III.業務の流れと会計処理
1.素材産業の会計処理・表示方法における全般的な特徴
我が国の素材産業は戦後の基幹産業であり、原価計算基準をはじめとする各種の会計基準等は広く製造業を前提として作られてきたと考えられます。
したがって、素材産業の採用する多くの会計処理・表示方法は会計基準等で定められており、業界固有のものは特段に定められていないことがこの産業の特徴ともいえるかもしれません。
2.業務の流れと会計処理
次に、素材産業における事業の特徴に基づき、製造設備(固定資産)→原材料及び燃料購入→製造(原価計算)→販売→環境対策という業務の大きな流れに沿って会計処理の特徴を解説し、また部分的に内部統制上の特徴にも触れていきます(図表6)。なお、これらは素材産業としての概略を示すものであり、各企業の個別の会計処理とは異なることにご留意下さい。
図表6 業務の流れと会計処理のイメージ

(1)製造設備(固定資産)
製造設備に関連する具体的な業務と会計処理のイメージは図表7のようになります。
図表7 製造設備に関する業務と会計処理のイメージ

①新規取得
製造設備の新規取得にあたっては、会計上、取得に要した支出額を一旦建設仮勘定に集計し、完成の都度、固定資産の各勘定に振り替えます。通常、設備投資が計画されてから固定資産の本勘定への計上に至るまでには長期間を要します。したがって、振替時の会計処理(時期、振替後の勘定科目、金額)のみならず、計画変更等がなされていないことを確認するなどの建設仮勘定の滞留管理が重要となります。
また、新規の設備投資と同時に多数の予備部品の購入がなされ、貯蔵品として保管されます。一旦稼働すると、通常は設備をフル稼働させるため、万が一の故障等に対しても早急に対応する必要があるからです。これらの貯蔵品についても定期的な棚卸を行うなど、管理が必要となります。
②圧縮記帳
省エネや環境に配慮した新設機械装置等に対しては、補助金を受けることが多いことも特徴です。国庫補助金等の受入れは法人税法上、益金算入されることとなりますが、このような補助金に対して課税されると、その趣旨を減殺させてしまいます。そこで、国庫補助金等の受入れ相当額を固定資産の取得価額から直接減額又は圧縮積立金の計上を行うことにより、課税の繰り延べを行うことが認められています(法人税法42~44条)。会計上も、積立金方式又は取得原価から控除する直接減額方式を採用することも妥当なものとして取り扱われます(監査第一委員会報告第43号、企業会計原則注解注24)。
③資本的支出と収益的支出
通常、一年に一回程度、製造ラインを停止した定期修繕を行い、数年に一回は大規模修繕を行います。これらの修繕について、会計上、収益的支出(固定資産の維持管理のための支出)であれば支出時に修繕費等として費用処理を行い、資本的支出(固定資産の使用可能期間、価値を増加させる支出)であれば固定資産の取得価額として資産計上を行います。そのため、支出内容が収益的支出となるものか、資本的支出となるものかの判断が重要となります。
④減価償却
製造設備の取得原価は、減価償却を通じてそれを費消した各製造工程の製造間接費として製品の製造原価に配賦されることとなります。
素材産業においては大規模製造設備を有していることから、この減価償却が各会計期間の製造原価及び損益に与える影響は非常に大きいといえます。
そのうち、減価償却の前提となる、耐用年数及び残存価額の見積りは特に重要な要素となります。
会計上、耐用年数は、経済的に使用可能と予測される年数であり、各企業が自己の固定資産につきその特殊的条件を考慮して自主的に決定する必要があります。また、残存価額は、固定資産の耐用年数到来時において予想される当該資産の売却価格又は利用価格から解体、撤去、処分等の費用を控除した金額であり、耐用年数と同様に、各企業が当該資産の特殊的条件を考慮して合理的に見積りを行うべきものです。
ただし、企業の状況に照らして不合理と認められる事情がない限り、法人税法上の法定耐用年数及び残存価格を会計上の耐用年数及び残存価格として使用することも当面、妥当なものとされています(監査・保証委員会報告第81号)。
そのため税制改正の影響は大きく、税制改正際には耐用年数や減価償却方法の見直す企業も多くあります。
⑤解体撤去費用
大規模製造設備を有するため、多額の解体撤去費用が発生することが多くあります。これらは、工場の大規模な閉鎖時のほか、通常の設備の取替更新にあたっても発生することに留意する必要があります。
⑥減損損失
固定資産の減損とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態であり、減損処理とは、そのような場合に一定の条件の下で回収可能性を反映できるように帳簿価額から減額する会計処理をいいます。大規模製造設備を有している素材産業においては、減損損失の発生は企業の損益に大きな影響を及ぼす可能性があります。
素材産業では、(a)建設段階(建設仮勘定)と、(b)生産停止や処分・転用段階に留意する必要があります。
(a)設備建設段階(建設仮勘定)
本勘定への振替時まで期間を要することから、当初の設備投資計画が現在の状況と乖離している可能性があります。そのため、設備投資計画が有効なものかについて本格稼働するまで、定期的に検討を行う必要があります。
(b)生産停止や処分・転用段階
グルーピングがかわることにより、思いがけず多額の減損損失が発生する可能性があります。すなわち、事業用資産として供していた際には資産グループ全体の将来キャッシュ・フローにより回収可能と判断されていた資産であっても、将来の用途が定まっていない遊休状態等となった場合には、資産又は資産グループが使用されている範囲又は方法について、その回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたとして、減損の兆候となるためです(減損会計基準二1.②)。
したがって、遊休状態である又は設備を処分・転用する意思決定について漏れを把握することが重要となります。
⑦資産除去債務
平成22年4月1日以降開始する事業年度より企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第21号「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」が適用となりました。
資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいいます(資産除去債務基準第3項(1))。
素材産業においては、主に次のような項目が資産除去債務の計上対象として挙げられるといえます。
(a)法令等に基づくもの
- 鉱山・採石場といった資源に関する原状回復費用
- アスベスト除去に係る追加処理コスト等
(b)契約に基づくもの
- 工場用地(又はその一部)を定期借地契約により賃借している場合の原状回復費用