3.業種による不正と内部統制の違い

不正と内部統制についても、業種によって取引の仕組み・流れが異なりますので、その取引の過程で起き得る不正や財務諸表の虚偽表示リスクも業種ごとに異なります。起き得る不正やリスクが違えば、それを予防・発見する手段である内部統制のあり方も必然的に異なることになります。

業種ごとの不正や内部統制に特徴が表れるのは、会計処理等と同様に、収益認識や棚卸資産等営業資産の評価といった、その事業の業務に直接関係する部分が多くなると思われます。特に収益認識に関する業務プロセスおよびそこに内在するリスクはその企業が営む事業によって大きく異なるということができます。例えば、一般的な製造業では、出荷基準により、出荷数量×単価で出荷額を測定し収益を認識します。そのため、財務諸表の虚偽表示リスクは出荷されていないものが出荷されたものとして売上計上されてしまうというリスクや、単価や数量の誤り、日付の誤りによる期ずれといったリスクが考えられます。

出荷基準で収益計上する業種でも、出荷時点で取引価格が確定しない商慣行のある業種では、見積価格で収益を認識するため、見積価格が妥当でないリスクや、その後の価格確定時の処理にリスクが内在すると考えられます。これに対して、建設業では、工事進行基準により収益を計上している場合には、工事進捗(しんちょく)率を見積もって、それに応じて工事収益を計上しますので、見積工事原価総額や実際工事原価総額を操作または誤ることにより、工事進捗率が影響を受け、工事収益金額が誤るリスクが内在すると考えられます。

また、決済方法に着目すると、飲食業のように売上金を従業員が受領する企業では、売上金が横領されるリスクがあるので、これを防止・発見する仕組みが必要になります。一方、掛売りで信用販売を行う企業では、売掛金がきちんと回収できないリスクを防止・発見するため与信管理・滞留管理がなされることになると考えられます。

このように、業種によって、商慣行や取引形態が異なるため、業務フローやリスクの所在が異なり、必然的にこのリスクに対応する内部統制も業種によって異なってきます。

4.業種による税制および法人税法上の取り扱いの違い

(1)適用される税法の範囲

特定の財貨・サービスの取引を対象とする税金については、企業がどのような財貨・サービスを扱っているかによって、適用される税法の範囲が違ってきます。例えば、酒税・たばこ税は酒類やたばこという特定の製品の取引に対して課税されます。酒類やたばこの製造を販売するのは酒類製造業やたばこ製造業ですから、それらの企業は酒税・たばこ税の納税義務者になります。また、消費税等も取引に対して課税される税金ですが、利子は取引性格上非課税となりますので、銀行業や消費者金融業では、貸出金・貸付金に対する利子には消費税等は課税されませんし、住宅家賃は特別の政策的配慮から非課税取引となりますので、住宅の賃貸業を営む企業では、主要な取引である家賃収入に対して消費税等は課税されません。

(2)取引や保有する資産・負債の性質による特徴

税法上、特定の取引や業種を対象として規制するものではなく一般的な取り扱いであっても、その業種で特定の取引や資産・負債が多額であることにより発生する税務上の特徴もあります。これは、例えば、法人税法上の損金算入限度額の定めは、必ずしも特定の取引や業種を対象とする規定ではありませんが、その業種で特定の取引や資産・負債が多額に発生するために当該項目について会計と税務で多額の差異が発生するという意味で、業種による特徴が出るということです。

例えば、銀行業では企業や個人向けに融資を業としていますので貸出金の金額が多く、貸出金に関する貸倒引当金については、多額の損金不算入額が発生します。またベンチャーキャピタル業では、未公開株式への投資を業としていますので、未公開株式を会計上評価減した場合に、法人税法上損金算入が認められず、ここに多額の損金不算入額が発生します。

5.業種の違いによる監査手法の違い

業種の違いは、公認会計士が行う財務諸表監査において実施する監査の手法にも影響します。業種の違いによって取引の流れや、取扱商製品の性質等が異なるため、どこに財務諸表の虚偽表示につながるリスクがあるのか、そのリスクをどうやって検証するのかということにも違いが出てきます。

どのようなリスクに対応するかという観点からは、例えば情報サービス産業では、ソフトウエアの売上は無形物を売るため、一般的には実際に取引があったかどうか、すなわち取引の実在性に関するリスクや循環取引(実際に取引がないにもかかわらず、取引が行われたように伝票操作をして架空売上高を計上する取引)が行われるリスクが比較的高いといえるでしょう。これに対してはソフトウエアのような無形物については、仕様書や契約書などを見ることで現物の有無を確認したり、取引スキームの全体を検証することになるでしょう。

情報サービス産業における監査の観点(例)

一方、不動産の販売であれば、モノがないというリスクは比較的少ないと考えられますが、その不動産に対して売主が所有権を有したままでないかどうか、また、契約上買戻し条件がないかどうか、さらには、売上計上時期の操作の可能性はないかといった点で比較的リスクが高いと考えられます。これらのリスクに対応するためには、売主が不動産に対する権利を持っているかどうか確かめるために登記を確認する、会計期間のずれがないかどうか受領書の日付や入金状況を確認するといったことが考えられます。

不動産販売業における監査の観点(例)

有形物の実在性を確認する場合でも、その物性と検証コストによりさまざまな方法があります。例えば基礎化学品の製造業であれば、プラントの中にある化学薬品プラントを解体して取り出して見ることは、業務に支障を来すとともに危険でもありますから、メーターによる検量や化学式に基づく理論値を算出することにより検証するといった対応が考えられます。一方、山積みにされた石炭や鉄鋼石などについては、実際に見ることはできても、どれだけの量があるのかまではわかりませんので、現物を見て確認するとともに、専門家による数量検査の結果などとあわせて物量について心証を得るといった対応が考えられます。

このように、会社の営む事業内容によってリスクがどこにあるのか、どのような観点から検証するのかが変わってきます。また、対象物の性質や検証のためのコストとの兼ね合いによって、どのような手法で検証するかといったことが変わってきます。そのため、監査人には企業および企業環境の理解が求められています(監査基準 第三実施基準 一 基本原則2)。