1. 経緯

中小企業に係る会計処理については、かつては「中小企業の会計に関する研究会報告書」(中小企業庁 平成14年6月)、「中小会社会計基準」(日本税理士会連合会 平成14年12月)、「中小会社の会計のあり方に関する研究報告」(日本公認会計士協会 平成15年6月)がありました。

その後、会社法成立を契機として、統一的な会計処理の指針を作成するものとして、日本公認会計士協会、日本税理士連合会、日本商工会議所及び企業会計基準委員会の4団体により「中小企業の会計に関する指針」(以下、「中小指針」)が平成17年8月に公表され、毎年改訂されています。

この中小指針の目的として、中小企業が計算書類の作成にあたり、拠ることが望ましい会計処理や注記等を示すものであること、特に会計参与設置会社が計算書類を作成する際には本指針によることが適当であるとされています。

しかしながら、中小指針は中小企業向けとされつつも、「望ましい会計処理や注記等を示すもの」「一定の水準を保ったもの」とされているため、有価証券の評価や退職給付会計、税効果会計など、公認会計士監査を受けている企業等で要求される企業会計の基準が多く取り入れられています。

そのため、多くの中小企業にとっては高度かつ複雑、経営者が理解しにくい、商慣行や会計慣行の実態に必ずしも即していないとの指摘がありました。

そこで、さらに簡便な会計処理、実際に行われている会計処理に近い新たな区分の指針を求める意見がありました。

(表)会社の分類と適用される会計基準
区分 会社数 連結 単体
上場会社 約3,900社 日本基準 日本基準
①金商法開示企業(上場企業以外) 約1,000社
②会社法大会社(上記以外で資本金5億円、又は負債総額200億円以上) 約10,000社 作成義務なし
③上記以外の株式会社 約260万社
中小指針
新たな区分の指針
(注)平成22年3月26日の企業会計審議会総会の資料を基に作成

2. 中小企業の会計に関する基本要領(案)

平成22年8月に公表された「非上場会社の会計基準に関する懇談会」(企業会計基準委員会等の民間団体が設置)の報告書、及び平成22年9月に公表された「中小企業の会計に関する研究会」(中小企業庁が設置)中間報告書においては、中小企業の実態に即した新たな中小企業の会計処理のあり方を示すものを取りまとめるべき等の方向性が示されました。 この両報告書を受け、平成23年2月、中小企業関係者等が主体となって「中小企業の会計に関する検討会」が設置され、平成23年11月に「中小企業の会計に関する基本要領(案)」(以下「要領(案)」)が公表されました。

要領(案)では、実際の中小企業で行われている処理に即して、次のような考えに立って作成されたとしています。

  • 中小企業の経営者が活用しようと思えるよう、理解しやすく自社の経営状況の把握に役立つ会計
  • 中小企業の利害関係者(金融機関、取引先、株主等)への情報提供に資する会計
  • 中小企業の実務における会計慣行を十分考慮し、会計と税制の調和を図った上で会社計算規則に準拠した会計
  • 計算書類等の作成負担は最小限に留め、中小企業に過重な負担を課さない会計

総論では「複数ある会計処理方法の取扱い」「記帳の重要性」「その他の留意すべき考え方」の各項目において、企業会計原則で示されている「真実性の原則」「正規の簿記の原則」「資本取引・損益取引区分の原則」「明瞭性の原則」「継続性の原則」「保守主義の原則」「単一性の原則」が明記されており、一般に公正妥当な企業会計の処理を踏まえていることを明示しています。

個別の処理は各論で取り上げられていますが、会計用語はできるだけ避けて、わかりやすい表現を使用しつつ、会社計算規則に準拠した計算書類等が作成可能なように配慮しており、中小指針との具体的な会計処理の違いとしては、下記のようなものがあります。

項目 要領(案) 中小指針との比較
有価証券 原則として取得価額で計上。
売買目的の有価証券は時価で計上
評価方法は、総平均法、移動平均法等による。
著しく下落した時は回復の見込みがあると判断した場合を除き、評価減を計上する。
保有目的の観点から4つに分類して評価する旨は明示していない。
売買目的以外は取得価額で評価できることとしている。(中小指針では「市場価額のある株式を大量に保有している場合は時価評価」)
棚卸資産 原則として、取得価額で計上
評価基準は、原価法又は低価法
評価方法は、個別法、先出先入れ法、総平均法、移動平均法、最終仕入原価法、売価還元法等による。
著しく下落した時は回復の見込みがあると判断した場合を除き、評価減を計上
中小指針では、評価基準は「時価が簿価より下落し、金額的重要性がある場合には、時価を持って貸借対照表価額」とされる。
中小指針では、評価方法のうち最終仕入原価法は著しい幣害が無い場合のみ使用できるとされている。
リース取引 借手は、賃貸借取引又は売買取引に係る方法に準じて会計処理を行う。 中小指針で記載されている「所有権移転外ファイナンスリース取引」の用語は使っておらず、いずれの方法も可能な記載振りとなっている。
収益費用の基本的な会計処理 収益は原則として製品商品の販売又はサービスの提供を行い、かつ、これに対する現金及び預金、売掛金、受取手形等を取得した時に計上する
費用は原則として費用の発生原因となる取引の発生又はサービスの提供を受けた時に計上する。
収益とこれに関連する費用は両者を対応させて期間損益を計算する。
収益及び費用は原則として総額で計上する。
実現主義と発生主義という用語を会計処理の説明箇所には記載せず、解説のみで触れている。

この他、中小指針で触れられている税効果会計や組織再編の会計(企業結合会計及び事業分離会計)については、要領(案)では触れられていません。

なお、各論で示していない会計処理等の取扱いについては、企業の実態に応じて、企業会計基準、中小指針、法人税法で定める処理のうち会計上適当と認められる処理、その他一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行の中から選択して適用する、としており、税効果会計等を採用することも可能なように配慮されています。

さらに、様式集として、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書(横形式、縦形式)、個別注記表、製造原価明細書、販売費及び一般管理費の明細が付けられ、利用の便宜が図られています。

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