保険業 第2回:損害保険会社のビジネスと会計処理の概要

2021年10月11日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人

1. 損害保険会社とは

損害保険会社とは、保険会社のうち「損害保険業免許」を受けた者をいうとされています(保険業法第2条第4項)。また、損害保険業免許は一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約し、保険の引受を行う事業に係る免許とされています(保険業法第3条第5項)。損害保険業を営むためには、内閣総理大臣から損害保険業の免許を受ける必要があります。2021年9月8日現在、わが国には33社の損害保険会社があり(日本に支店を持つ外国保険会社を除く)、自動車保険、火災保険、傷害保険、自賠責保険等を引受けています。

2. 損害保険業のビジネスモデル

その業務の流れを簡単に見ていきましょう。

(1) 損害保険商品の設計

保険商品は保険数理計算により商品設計がなされます。具体的には保険種類に応じて損害の発生確率を見積もり、保険料等の引受条件を決定する保険数理計算のプロセスが必要となります。このため、損害保険会社には、保険数理の専門家であるアクチュアリーの資格を持ち、実務経験を有する保険計理人を設置することが義務づけられています。

(2) 募集・販売・保険料の収受

損害保険契約は契約者が契約申し込みをし、損害保険会社(損害保険代理店を含む)がそれを承諾することにより成立します。損害保険の募集・販売を保険会社の役職員が直接行う「直扱」には、自動車保険の電話やインターネット等によるいわゆるダイレクト販売や、船舶保険等の特殊で大口の損害保険契約があり、現状では、損害保険代理店(以下、代理店)を通じた募集・販売が圧倒的に多く、国内元受保険料の実に91%が代理店扱いとなっています(2019年度日本損害保険協会データ)。

(3) 保険金の支払い

契約者から事故があった旨の連絡があると、その連絡に基づいて損害保険会社が事故や損害の状況等について損害調査を行い、保険金を支払います。損害調査を損害保険会社が専門の調査会社に委託して行なうこともあります。委託を受ける専門の調査会社には、自動車の物損事故を扱うアジャスターや、火災保険等の契約に係る建物や動産の損害額の鑑定、事故原因等の調査を行なう損害保険登録鑑定人が所属しています。

(4) 再保険の利用

再保険とは、自己の負担する保険責任の一部または全部を他の保険会社に転嫁することをいいます。損害保険会社では、自己の保有するリスクの分散を図るため、また単独で引受けるには巨額すぎる物件の引受を行うため、再保険を利用しています。

(5) 資金の運用

損害保険会社では、保険料が保険金等の支払いに先立って入金され、多くの資金が確保されるので、その資金を運用することも重要になります。資金の運用にあたっては当該資金が保険金支払のための原資であることから、流動性・安定性を重視して、預金、有価証券、貸付金など様々な資産で運用されています。

3. 損害保険業における会計処理及び表示の特徴

(1) 収益の繰延及び費用の見越が必要であること

一般事業会社においても発生主義に基づいて財務報告する場合、収益の繰延(前受収益の計上)及び費用の見越(未払費用の計上)が必要です。損害保険会社においては、保険料を収受した上で、リスクのカバーという時間の経過に応じて発生する役務を、一定の契約に従い継続的に顧客に提供することが本業であるため、収益の繰延及び費用の見越を行うことが、一層重要となります。

損害保険会社において翌期に繰延べられた保険料(収益)のことを未経過保険料といい、当期の保険引受に関して保険金等を見越し計上したものを支払備金といいます。両者はともに右記(2)の準備金の一つです。例えば、保険料2,000(保険期間1年間、1回払い、保険始期12月1日)を12月に計上した場合、損害保険会社は3月決算なので、未経過期間である翌年度4月1日から11月30日までの計8ヶ月間に相当する保険料1,333は翌期に繰り延べる必要があります。

なお、2021年4月1日以降開始する事業年度より、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)が適用されていますが、保険法(平成20年法律第56号)における定義を満たす保険契約については、適用範囲に含めないこととされています(「収益認識に関する会計基準」第3項(3))。

損害保険業における会計処理及び表示の特徴 図1

(2) 保険業法に基づく各種準備金の積み立てが必要なこと

損害保険会社は、多くの契約者から保険料を集め、事故発生時に保険金を支払わなければなりません。このため、損害保険会社は契約者の利益を保護するために、保険金等を十分に支払えるだけの財務基盤を確保する必要があり、このため保険業法で各種の準備金を会計上、積み立てることが義務付けられています。

(3) 別記事業であること

損害保険会社は、監督者である金融庁長官に対して事業年度毎に業務及び財産の状況を記載した中間業務報告書と業務報告書を提出することが保険業法第110条で義務付けられています。(中間)業務報告書における会計処理及び表示方法については、保険業法及び保険業法施行規則等に従って行うことが求められます。報告様式についても保険業法施行規則第59条に定める別紙様式で行う必要があり、B/Sについては流動・固定分類がないこと、P/Lについては営業損益と営業外損益の区分がない代わりに経常損益が①保険引受損益、②資産運用損益、③その他経常損益に分類されているという特徴があります。

また財務諸表等規則第2条により、保険業は別記事業とされています。このため、金融商品取引法に基づく財務報告も保険業法施行規則に準じた様式でなされます。会社法に基づく財務報告も同様です(会社法計算規則第146条1項)。したがって、前述のとおり、保険業に固有の会計処理及び表示方法については、保険業法及び保険業法施行規則に定める方法が、一般に公正妥当と認められる会計基準となっています。なお、保険業法及び保険業法施行規則に定めのない事項については、(連結)財務諸表等規則、中間(連結)財務諸表規則及び会社計算規則並びに一般に公正妥当と認められる会計基準に従います。

4. 損害保険会社における収益認識

保険料の計上は損害保険契約が成立して役務提供を開始する時点、すなわち保険責任開始時点で行ないます。損害保険契約は契約者が申込み、損害保険会社(代理店も含みます)がそれを承諾すれば保険料を収受していなくとも成立します。しかし、実務上、保険契約の申込と同時に保険料を領収することがほとんどであり、また保険約款上も保険料を契約者が払い込まなければ保険料領収までの間に生じた事故による損害に対しては保険金を支払わないとしていることが多いため、損害保険会社(代理店も含みます)が申込書と保険料を受領した上で、保険責任が開始する時点で保険料を計上します。

以上の点を仕訳で説明すると次のとおりです。

① 代理店が申込書と保険料2,000を受領し、損害保険契約を引き受けた(代理店手数料率10%と仮定)

① 代理店が申込書と保険料2,000を受領し、損害保険契約を引き受けた(代理店手数料率10%と仮定)

(※)代理店貸勘定は、損害保険会社の代理店に対する債権・債務(主に代理店に対する保険料債権)を管理するための勘定です。なお、代理店手数料は、保険引受費用の中の諸手数料及び集金費の内訳項目として計上されます。

② ①の保険料が、損害保険会社に精算された。

② ①の保険料が、損害保険会社に精算された。

5. 損害保険業における保険業法に基づく各種準備金の積み立て

前述のとおり、損害保険会社においては、保険業法に基づく各種の準備金を積み立てることが義務付けられています。保険業法で積み立てが義務付けられている準備金には、①責任準備金、②支払備金、③価格変動準備金があり(保険業法第116、117、115条)、決算期毎にそれぞれの数値を算定して前期末残高との差額を、損益計算書上で繰入(戻入)します。責任準備金と支払備金の繰入額(戻入額)は保険引受費用(収益)の内訳項目となりますが、価格変動準備金については、特別法上の準備金に該当するため、繰入額(戻入額)は特別損失(利益)に計上されます。

(1) 責任準備金

責任準備金には、①普通責任準備金、②異常危険準備金、③危険準備金、④払戻積立金、⑤契約者配当準備金、⑥自賠責保険及び地震保険に係る責任準備金があります(保険業法施行規則第70条1項)。

異常危険準備金は損害保険会社で特徴的な準備金で、巨大自然災害のように単年度では大数の法則が機能しないリスクに対し、複数年度にわたって積み立て、異常災害が発生した年度に取り崩すという形態の責任準備金です。異常危険準備金の控除額および繰入額については、大蔵省告示第232号(平成10年6月8日)2条1項で規定されています。

なお、責任準備金の具体的な算出方法は、保険業法、保険業法施行規則及び関連する告示の他、保険商品ごとの「保険料及び責任準備金の算出方法書」(以下、算方書という。)に規定されています(保険業法施行規則第70条4項)。

また、予定利率等の計算基礎率は、算方書に記載の商品設計時に予定されている計算基礎率を使うのが原則ですが、長期の契約については標準責任準備金の対象契約となり、金融庁長官が定めた計算基礎率を適用する必要があります(保険業法施行規則第68条、金融庁告示第24号、大蔵省告示第48号)。これは、長期の契約は商品設計時の計算基礎率と実勢の計算基礎率に乖離が生じやすく、また乖離が生じた場合の積立金額に大きな差異が生ずることから、各社の設定する保険料水準にかかわらず、適切な保険金支払のために最低限積み立てるべき責任準備金を積み立てることで、保険会社の健全性維持および支払能力を確保するためのものです。

責任準備金は決算時に、下記のように前期に積み立てた残高を取崩し、当期末に必要な金額を繰入れます。

(前期分)

(前期分)

(当期分)

(当期分)

(2) 支払備金

損害保険の保険事故が発生した場合、通常、保険事故発生時から即時に保険会社への報告が行われることはなく、また、保険会社では保険事業の報告を受けた後、保険金支払額が確定し、保険金が支払われるまでに一定の日数を要します。このため、決算日時点においては、保険会社は既発生の事故に対する保険金支払債務を一定程度有していることになり、このような債務は支払備金と呼ばれています。

また、保険事故が発生しているものの、契約者等から保険金等の支払請求が行われていない契約に対しても支払備金が見積り計上されます。既発生未報告備金(IBNR備金:Incurred But Not Reported)と呼ばれ、大蔵省告示第234号(平成10年6月8日)に基づき、統計的手法又は過年度の既発生未報告の実績と当年度を含む発生損害増加率に基づき算定されます。

まとめ

上記で解説してきたように保険業は「保険契約」という極めて特殊な商品を取り扱う事業であり、保険業の会計を理解するためには、基本的な概念や用語、商品の仕組み等を理解することが不可欠となります。また、損害保険会社の会計では、一般事業会社と同様に収益の繰延及び費用の見越が必要ですが、その方法が保険業法に基づく準備金を通じて行われること、その他保険業法に基づく各種準備金の積み立てが必要なこと、別記事業であることなどが特徴的です。なお、当該特徴は生命保険会社でも同様です。

保険業の業務の流れとBS・PLの関係(イメージ)図
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