過年度遡及会計基準と税務との関係 ~税務調査による過去の法人税等の修正、申告書別表の記載方法…etc.~

2011年7月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

過去の誤謬が発見される場合とは?

「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、過年度遡及会計基準)が、本年4月1日以後に開始する事業年度の期首以後に行われる会計上の変更及び誤謬の訂正から適用されています。遡及適用の対象となるのは、会計方針の変更、表示方法の変更及び過去の誤謬の訂正の3つです。このうちの過去の誤謬の訂正がどのようなケースで生じ得るのかについて、各企業の関心が高いようです。

過去の財務諸表における誤謬が発見される場合ですが、会計処理上の誤謬が発見される場合は、相当限定的であると思われます。なぜならば、事業年度ごとに監査法人の監査を受けていて、会計処理の適切性についてもチェックが行われているからです。例えば、過去の財務諸表における引当金の計上不足、減損損失の計上漏れ・計上不足等が事後的に発見されるようなことは極めて例外的かと考えられます。

しかし、税務調査の結果、税法上の過去の所得計算、税額計算の誤りを指摘され、修正申告に応じたり、更正処分を受けるような場合は、決して少なくありません。その場合は、過去の財務諸表における法人税等の過少計上を意味することになります。

過去の法人税等の過少計上は誤謬に該当するのか?

過去の法人税等の過少計上が、過年度遡及会計基準における誤謬に該当するのかどうかについては、次のように考えられます。すなわち、過去の法人税等の過少計上が「誤謬に起因」しているのであれば、過年度遡及会計基準における誤謬に該当するものと考えられます。この点について、日本公認会計士協会から公表されている監査・保証実務委員会実務指針第63号「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」(最終改正・平成23年3月29日)では、次のように記述されています。

法人税等の更正、決定等による追徴税額及び還付税額は、過年度遡及会計基準及び過年度遡及適用指針に基づき処理することになる(過年度遡及会計基準第55項参照)。なお、これらが過去の誤謬に起因するものでない場合には、損益計算書上、「法人税、住民税及び事業税」の次にその内容を示す名称を付した科目をもって記載する。ただし、これらの金額の重要性が乏しい場合には、「法人税、住民税及び事業税」に含めて表示することができる。(以下略)

過去の誤謬に起因するものか、しないものかの判断

税務調査の指摘により、法人税等の追徴税額や還付税額が発生した場合に、「誤謬に起因」するものなのかどうかについて、どのように考えるべきであるかが問題となります。

税務調査の結果、法人税等の追徴税額が発生するケースでは、企業(納税者)側の法令の見落とし、法令の適用誤り、法令の解釈上の誤りに起因している場合が多いと考えられます。その場合は、過去の財務諸表における法人税等が過少計上となっていて、かつ、それが誤謬に起因していることから、重要性が乏しい場合を除いて、遡及適用による修正再表示が必要になるものと解されます。また、重要性の判断については、金額的重要性と質的重要性の双方を勘案して、判断することになると考えられます。

見解の相違の場合の取扱いは?

税務調査により指摘される場合において、「見解の相違」であると主張される場合があります。国税当局と納税者との間で解釈が異なるケースをそのように言います。この見解の相違の場合ですが、それが実質的な意味において見解の相違であり、どちらの主張が正しいのかが最終的に裁判所により判断される場合があるわけです。そのように実質的な意味において見解の相違であると認められる場合は、誤謬に該当しないものと考えられます(その場合は、遡及適用はしません)。

ただし、企業が見解の相違と言っているだけでは不十分であり、実質的な意味において見解の相違である必要があると考えられます。従って、双方の主張を総合的に判断する必要があるように思われます。

過去の損失が発見された場合の税務上の対応

過去の財務諸表における費用の過少計上が発見されたものとします。その費用が税務上損金算入されるものであるものとします。税務調査を契機として、そのような過去の所得の過大計上が指摘されることはまず考えにくいですが、企業が発見したものとします。それが重要な誤謬に該当し、過去に遡及適用するものとします。

そのような場合の税務上の対応ですが、税務申告は各事業年度の確定した決算に基づいて行われるものであり、過年度遡及会計基準の適用により遡及適用をしたとしても、原則として過去の計算書類の確定・未確定に影響しないため、税務上の対応は従来どおりになると考えられます。すなわち、更正の請求期限内であるときは「更正の請求」を行い、更正の請求期限を経過しているときは「更正の嘆願」を行います。監査法人(または公認会計士)の会計監査を受けている企業の場合は、基本的に仮装経理は考えられないので、減額更正を受けた場合には過大に納付した税金の還付を受けることになります。

申告書別表の記載方法は?

減額更正を受けた場合、過納税額の還付が行われますが、その一方において減額更正のあった日の属する事業年度の申告書別表5(1)の期首現在利益積立金額にマイナスを入れる処理が必要になると考えられます。なぜならば、過去の財務諸表に遡及適用して修正再表示した場合でも、その時点では税務上の利益積立金額は変動しないので、別表5(1)の繰越損益金にマイナス、別表5(1)の別区分に「未更正に係る調整額」のような名称でプラスの調整を入れておくことが考えられます。減額更正が認められた場合は、過去の事業年度における所得の減額が認められたことになるので、過去から当期にそのマイナスの利益積立金額が繰り越されてきたと考えるべきであり、「未更正に係る調整額」のプラスと相殺関係になり、ちょうどチャラになると考えられます。従って、減額更正が行われなかった場合は、会計上の利益剰余金と税務上の利益積立金額の不一致(=未更正に係る調整額)が残ることになると考えられます。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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