業種別会計
医薬品業

第3回:医薬品卸売業の会計処理の特徴

2017.05.18
新日本有限責任監査法人 ライフサイエンスセクター
公認会計士 小川浩徳/柏木 都/片上真理子/塚本大作

1.医薬品卸売業界の特徴

【医薬品の特性】

医薬品は多品種少量生産であり、かつ直接、生命に関連する商品のため、安定供給が要求されます。製造から仕入、保管、配送、販売、使用に至るまで、薬機法をはじめ、各種の厳しい法的規制の対象となっています。

【医薬品流通の特質】

医薬品は、その商品特性上、医薬品卸企業が流通を担います。医薬品卸企業が加盟する「日本医薬品卸業連合会」によると、以下の通り定義されています。

(1)品質や有効性・安全性を確保する
(2)安全かつ安定的供給を行う
(3)多種多様性に対応する
(4)専門的知識・能力を持つ
(5)医薬品情報を収集・提供する
(6)迅速・的確に供給する
(7)経済的・効率的に供給する

医療用医薬品は製薬企業から出荷され、そのうち97%が医薬品卸企業を通じて、日本全国で約20万軒以上の病院、診療所、保険薬局などの医療機関等へ販売されています。医薬品卸企業における医薬品の市場規模は、8兆8,700億円(2015年)となっています。一方、一般用医薬品の市場規模は6,400億円(2015年)で、そのうち約半分が医薬品卸企業を通じて薬局、薬店へ販売されています。

図

第3回では、医薬品卸企業の医療用医薬品の流通について、次の解説をします。

  • 医薬品卸売業の特徴、仕組み
  • 会計処理の特徴:仕入に係る特徴、売上に係る特徴

(1) 流通の仕組みと卸の機能

医薬品卸企業の機能は、大きく次の4つに分けられます。

物的流通機能

仕入機能、保管機能、品揃機能、配送機能、品質管理機能

→温度変化や光の有無など、法的に厳重な管理が必要となる商品も含め、医薬品卸企業は全国の医療機関等から医薬品を受注し、定期および至急配送など、ニーズに合わせて運搬を行います

販売機能

販売促進機能、販売管理機能、適正使用推進機能、コンサルティング機能

→製薬企業のMR(メディカルレプレゼンタティブ、医薬情報担当者)などと協力を行い、医療機関等に対して医薬品の納入価格を個別に設定し、販売を行います

情報機能

医薬品等に関する情報の収集および提供機能、顧客カテゴリーに応じた情報提供機能

→医療施設に訪問するMS(マーケティングスペシャリスト、医薬品卸販売担当者)が中心となり、医薬品情報を医療機関等から収集し、製薬企業等に対して、その情報提供を行います

金融機能

債権・債務の管理を行う機能

→医療機関等は代金が保険請求後に入金されるため、回収に一定期間を必要とします。このため、卸企業は医療機関等に対して、代金回収期間の差異を調整する金融機能としての役割があります

このような流通の仕組みと卸機能の下で、製薬企業と医薬品卸企業、および、医薬品卸企業と医療機関等の間における取引、契約、商慣行などが、会計処理を行う上で留意すべきポイントとなります。

(2) 薬価差と医療費抑制政策

医療用医薬品については、薬価と呼ばれる公定価格が存在し、これが医療機関等から患者に対する販売価格となります。また、薬価は医療機関等における診療報酬の請求単価となります。

製薬企業から医薬品卸企業に対して卸す際に設定された価格は仕切価格と呼ばれ、この仕切価格に医薬品卸企業の利益が上乗せされた金額が納入価格となります。実際には、製薬企業から医薬品卸企業に対してリベートやアローアンスが行われ、医薬品卸企業から医療機関等に対して値引きが行われる結果、市場実勢価格は仕切価格よりも低くなることがあります。

この納入価格と薬価の差額(薬価差)が医療機関等における「薬価差益」となります。薬価差益は、医療機関等の収入源の一つとなってきました。

医療機関等と医薬品卸企業間の取引価格(納入価格)は、薬価を上限として「薬価より、いくら値引きするか」という自由な価格競争の形で決定されます。そもそも、薬価は市場価格主義に基づき、公平かつ客観的に設定されるべきという理念の下、薬価差の解消政策が取られてきました。しかし、医薬品卸企業は医療機関等から値引き要請される環境に置かれており、このような薬価差の発生は避けられないとも考えられます。

また、近年では医療費抑制政策として薬価の引き下げが続く中、製薬企業からの仕切価格の引き下げ幅は抑えられがちである一方、医療機関等との関係では価格競争が激しく、医薬品卸企業に対する値引き要請は一段と強い状況にあるといえます。このように、医薬品卸企業は両者の板挟みとなり、利幅が縮小する傾向にあります。

2.会計処理の特徴

(1)仕入に係る特徴

製品の仕入取引に関して、医薬品卸売業界では次のような特徴があります。

① 薬価の存在と医薬品卸企業の損益構造

医薬品は、製薬企業→医薬品卸企業→医療機関等と流通し、製薬企業から医薬品卸企業への販売単価を仕切価格と呼び、医薬品卸企業から医療機関等へ卸す価格を納入価格と呼びます。

ここで、前述のように売り先である医療機関等からの値引き要請が厳しいこともあり、実際は納入価格が仕切価格を下回り、売買差損が生じる例も少なくありません。このため、医薬品卸企業は製薬企業から受け取るリベートやアローアンスによって、流通マージンを確保している状況ともいわれます。

② 製薬企業からのリベート、アローアンス

薬価引き下げが続く中、一律的な仕切価格の値下げは抑えられがちであり、その代わりとして、製薬企業と医薬品卸企業の間には、①に記載のようにリベートやアローアンスなどの商慣行が存在しています。

(会計処理)
通常、仕入高の控除として仕入相殺処理がなされます。

リベート、アローアンスの区別は支払う側の経理処理の問題であり、両者とも受け取る側にとっては、自社の販売利益や販売価格引き下げの原資となるマージンの一部であり、市場の実態に即した価格形成を促進する効果も持っているものといえます。ゆえに、製薬企業から受け取るリベートやアローアンスは、実質的に仕切価格の引き下げに相当するものと判断し、仕入高から控除する処理が一般的と考えられます。

【仕訳例】

(受取時)

(借)仕入割戻等未収入金○○ (貸)仕入高○○

なお、管理会計上は両者を区分して把握することも多く、リベートを二次差益、アローアンスを三次差益と呼ぶこともあります。

(2)売上に係る特徴

① 仮納入、薬価引き下げと暫定値引き

医療機関等への販売については、医薬品卸企業と医療機関等の間で納入価格交渉が未妥結のまま商品だけが仮納入され、その後に価格交渉を始めるという特殊な取引形態の商慣行も従来、存在してきました。このような商慣行が生まれた背景には、医薬品という商品が直接、生命にかかわるものであるため、社会的観点から納入停滞が許されない、納入を中止できないという事情が考えられます。

近年、各医薬品卸企業は流通改善の取り組みに注力し、仮納入取引が行われている場合でも経済合理性に基づく価格交渉を進め、早期の価格妥結に向けて取り組んでいる状況ですが、薬価改定年度については特に留意が必要と考えられます。

薬価改定は現在2年に1度実施されますが、薬価の引き下げに伴い、医薬品卸企業から医療機関等へ卸す納入価格の交渉も実施されます。「新納入価格」は新年度の4月から適用されるもので、売り先や医薬品の種類により1年契約のものもあれば2年契約のものもあり、その契約交渉状況は、さまざまです。

売り先である医療機関等からの値引き要請が厳しいため、医薬品卸企業における利幅は縮小の傾向にあります。両者の利害は対立する関係にあり、新納入価格の妥結がなされるまでには期間を要することもあります。妥結率(医療機関等が一定期間に購入した医療用医薬品の薬価総額に対する、取引価格の決定割合)が低い場合は医薬品価格調査の障害となるため、厚生労働省は平成26年度の診療報酬改定において、毎年9月末日までに妥結率が50%以下の保険薬局および医療機関について、基本料の評価を引き下げる制度を導入しました(未妥結減算制度)。

医薬品卸企業は、新納入価格が妥結されていない期間は、いったん仮単価により売上を計上し、妥結されるであろうと合理的に予測される新納入価格まで「暫定値引き」を実施することとなります。

(会計処理)
随時、新納入価格の妥結決定予測価格を見直し、売上計上処理を行います。特に、各四半期・年度決算末において見直しがなされた場合には、合理的な妥結決定予測価格を見積もり、売上値引き処理を行います(暫定値引き)。ただし、売買価格が確定するまでの支払いについては、薬価を基に算定した暫定的な支払いが行われるのが通例となります。

一般的に、新納入価格は年度会計期間内には妥結決定されます。

② 総価取引

医療機関等への販売については、商品ごとに販売価格を交渉して納入する通常の販売方法のほか、ごく一部の医療機関等には、製造企業も種類も異なる複数品目にわたる商品をひとまとめにして、その商品群の合計金額から値引きして販売する「総価取引」と呼ばれる納入方法で取引される商慣行も存在します。

総価取引は、一品ごとに価格交渉を行う取引と比べ、品目全てに対して同じ値引き率を設定し、価格交渉の効率化を図ることで、費用の一定の低減効果があります。

しかし、本来的には医薬品の品目ごとの価値に見合った価格合意の形成に努めることが望ましいとされています。総価取引のうち、医療機関等に対して品目ごとの価格が明示されない取引は、薬価調査により把握されない取引として取り扱われます。薬価は、薬価調査により把握された市場実勢価格に基づいて決定されるため、このような取引は、現行の薬価制度の信頼性を損なうともいえます。従って、公的医療保険制度の下では、個々の取引において品目ごとの価格を明示することが望まれるとされています。

近年は、医薬品卸企業における流通改善や、IT導入によるシステム化の進展により、総価取引から単品単価取引へ移行しつつあります。

(会計処理)
通常の値引き処理と同様、売上高の控除として売上相殺処理を行います。

③ 返品

医薬品卸企業においては、契約などにより、医療機関等へ販売した商品を無条件で販売価格により引き取る行為も商慣行として存在しているといえます。

返品に係る会計処理は、次のとおりです。

(会計処理)
返品時においては通常、返品された商品に係る販売金額について売上取消処理を行います。

また、医薬品卸企業と医療機関等の間においては「返品分を販売価格により無条件に買い戻す」という商慣行となっているため、このような買い戻しによる損失の見込み額について引当金を計上します。通常、売上高または期末売上債権残高について、一定の返品率を乗じた金額(返品額)に売上総利益率を乗じて算出します。

【仕訳例】

(返品時)

(借)売上高○○ (貸)売掛金○○

(引当金計上時)
期末に売上債権残高10,000百万円について返品率10%、売上総利益率10%として返品調整引当金を計上する場合を例にします。

(単位:百万円)
(借)返品調整引当金繰入額100 (貸)返品調整引当金100

なお、医薬品卸企業と医療機関等においては、できる限り返品が生じないような取引への取り組みも進められてきているようです。


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