業種別会計
医薬品業

第1回:医薬品業の概要

2017.05.18
新日本有限責任監査法人 ライフサイエンスセクター
公認会計士 小川浩徳/柏木 都/片上真理子/塚本大作

1.はじめに

医薬品業界にかかわる企業には、大きく分類して、医薬品の製造販売を行う企業群が属する医薬品製造業を営む企業、医薬品の流通にかかわる医薬品卸売業を営む企業、さらに医薬品の研究にかかわるバイオベンチャー企業などが考えられます。

医薬品業シリーズでは、医薬品とは何か、医薬品業とは何かという視点から、医薬品にかかわる各企業の特徴を3回に分けて連載します。

第1回では次の解説をします。

  • 医薬品業
  • 医薬品業界の特色
  • 医薬品業界を取り巻く環境

2.医薬品業

(1) 医薬品とは

「医薬品」とは「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)第2条第1項により、次のように定義されています。薬機法とは、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器および再生医療等製品に関する事項を規制し、その適正使用を促進することで、保健衛生の向上を図ることを目的とする法律です。

(薬機法より抜粋)

  • 日本薬局方に収められている物
  • 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であつて、機械器具等(機械器具、歯科材料、医療用品、衛生用品並びにプログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下同じ。)及びこれを記録した記録媒体をいう。以下同じ。)でないもの(医薬部外品及び再生医療等製品を除く。)
  • 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であつて、機械器具等でないもの(医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品を除く。)

※日本薬局方とは、薬機法第41条により、医薬品の性状および品質の適正を図るため、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定めた医薬品の品質基準書です。

前述の定義に該当するものは医薬品、該当しないものは医薬部外品、化粧品という取り扱いになります。さらに、医薬品については医療用医薬品と一般用医薬品に区分され、医療用医薬品は先発医薬品と後発医薬品に分けられます。

  • 医薬部外品
    医薬品ではないが医薬品に準ずるもの。化粧使用目的の他に、にきび・肌荒れ・かぶれ・しもやけなどの防止、または皮膚あるいは口腔の殺菌消毒に使用されることもあわせて目的とされるものであり、厚生労働大臣の指定するもの。
  • 化粧品
    厚生労働大臣の承認は必要とせず、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容ぼうを変え、または皮膚もしくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされているもので、人体に対する作用が緩和なもの。
  • 医療用医薬品
    医師、歯科医師により使用され、または、これらの者の処方せん、もしくは指示によって使用されることを目的として供給される医薬品。原則として医師、歯科医師の処方により使用されることとなります。
  • 一般用医薬品
    医療用医薬品として取り扱われる医薬品以外の医薬品。すなわち、医師による処方を必要とせず、薬局や薬店などで市販され、一般の人が自らの判断で直接購入できるもの。従来、「大衆薬」とも呼ばれ、近年ではグローバルに用いられている「OTC(Over The Counter)医薬品」と読み替えられています。

(2) 先発医薬品と後発医薬品

① 先発医薬品(新薬)

先発医薬品(新薬)は、長い研究開発期間をかけて新しい成分の有効性・安全性が確認された後、国の承認を受けて発売された医薬品のことを指します。新薬の開発には巨額の資金と膨大な歳月を必要とするため、開発企業(先発企業)は新薬の構造や、その製造方法などについて特許権を取得し、自社が新規に開発した医薬品を製造販売することによって、資本の回収を図ることとなります。

② 後発医薬品

後発医薬品とは、先発医薬品と同一の有効成分を同一量含む同一経路の製剤で、効能・効果、用法・用量が原則的に同一であり、先発医薬品と同等の臨床効果が得られる医薬品をいいます。後発医薬品は先発医薬品の特許期間満了後に販売されることとなり、先発医薬品と比べて開発費の負担が軽いことから、一般的に先発医薬品より低価格で販売されます。

後発医薬品は「ジェネリック医薬品」とも呼ばれ、これは欧米諸国において多くのジェネリック医薬品が「含有されている有効成分の一般名称(Generic name)」を冠して販売されていることに由来しています。

(3) 医薬品における業

① 医薬品製造販売業

医薬品、医薬部外品、化粧品および医療機器は、薬機法により厚生労働大臣の製造販売業または製造業の許可を受けた者でなければ、それぞれ業として、その製造販売をしてはならないとされています(薬機法第12条、第13条)。この際、製造所で製品を製造する「製造業」と、製造された製品を市場へ出荷する「製造販売業」に分離され、市場への出荷責任を明確にした許可体系となっています。

  • 製造販売業とは
    製造等(他に委託して製造をする場合を含み、他から委託を受けて製造をする場合を含まない)をし、または輸入をした医薬品、医薬部外品、化粧品または医療機器を販売、賃貸、または授与する業態をいいます(薬機法第2条第13項)。
  • 製造業とは
    医薬品等の製造行為のみ(製造および製造販売業者への納品のみ許され、直接卸売業者等の販売業者に販売等を行うことはできない)を行う業態をいいます。

また、当該許可の要件として、品質管理の基準および製造販売後安全管理の基準などが厚生労働省令により整備されています。

  • GQP(Good Quality Practice)
    医薬品、医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品の品質管理の基準に関する省令
  • GVP(Good Vigilance Practice)
    医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品の製造販売後安全管理の基準に関する省令
  • GMP(Good Manufacturing Practice)
    医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令

② 医薬品卸売業

医薬品卸売業は、薬機法に基づき「卸売一般販売業」の許可が必要とされます。卸売一般販売業とは、各都道府県知事の許可を受けて店舗を構え、管理薬剤師の管理下で、薬局および医薬品販売業者または医療機関に対してのみ医薬品を販売する業のことをいいます(薬機法第24条、第25条第1項、第34条)。

医薬品卸売業を営む企業は、医薬品を安全かつ安定供給するために保管、配送、販売などについて薬機法をはじめとする各種の厳しい規制により管理されます。

さらには、卸売一般販売業の許可を受けた者は、医薬品等の有効性および安全性に関する事項その他医薬品または医療機器の適正な使用のために必要な情報を収集し、検討するとともに、病院、医師、その他の医薬関係者などに対し、これを提供するよう努めなければならないとされています(薬機法第68条の2)。

3.医薬品業界の特色

医薬品業界の特色は、おおむね次のように、まとめられます。

① 薬価とその引き下げ

医薬品業界においては「薬価」と呼ばれる医療用医薬品の公定価格が存在します。薬価は厚生労働省により決定され、「薬価基準」と呼ばれる価格表に収載されます。医療用医薬品の取引単価は、薬価をもって医療機関等が医薬品卸企業から購入する価格とされ、同時に診療報酬の請求単価とされます。

医療機関等では、理論上は医薬品の売買による利益は発生しないはずですが、実際には薬価よりも安い金額で購入することがあり、この場合、売買時に差益が生まれます。これを「薬価差」といいます。

薬価差は医療費削減の観点からも解消すべきとの社会的要請があり、薬価は現在2年に1度、厚生労働省による実勢調査に基づき見直され、新年度の4月に全面改訂がなされます。

② 多品種少量生産

病気の種類や症状は多種多様であり、その原因もさまざまです。そのため、対応する医薬品の数は必然的に多くなります。また、同一成分の医薬品でも粉末、錠剤、カプセル、液体など剤形の違うものを作る必要があり、さらに使用量が減った医薬品も販売し続ける必要があります。

医薬品業界は、他業種と比較して多品種少量生産であるといえます。

③ 巨額の研究開発投資

医薬品業界においては新薬開発の成否が企業の命運を左右することとなり、画期的な新薬を開発するために巨額の研究開発投資がなされます。詳細については後述します。

④ 法律の規制と副作用

医薬品は生命にかかわるものであることから、薬機法その他の法律により、その開発、生産、販売が厳しく規制されています。特に、開発段階における研究開発の流れについては後述します。

また、近年は副作用被害事件の影響などにより規制はさらに厳しくなるとともに、副作用に伴う薬害訴訟なども企業に大きな影響を及ぼします。

⑤ 医薬情報担当者・医薬営業担当者による営業

医薬品業界においては、医師や薬剤師に医薬品の情報を伝える医薬情報担当者(MR)や、マーケティングやマネジメントに関する情報を提供する医薬営業担当者(MS)を病院や診療所に派遣し、自社製品の提供を行っています。製薬企業にとっては、多くの優秀なMR、MSを抱えることも重要な営業戦略の一つとなります。

4.医薬品業界を取り巻く環境

(1) 世界の市場規模と成長―世界から見た日本の製薬産業

2010年から14年までの5年間で世界の医薬品市場は約19%増加し、年平均成長率は約4.5%に達しています。日本市場は、13年に成長著しい中国市場に抜かれたものの、米国市場、中国市場に次ぐ世界第3位の地位にあります。

また、13年の世界売上高上位100位までの製品を開発した起源国籍別に見ると、日本で生まれた医薬品は10品目であり、同じく10品目のスイスと並んで、米国の53品目に続く世界第2位につけています。日本は優れた新薬開発力により、世界への高い貢献度を誇っているといえます。

なお、14年の世界に対する日本市場シェア(8.32%)は10年の10.83%から2.5%ポイントほど減少しており、世界的に成長する医薬品市場において、度重なる薬価引き下げなどで、日本の医薬品市場の成長が抑制されてきていることが分かります。

(2) 研究開発費と特許

① 研究開発の流れ

新薬を一つ生み出すためには、一般的に9~17年の歳月と、200億~300億円を超える投資が必要とされています。これは「クスリ」が直接、生命にかかわるものであることから、新薬開発において安全性、有効性について念入りなチェックを行うプロセスとなっているからです。

新薬開発の工程は、第一段階では新しい化学物質を作り出し、クスリとしての利用可能性があるものを選び出すことから始まり(新薬の探索)、第二段階では「非臨床試験」と呼ばれる、動物により薬効・物性・体内動態・毒性を確かめる研究評価を行い、「クスリの候補」を選定します。第三段階では「臨床試験」と呼ばれる、ヒトを対象とした試験を行います。臨床試験は「治験(治療試験)」とも呼ばれ、第二段階をパスした「クスリの候補」(治験薬)を用いて、病院などの医療機関において同意を得た健康な人や患者を対象に、国の承認を得るための成績を集める試験が行われます。

これらの第一段階から第三段階までに得られた成績をまとめて厚生労働大臣に承認申請を行い、審査された後、承認に至ります。承認されたクスリは薬価基準に収載され、初めて販売されることとなります。製品化に至るまでには、かなりのクスリがふるい落とされるため、新しいパイプライン(有望な新薬の種)が発見されてから、医薬品として製造・販売される確率は1万分の1以下といわれています。

ゆえに新薬の開発には、膨大な開発期間、巨額の開発資金が費やされ、かつ極めて高い投資リスクを負うこととなります。

② 研究開発比率がトップクラスの業種

新薬開発企業は、前述のように大きなコストとリスクを負いますが、画期的な新薬の開発に成功すれば、その企業の業績は大きく伸びることとなります。ゆえに、医薬品業界の新薬開発競争は激しく、各社は生き残りをかけて研究開発にしのぎを削っています。

14年における医薬品製造業の対売上高研究開発比比率は12.21%であり、2位の業務用機械器具製造業8.81%を大きく引き離して、あらゆる産業の中でトップの研究開発比率となっています。

③ 特許について

研究の過程で得られた発明を権利として保護するために、医薬品業界ではパイプラインを発見した段階で特許出願が行われます。出願した発明が特許として認められれば、特許法により出願の日から20年間、保護されることとなります。なお、医薬品の場合、特許が認められても製造販売承認までに長期間を要するため、この間、利益を享受することなく特許期間が失われてしまいます。この失われた特許期間につき5年を限度として回復する「特許存続期間延長制度」が適用可能であり、出願の日から最大25年間、保護される場合もあります。

医薬品の特許は、一つの製品を保護するのに必要な特許の数が、電器製品などと比べて非常に少ない点に特徴があります。これは、個々の特許が持つ効力が強いことを意味します。

このような特許の取得により、製薬企業は特許期間にわたり収益源を確保することができ、また近年では特許権にかかわるビジネスも頻繁であるといえます。

(3) ジェネリック医薬品の普及促進

① 欧米諸国と日本におけるシェアの比較

ジェネリック医薬品は、先発医薬品に比べて研究開発にかかる費用が抑えられるため、先発医薬品よりも薬価が低く、低価格で提供できるという大きなメリットがあります。

欧米諸国では医療費抑制の観点からジェネリック医薬品が積極的に使用されており、その占めるシェアは日本に比べて非常に高い割合となっています。例えば、米国やドイツにおいては15年現在、ジェネリック医薬品が数量ベースで80%を超えるシェアを占めています。

一方、日本におけるジェネリック医薬品のシェアは、後述の普及促進策を背景に上昇傾向にあるものの、15年度の数量ベースは55.7%と、欧米諸国に比較すると、まだ低い水準にあります。

② 医療費抑制政策とジェネリック医薬品の普及促進

日本では、医療技術の進歩や、近年、急速に進んでいる少子高齢化などによって、国民医療費は増加の一途をたどっており、医療制度の抜本的改革が求められています。

日本における国民医療費は近年、年1兆円前後の増加ペースで推移しており、15年度には41.5兆円に達し、そのうちの約22%を薬剤費が占めています。国は薬剤費を軽減させるため、価格が先発医薬品と比べて安価なジェネリック医薬品の使用促進対策として、次のような取り組みを進めてきました。

  • 2007年6月:「経済財政改革の基本方針2007」において、12年度までにジェネリック医薬品のシェア(数量ベース)を30%以上にするという数値目標を策定
  • 2007年10月:ジェネリック医薬品に関する安定供給・品質確保・情報提供等の充実・向上と使用促進を図るために「後発医薬品の安心使用促進アクションプログラム」を策定
  • 2013年4月:「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」において、18年度までにジェネリック医薬品のシェアを60%以上にするという数値目標を策定
  • 2015年6月: 6月30日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2015(骨太の方針)」の中で、ジェネリック医薬品に係る数量シェアの目標値について、17年央に70%以上とするとともに、18年度から20年度末までの間のなるべく早い時期に80%以上とすること、また、17年央において、その時点の進捗(しんちょく)評価を踏まえて、80%以上の目標の達成時期を具体的に決定することを明記

また、以上をうけて08年度、10年度、12年度、14年度、16年度における診療報酬・調剤報酬改定において、ジェネリック医薬品の使用が促進されるインセンティブが薬局や医療機関に働くような形での改定が重ねられてきています。

このような国の政策の追い風もあり、国内のジェネリック医薬品の市場規模は拡大を続けています。日本のジェネリック医薬品市場には、国内外のジェネリック専業メーカー、新薬メーカー、調剤薬局などから多くの企業が参入しており、競争が激化している状況にあります。

③ ジェネリック医薬品メーカーにとっての課題

前述のとおり、骨太の方針では新たな数値シェアの目標値が示されましたが、ジェネリック医薬品メーカーは、この新たな目標の達成に向けて、大幅かつ迅速な設備投資計画の見直しや、営業体制強化の必要性に迫られることになります。

また、骨太の方針では、シェア向上の一方、国民の負担軽減の観点から、ジェネリック医薬品の価格算定ルールの見直しを検討する、とも記載されており、今後の薬価改定による価格面における市場環境の変化についても、引き続き対応していく必要があります。

国の政策に後押しされた事業拡大局面における課題ではあるものの、ジェネリック医薬品の安定供給達成と収益面のバランスを考慮するなど、難しい経営のかじ取りが求められる場面があると考えられます。


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