業種別会計
ソフトウェア業

第4回:受注制作のソフトウェアの収益認識基準(進行基準)と受注損失引当金

2016.11.04
新日本有限責任監査法人 ソフトフェアセクター
公認会計士 松川拓郎

1. 適用する会計基準

受注制作のソフトウェアの制作費の会計処理及び収益認識にあたっては、「工事契約に関する会計基準(以下、工事契約会計基準)」の適用対象となります。

工事契約会計基準は工事契約に関して、施工者における工事収益及び工事原価の会計処理ならびに開示に適用されます。工事契約とは、仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、土木、建築、造船や一定の機械装置の製造等、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うもの、とされています。

この点、受注制作のソフトウェアの制作費は、「研究開発費等に係る会計基準」四1において請負工事の会計処理に準じて処理されると規定されていることから、工事契約に準じて工事契約会計基準を適用することになります(工事契約会計基準32項)。

2. 基本的な会計処理

工事契約会計基準には、主として、「工事契約に関する収益認識基準」と「工事契約から損失が見込まれる場合」の取扱いが定められています。その概要は以下のとおりです。

項目 会計処理
工事契約に係る収益認識基準 成果の確実性あり:工事進行基準
成果の確実性なし:工事完成基準
工事契約から赤字が見込まれる場合 工事損失引当金を計上

(1)工事契約に係る収益認識基準

工事契約会計基準では、成果の確実性が認められる場合は工事進行基準、成果の確実性が認められない場合は工事完成基準を適用することとなり、工事契約の収益認識基準は選択適用ではなく、成果の確実性の有無でいずれの収益認識基準を適用するかが判断されます。

なお、成果の確実性が認められる場合とは、以下の3要素について、信頼性をもって見積ることができる場合をいいます。

成果の確実性が認められる場合 以下の3要素を信頼性をもって見積もることができる場合
a. 工事収益総額
b. 工事原価総額
c. 決算日における工事進捗度

【成果の確実性が認められる場合】

工事契約会計基準では、成果の確実性が認められる場合には進行基準を適用することになりますが、成果の確実性が認められる場合の前提として、まず、対象となる契約には実体がなければならず、形式的に契約書が存在しても、容易に解約されてしまうような場合は、契約の実体があるとはいえません。契約の実体があるといえるためには、契約が解約される可能性が少ないこと、又は、仮に制作途上で契約が解約される可能性があったとしても、解約以前に進捗した部分については、それに見合う対価を受け取ることの確実性が存在することが必要となります。

この前提の上で、成果の確実性が認められるためには、決算日までの工事の進捗が最終的に対価に結び付き、かつ、以下の3要素について、信頼性をもって見積ることができなければなりません。

a. 収益総額の信頼性をもった見積り

工事契約会計基準では、工事収益総額とは、工事契約において定められた、施工者が受け取る対価の総額とされています。「信頼性」をもって収益総額を見積るためには、受注制作のソフトウェアについて、対価の定めがあることが必要となります。

「対価の定め」とは、以下の3項目に関する定めをいいます。

対価の定め
  • 当事者間で実質的に合意された対価の額に関する定め
  • 対価の決済条件
  • 決済方法

ただし、この前提として、当該工事を完成させるに足りる十分な能力があること、完成を妨げる環境要因が存在しないことが必要となります。

b. 原価総額の信頼性をもった見積り

工事原価総額は、工事契約に着手した後もさまざまな状況の変化により変動することが多いという特徴を有します。このため、信頼性をもって工事原価総額の見積りを行うためには、こうした見積りが工事の各段階における工事原価の見積りの詳細な積み上げとして構成されているなど、実際の原価発生と対比して適切に見積りの見直しができる状態となっていることが必要です。また、工事原価の事前の見積りと実績を対比することによって、適時・適切に工事原価総額の見積りの見直しが行われる必要があります。この条件を満たすためには、当該工事契約に関する実行予算や工事原価等に関する管理体制の整備が不可欠です(工事契約会計基準12項、50項)。

なお、受注制作のソフトウェアについては、無形の資産であり、かつ技術革新により取引が多様化・高度化しており、以下のような特徴があるため、適切な原価総額の見積りが困難な場合も少なくありません。

  • 当初に仕様の詳細まで詰められていない場合がある
  • 制作途上での仕様変更が頻繁に行われる場合も少なくない
  • 想定外の事象の発生等により追加的な工数が生じやすい

そのため、工事契約会計基準は、このような受注制作のソフトウェアの特質や取引慣行を踏まえた上で、原価総額の見積りが容易でないことに着目し、原価の発生やその見積りに対して「より高度な管理」を求めています。

「より高度な管理」といえるためには、少なくとも工事契約会計基準があげている上記の特徴への対応が求められ、例えば、以下のような対応が考えられます。

  • 契約単位の細分化

ソフトウェア制作の各段階において、契約を分割して締結する多段階契約を積極的に取り入れることが考えられます。契約の単位を小さく設定することによって、迅速かつ比較的容易にユーザーと合意できるためです。

あるいは、仕様を確定するための上流工程や、変更の可能性が高いソフトウェア制作などについては成果物の完成義務を負わず、期間や工数に応じて対価を受け取る形式の契約とするといった、取引慣行を変えていく取組みも考えられます。

  • 見積原価と実際発生原価のモニタリング及び適時の原価見直し

見積原価と実際発生原価の差異分析とモニタリング、及び見積原価の適時の見直しが必要になります。モニタリングを月次で行うことも1つの対応と考えられます。

なお、見積原価の精度の確保という観点からは、ソフトウェア制作全体の作業内容を細分化しておくことも有効です。WBS(ワーク・ブレイクダウン・ストラクチャー。作業分解図)に代表されるように、ソフトウェア制作を作業ごとに階層化して細分化することで、実施する作業内容を詳細かつ明確化することが可能となり、その結果、作業内容に重複やブレが生じなくなる上に、工数やコストの見積精度が高まることが期待できるためです。さらに、細分化された作業内容に標準工数を設定することも有効と考えます。

このように作業内容を細分化することにより、完了した作業単位がソフトウェア制作の進捗度に近似することになると考えられるため、実際の原価発生と進捗度の関係が把握しやすくなり、原価管理の精度を高める上で有効と考えます。

c. 決算日における進捗度の信頼度をもった見積り

工事契約会計基準では、決算日における工事進捗度は、工事契約に係る認識の単位に含まれている施工者の履行義務全体のうち、決算日までに遂行した部分の割合とされています。 従って、決算日における進捗度は、施工者が工事契約の義務を履行するために、単に目的物を完成させるだけでなく、その移設や据付等、引渡しのための作業が必要となる場合には、そのような付随的な作業内容を含む施工者の履行義務全体のうち、決算日までに遂行した部分の割合をいいます。

工事契約会計基準では、原価比例法を採用している場合、工事収益総額、工事原価総額について、信頼性をもって見積ることができていれば、通常、決算日における工事進捗度も信頼性をもって見積ることができる、とされています。

原価比例法は実務的に広く用いられています。しかし、原価比例法以外の方法の方が決算日における進捗度をより合理的に把握できる場合も考えられます。

また、原価比例法による場合であっても、発生した原価が原価総額との関係で、決算日における進捗度を合理的に反映しない場合には、これを合理的に反映するように調整が必要となります。

なお、工事契約会計基準では、原価比例法以外の方法として、以下の例があげられています。

  • 直接作業時間比率を用いる方法
  • 施工面積比率を用いる方法

原価比例法以外の方法を採用する場合は、決算日における進捗度を、契約や作業の実態に即して、より適正に表す方法は何かを慎重に検討し、採用することが必要となります。

(2)工事契約から赤字が見込まれる場合

工事契約会計基準では、工事損失の発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができる場合には、工事契約の全体から見込まれる工事損失(販売直接経費を含む)から、当該工事契約に関してすでに計上された損益の額を控除した残額、すなわち、当該工事契約に関して、今後見込まれる損失の額について、工事損失引当金を計上する、とされています。なお、工事契約会計基準では、工事損失引当金という名称が使われていますが、ソフトウェア業では受注損失引当金という名称が一般的と考えられますので、以下では、受注損失引当金という名称を使用しています。

受注損失引当金は、進行基準、完成基準いずれを適用している場合でも損失が見込まれる場合は計上されることとなり、作業の進捗や完成・引渡しにより、契約損失が確定した場合又は契約損失の今後の発生見込額が減少した場合には、それに対応する額を取り崩すこととなります。

また、受注損失引当金の繰入額は売上原価に含め、受注損失引当金の残高は、貸借対照表の流動負債として計上することとなります。

工事契約会計基準において、工事進行基準の適用要件として工事収益総額と工事原価総額を「信頼性をもって見積もることができる」ことが求められています。工事損失引当金の「合理的」と工事進行基準の「信頼性をもって」は、見積りという点では類似の要素を含んでいます。

しかしながら、工事契約会計基準においては、「信頼性をもった見積り」といえるためには、見積りが工事の各段階における工事原価の見積りの詳細な積上げとして構成されている等、実際の原価発生と対比して適切に見積りの見直しができる状態となっており、工事原価の事前の見積りと実績を対比することによって、適時・適切に工事原価総額の見積りの見直しが行われる必要があるとされています。すなわち、「信頼性をもった見積り」を確保するためには、工事契約に関する実行予算や工事原価等に関する管理体制の整備が不可欠である、とされています。

また、工事契約会計基準では、信頼性をもって工事収益総額の見積りを行うためには、工事契約において当該工事についての「対価の定め」があることが必要とされています。

一方、受注損失引当金については、上述の原価管理に係る整備、運用状況が十分でなくても、また、「対価の定め」がなくても、引当金の要件に該当する場合には計上が求められています。

進行基準の要件である「信頼性をもった見積り」は制作途上のプロジェクトについて収益を計上する要件であり、受注損失引当金繰入額という費用の計上要件である「合理的な見積り」よりもより厳格さが求められると考えられます。

受注損失引当金を計上できる見積りができる場合であっても、進行基準を適用できるレベルの見積りができる、とは必ずしも言えないことにご留意ください。


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