業種別会計
ソフトウェア業

第2回:市場販売目的のソフトウェア(制作費の処理、減価償却)

2016.11.04
新日本有限責任監査法人 ソフトフェアセクター
公認会計士 西岡暢亮

1. 市場販売目的のソフトウェアとは

市場販売目的のソフトウェアについては、関連する会計基準において、以下のように説明されています。

会計基準等 市場販売目的のソフトウェアに関する説明
研究開発費等会計基準の設定に関する意見書 製品マスター(複写可能な完成品)を制作し、これを複写したものを販売するソフトウェア
ソフトウェア収益実務対応報告 不特定多数のユーザー向けに開発したソフトウェアの販売やライセンス販売(ライセンスの使用を許諾し使用料を得る契約)するソフトウェア

すなわち、市場販売目的のソフトウェアは、以下の3つの特徴を有するソフトウェアといえます。

市場販売目的のソフトウェア ⅰ)製品マスターを制作し、
ⅱ)これを複写したものを、
ⅲ)不特定多数のユーザー向けに販売する目的で制作したソフトウェア

具体例としては、以下のようなものがあげられます。

  • 汎用の表計算ソフトウェア、ワープロソフトウェア、プレゼンテーションソフトウェア
  • パッケージ・ソフトウェアとして販売されている財務会計ソフトウェアや営業管理ソフトウェア等の業務管理ソフトウェア
  • パソコンの基本ソフトウェア(オペレーションシステム)等

また、市場販売目的のソフトウェアの販売形態には、記録媒体に複写して販売する場合、ウェブサイトからのダウンロード等により販売する場合等様々な形態がありますが、販売形態に関らず、前述の3つの特徴を有するソフトウェアは、すべて市場販売目的のソフトウェアに分類されます。

本稿では、市場販売目的のソフトウェアの制作費に関する会計処理及び減価償却について解説します。

2. 市場販売目的のソフトウェアの制作費に関する会計処理

(1)ソフトウェア制作費の処理

市場販売目的のソフトウェアの制作過程は、製造業(メーカー)における一般的な工業製品の開発の場合と同様に、大きく研究開発活動とソフトウェア製品の制作活動に区分されます。この制作過程で発生した費用のうち、研究開発活動の終了までに発生した費用は研究開発費として発生時に費用処理され、研究開発終了後の制作活動において発生した費用は「ソフトウェア」等の科目で無形固定資産として資産計上されることとなります。

研究開発終了後に発生した製品マスターの制作費を、棚卸資産ではなく無形固定資産として処理する理由としては、製品マスターは、法的権利(著作権)を有しており、それ自体が販売の対象物ではなく、機械装置等と同様にこれを利用(複写)してソフトウェア製品を制作すること等があげられます。

(下の図をクリックして拡大)

ソフトウェア制作費の処理
費用発生のタイミング 会計処理
研究開発活動 研究開発費として発生時に費用
制作活動 ソフトウェア製品完成前
  • ソフトウェア仮勘定(無形固定資産)として資産計上
  • 重要性がない場合にはソフトウェアに含めて処理
ソフトウェア製品完成後 内容により、ソフトウェア(無形固定資産)として資産計上、研究開発費や修繕費等として費用処理

(2)研究開発活動の費用に係る会計処理

研究開発費と認定された制作費については、発生時の費用とし処理されます。計上区分としては、原則として一般管理費として処理されますが、一定の場合には、当該制作原価として処理する方法も認められています。

(3)ソフトウェア製品完成後の改良・強化のための費用の会計処理

製品マスターの機能の改良・強化を行うための費用は、製品マスターの資産価値を高める支出であるため、原則として資産計上されます。ただし、機能の改良・強化が、製品マスターの「著しい改良」に該当する場合は、当該支出は研究開発費とされ、発生時の費用として処理されます。これは、外部から購入した市場販売目的のソフトウェアに対して、機能の改良・強化を行う場合も同様です。

また、バグ取り等の支出は、製品マスターの機能維持のための支出であり、資産価値を高めるものではないため、発生時に費用として処理されることとなります。

(下の図をクリックして拡大)

ソフトウェア製品完成後の改良・強化のための費用の会計処理

3. 市場販売目的のソフトウェアの減価償却

資産計上されたソフトウェアは、製品マスターそれ自体が販売対象物ではなく、これを利用(複写)した製品が販売されていくことになります。収益は複写された製品が販売されることにより計上され、この収益に製品マスターの制作費を費用として対応させるために、ソフトウェアの減価償却を行っていく必要があります。

「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」に基づく、市場販売目的のソフトウェアの減価償却の方法をまとめると以下のとおりとなります。

(1)減価償却の方法

市場販売目的のソフトウェアに関する合理的な減価償却方法としては、以下の2つの方法があります。

  • 見込販売数量に基づく方法
  • 見込販売収益に基づく方法

これらは、ソフトウェアの総見込販売数量(収益)を見積り、当年度の実績販売数量(収益)と当年度末の見込販売数量(収益)の合計に対する当年度の実績販売数量(収益)の割合分だけ減価償却費を計上する方法です。

市場販売目的のソフトウェアは、他の固定資産のように、間接的に収益獲得に貢献するものではなく、その製品マスターの複写物が販売されることで収益がもたらされることから、ある程度収益との直接的な関係を見出すことができます。そのため、基本的には、その見込販売数量(収益)に基づき減価償却計算を行うこととされています。

見込販売数量に基づく方法は、販売可能期間にわたって販売価格に変動が小さいと予想される製品に適し、見込販売収益に基づく方法は、販売が進むにつれて販売価格が下落すると予想される製品に適した方法といえます。

複数種類のソフトウェアを販売している場合で、それぞれ収益獲得の態様が異なるような場合には、個々のソフトウェアの収益獲得状況に応じて、いずれかの償却方法を採用することも考えられます。

また、どちらの方法を採用するにしても、毎期の減価償却額は、見込販売数量(収益)に基づく減価償却額と残存有効期間(販売可能期間)に基づく均等配分額とを比較し、いずれか大きい額を計上することになります。残存有効期間については、見込販売数量(収益)の見積りの困難性により、償却期間がいたずらに長期化することを防止するために、原則として3年以内の年数とされ、3年を超える年数とするときには、合理的な根拠に基づくことが必要とされています。

〈減価償却のポイント〉

減価償却の方法

見込み販売数量に基づく方法か、見込販売収益に基づく方法かのいずれかを適用

留意点(その1)

毎期の減価償却費は、以下のうちいずれか大きい額を計上
  • 見込販売数量(収益)に基づく減価償却額
  • 残存有効期間に基づく均等配分額

留意点(その2)

償却年数は原則として3年以内、3年を超える場合は合理的な根拠が必要

(2)見込販売数量の見直し

市場販売目的のソフトウェアに係る将来の見込販売数量(収益)については、競合製品の登場、顧客ニーズの変化等により、時の経過とともに変動することが一般的です。従って、減価償却計算にあたっては、見込販売数量(収益)の妥当性について、毎期見直し、検討を行う必要があります。

見直しの結果、見込販売数量(収益)の変更が必要になった場合には、減価償却費の補正計算を行うこととなります。

なお、見込販売数量(収益)の見直しの結果、将来の見込販売収益が未償却残高を下回った場合には、その差額を費用又は損失として計上する必要があることにご留意ください。

(3)具体的な会計処理例

市場販売ソフトウェアの減価償却に係る具体的な会計処理を以下で解説します。

  • 前提条件
ⅰ)無形固定資産として計上されたソフトウェアの制作費の総額 150,000千円
ⅱ)当該ソフトウェアの見込有効期間 3年
ⅲ)販売開始時における総見込販売数量及び総見込販売収益
  各年度の見込販売数量 販売開始時(初年度)の総見込販売数量及び各年度の期首の見込販売数量 各年度の見込販売単価 各年度の見込販売収益 販売開始時(初年度)の総見込販売収益及び各年度の期首の見込販売収益
初年度
560

1,600
千円
240
千円
134,400
千円
336,000
2年度 700 1,040 220 154,000 201,600
3年度 340 340 140 47,600 47,600
(注)販売が進むにつれ販売価格は下落するものと仮定している。

ⅳ)販売開始時における見込みどおりに各年度の販売数量、販売収益が計上されるものとする。また、見込有効期間にも変更がないものとする。

<計算例及び会計処理>

1. 見込販売数量に基づく減価償却方法を採用した場合

  各年度の実績販売数量 販売開始時(初年度)の総見込販売数量及び各年度の期首の見込販売数量 見込販売数量に基づく減価償却額
(A)
残存有効期間に基づく均等配分償却額
(B)
各年度の減価償却実施額
(A)、(B)いずれか大きい額
各年度期首の未償却残高
初年度
560

1,600
千円
52,500
千円
50,000
千円
52,500
千円
150,000
2年度 700 1,040 65,625 48,750 65,625 97,500
3年度 340 340 31,875 31,875 31,875 31,875

[ 計算方法 ]
見込販売数量に基づく減価償却額(A)と各期の均等配分額(B)を比較します。その結果、すべての年度で見込販売数量に基づく減価償却額(A)が各期の均等配分額(B)以上になっていますので、見込販売数量に基づく減価償却額が、各期の減価償却額となります。

(下の図をクリックして拡大)

計算方法
(初年度)
(借)ソフトウェア減価償却費 52,500 (貸)ソフトウェア 52,500
(2年度)
(借)ソフトウェア減価償却費 65,625 (貸)ソフトウェア 65,625
(3年度)
(借)ソフトウェア減価償却費 31,875 (貸)ソフトウェア 31,875

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