について税率変更があったものと見なして修正します。

期首残高について修正するか、期末残高について修正するかで「修正額」が異なります。「修正額」は財務諸表の注記事項なので、この点留意が必要です。

繰越欠損金の控除限度額の引き下げの影響と対応策

税率引き下げの見返りとして課税ベースの拡大が行われました。繰越欠損金の控除限度額が税務上の所得の100%ではなく80%に制限されることになりました。平成24年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。

税効果会計における繰延税金資産の回収可能性の判断に際して、この改正内容を当然に考慮しなければなりません。所得の100%から80%に制限されることにより、繰延税金資産の回収可能性の判断においてマイナスの影響が及ぶことになります。例えば改正前の税法を前提とすれば繰越欠損金の全額について控除できる場合であっても、改正後の税法を前提とすれば一部控除できないと判断されるものが生じ得ます。

繰越欠損金の繰越期間の延長に係る影響と対応策

繰越欠損金の控除期間が7年から9年に延長されることになりました。平成20年4月1日以後に終了した事業年度で生じた欠損金額について適用されます。

繰越欠損金の繰越期間が8年目や9年目に及ぶ場合には、改正前であれば期限切れで税金の減額効果がないと判断される場合であっても、改正後は当該期間に課税所得が見込まれるのであれば、課税所得と相殺可能な部分について繰延税金資産を計上できる余地も生じ得ます。

監査委員会報告第66号における業績5分類のIIIまたはIVの会社の場合、繰越欠損金の繰越期間が7年から9年に延長されても、実質的にプラスの影響はないように一見思われます。しかし、X1期に発生した繰越欠損金についてX2期において繰延税金資産の回収可能性を判断する場合、7年から9年に延長されても実質的な影響はありませんが、X1期に発生した繰越欠損金についてX9期またはX10期に繰延税金資産の回収可能性を判断する場合には、改正前であれば期限切れになっていますが、改正後は期限切れになっていないので、プラスの影響が働くことは、あり得ると思われます。

スケジューリングに基づき、繰延税金資産の回収可能性を判断する上で、以上の二つの改正内容を解消スケジュールに反映して、対応することになります。

定率法の見直し(250%定率法から200%定率法)に係る対応策

平成24年4月1日以後に取得した減価償却資産について定率法を適用する場合は、税務上、250%定率法ではなく200%定率法を適用して償却限度額を計算するものとされました。

既存資産について、会計上、250%定率法を200%定率法に変更する場合は、会計方針の変更に該当すると考えられます。その場合、税制改正のみを理由として変更することは「正当な理由に基づく変更」には該当しない点に留意する必要があります。なお、新規取得資産について200%定率法に変更する場合は、法令等の改正に伴う変更に準じた正当な理由に基づく会計方針の変更に該当します。

また、減価償却方法の変更は会計方針の変更に該当しますが、「会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合については、会計上の見積りの変更と同様に取り扱い、遡及適用は行わない」(過年度遡及会計基準19項)とする取扱いに従うことになるので、遡及適用を行う必要がないと考えられます。

貸倒引当金の廃止

税務上の貸倒引当金制度については、①中小法人等、②銀行、保険その他これらに類する法人及び③売買があったものとされるリース資産の対価の額に係る金銭債権を有する法人等に限り認められるものとされ、これら以外の法人については、平成24年度(平成24年4月1日以後に最初に開始する事業年度)から平成26年度(平成26年4月1日以後に最初に開始する事業年度)までの事業年度にわたって4分の1ずつ縮減されます(平成24年度は4分の3、平成25年度は4分の2、平成26年度は4分の1の引き当てが認められます)。

貸倒引当金の繰入限度超過額が今後段階的に増加していくことになりますが、それは税効果会計における将来減算一時差異が増加していくことをも意味しています。

 資本金の額が5億円以上である法人等の100%子法人以外で、資本金の額が1億円以下である普通法人、公益法人等、協同組合等、人格のない社団等

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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