業種別会計
不動産業

第3回:不動産賃貸業の事業と会計の特徴

2016.12.19
新日本有限責任監査法人 不動産セクター
公認会計士 阿部徳仁/大場健司/村上和典

4.不動産賃貸業の事業上のリスク

不動産賃貸業における事業上のリスクとしては、次の点が挙げられます。

(1) 不動産市況の変動リスク

不動産賃貸業においては、多額の不動産を所有することが多いため、不動産市況における価格変動の影響を大きく受けます。国内外のさまざまな要因による景気変動に合わせて不動産市況が悪化することも想定され、また賃貸市場の空室率などによる賃料相場の動きにも注意が必要です。従って、不動産市況を適時適切に把握して、相場の状況に応じたテナントリーシング(賃料、期間、普通借家契約か定期借家契約か)の適切な意思決定をしていく必要があります。

(2) 不動産関連規制の変更リスク

不動産賃貸業においては、前述のように多くの規制に従うとともに、規制上のリスクを伴って業務を遂行しています。従って、普段から関連する法規制については十分に理解し、将来、法令や規則、政策、実務慣行および解釈などの変化が予測されれば、発生する事態をいち早く想定し、対応策を検討できる体制を整える必要があります。

(3) リファイナンスリスク

不動産を所有するに当たり、借入金等の有利子負債を活用した資金調達をすることが多く、返済期限が到来した借入金等に対する返済財源を持たない場合には、借り換えなどにより資金の再調達をする必要があります。しかし、信用収縮が起こると金融機関から高い金利を要求され、借り換えに応じてもらえない可能性があります。従って、借入期間の長期化、および返済期限の分散化を図ることでリスクを低減する必要があります。

(4) 金利変動リスク

不動産を所有するに当たり、借入金等の有利子負債を活用した資金調達をすることが多いため、政策等により資金の需給バランスが崩れ、金利の上昇等が生じた場合における業績への影響は大きくなります。従って、金利の上昇等によるリスクを回避するための社内管理体制を整え、安定的な資金調達計画(金利の固定化、借入期間の長期化)を策定することが必要となります。

(5) 天災・人災リスク

不動産賃貸業においては、多額の固定資産を所有することが多いため、地震、洪水、暴風雨などの自然災害や気候変動のほか、事故、火災、戦争、暴動、テロなどの人災等が発生した場合には、所有不動産の毀損(きそん)等により影響を大きく受けます。従って、建物等の耐震性を高めたり、損害保険等を活用したりするなど、リスク回避を図ることが必要となります。

5.不動産賃貸業の業務の流れ

(1) 賃貸する物件の取得または建築

賃貸する物件の取得または建築については、通常の固定資産の取得と大きく変わるところはありません。

(2) テナントの獲得・契約

空室物件の取得や新築の場合には、入居するテナントを決める必要があります。賃貸マンションの場合には、建物を建ててからテナントを募集する「公募方式」によることが一般的と考えられますが、オフィスビルや商業施設の場合には、建物を建てる前にテナントを決めておく「誘致方式」によることもあります。テナントが決まったら賃貸借契約を取り交わし、敷金・保証金などを収受して、テナントが入居し、賃貸が始まります。また、テナント獲得に当たっては仲介手数料や広告料などの費用が発生します。

(3) 賃貸・賃料の収受・管理

テナントが入居すれば、後は賃貸借の契約条件に従って、毎月、賃貸料や共益費を収受します。事務所や住宅の普通賃貸借期間は一般的に2年程度と考えられますが、商業施設等の賃貸で、テナントの仕様に合わせて建設した建物などについては、賃貸借期間は長くなる傾向にあります。また、賃料の決定には、毎月一定額を収受する固定賃料と、最低保証額を設けるとともにテナントの売上高等に応じて歩合の家賃を収受する変動賃料があります。事務所や住居については、固定賃料による場合が一般的であると考えられる一方、商業施設においては、店舗内での売り場の導線などによってテナントの売上が左右されることから、変動賃料を含む契約(*)が多いものと思われます。

賃料の回収方法は、住宅家賃は通常1カ月分を前受けするのが一般的です。店舗で特に売上歩合の場合には、テナントの売上を把握する必要もあることから、テナントの日々の売上高をいったんオーナーが預かり、後日、家賃と共益費を控除して払い戻すという方法もあります。

(*)商業施設における変動賃料の契約例

  • 最低保証付歩合家賃:実際売上高に歩率を乗じる売上歩合家賃と基準売上高を設定した最低保証家賃で構成されるもの
  • 最低保証付逓減歩合家賃:売上歩合は基本歩率を設定し、最低保証のリスクをテナントが負う代わりに、一定の売上高を超えた額に歩率を軽減する措置を取るもの
  • 単純歩合家賃:売上に対する歩率を単純に設定するもの
  • 固定家賃+売上歩合家賃型:固定家賃は売上に関係なく設定され、また、売上歩合家賃から固定家賃部分は除かれないもの

(4) 契約満了・精算

賃貸借契約には普通借家契約と定期借家契約があり、当初定めた契約期間が満了した場合の取り扱いが異なります。

まず、普通借家契約(普通建物賃貸借契約)は、当初の契約期間が満了しても、更新料などの支払いとともに契約期間を更新することができ、更新しなければ契約終了・退去となります。

一方、定期借家契約(定期建物賃貸借契約)は、契約の更新がない賃貸借契約であるため、当初の契約期間が満了すれば、原則として、その時点で退去となります。ただし、借手と貸手で合意すれば、再契約をすることが可能です。

また、テナントは一般的に、契約により物件の原状回復義務を負うと考えられます。借手が施した内部造作をそのままにして退去する場合などには、敷金から原状回復費用を差し引いて返還します。

6. 不動産賃貸業の会計処理の特徴

通常の賃貸借契約について、前述の取引の流れに沿って解説すると、次のようになります。

(1) 賃貸する物件の取得または建築

これについては、通常の固定資産の取得等の処理を行います。

(借)固定資産××× (貸)現預金又は未払金×××

(2) テナントの獲得・契約

テナントの獲得においては、通常、不動産仲介業者などを通すため、仲介手数料や広告料などがかかると考えられます。

(借)仲介手数料××× (貸)現預金又は未払金×××
 広告宣伝費×××  

テナントが決まり、賃貸借契約が締結されると、敷金・保証金と前払家賃を収受します。

(敷金と前受家賃の受領時の仕訳例)

本ケースは月決めの固定賃料で、前払いを前提とします。

(借) 現預金 ××× (貸) 預り敷金×××
    前受賃料×××

(3) 賃貸・賃料の収受・管理

テナント入居後は、毎月、賃料を収受するとともに、必要経費が支払われます。これら必要経費は賃貸原価となります。

(収益の振替仕訳例)

(借)前受賃料××× (貸)賃貸収益×××

(賃貸原価発生時の仕訳例)

(借) 減価償却費 ××× (貸) 減価償却累計額 ×××
  管理費 ×××   未払金 ×××
  固定資産税 ×××      
  水道光熱費 ×××      

(4) 契約満了・精算

解約・退去時には原状回復費用を差し引いて敷金を、また保証金をテナントに返還します。

(返還時の仕訳例)

(借)預り敷金××× (貸)立替金(原状回復)×××
     現預金×××