1.建設業の特徴に起因する原価計算における特徴

(1)受注請負産業

第1章で述べたとおり、建設業は、工事の内容(建造物の仕様、設計、デザイン、工事方法、使用する技術、施工場所、工期など)に応じて仕事の内容が決まり、その完成を目的とする個別請負生産の産業です。そのため、建設業の原価計算は、個々の工事に番号を採番して工事番号別に施工に要した工事種類(工種)と金額を集計する個別原価計算が採用されます。

(2)生産現場の移動性

建設業では生産活動が固有の土地に紐づいた各工事現場で行われるため、生産現場が移動的であり、同時に複数の現場を保有するのが一般的です。したがって、移動性に対応するため、生産施設は仮設施設、定置的な固定設備が少ない、という特徴があります。また、工事完了とともに撤去される仮設施設は、再び他の工事に使用されます。

それらの会計処理については、建設工事用の足場、型枠などの仮設資材は、工事現場で工事の用に供した時点でその取得原価を当該工事の未成工事支出金勘定の金額に含めて処理し、工事完了時に適正に評価した資産価値を控除した上で未成工事支出金から完成工事原価に計上されます。また、個々の生産現場で使用された程度に応じて工事機械の使用料(損料)を集計するため、工事機械の年間の減価償却費、保有コスト(運搬費、保険料、修繕費など)を集計しこれを年間の使用予定日数・時間で除してあらかじめ単価を定めておき、これに実際使用日数・時間を乗じて使用料(損料)を算定し、機械使用料(損料)として算定します。

(3)重層下請構造

建設業は、一つの工事に多くの建設業者が関与している重層下請構造を特徴としています。元請(総合建設業者)は、施主から工事を受注すると、工種ごとに専門工事業者に下請け外注し、さらに一次下請業者は協力会社へ孫請け外注するなど、重階層構造が形成されます。そのため、工事の外注依存度が高く、原価に占める外注費の割合が高いとされています。

(4)入札制度・契約制度

公共工事における入札価格の算定においては、積算基準が重要な役割を担っています。また、相対契約においても、注文の引き合いがあった場合、工事を適正な価額で受注できるかについて原価を見積ることになります。どちらも対外的資料を作成するために原価を算定するものであり、もっぱら事前的な原価計算が重視されます。

2.建設業の原価管理

(1)施工管理と原価管理

建設プロジェクトは、設計・施工・監理からなりますが、施工を首尾よく適切に行うためには施工計画あるいは施工管理が必要となります。施工管理において考慮すべき要素が5つ[Q:品質(Quality)、C:原価(Cost)、D:工程(Delivery)、S:安全(Safety)、E:環境(Environment)]あり、原価(Cost)管理は、これら5つのうちの一つです。

この原価管理に求められるものは、受注営業における見積原価の算定と資料提供、受注工事の実行予算の編成、受注工事の予算原価と実績原価の対比による利益管理、差異分析結果の営業へのフィードバックなどです。

(2)実行予算による原価管理

受注工事の原価管理のためには実行予算が必要になります。実行予算は工事の施工計画を金額で示したものであり、工事原価の見積りを積み上げ計算して作成されますが、そこで設定された予算原価は、受注した個別工事の原価を望ましい水準に維持するための目標となり、最終的な工事利益の予想に役立てます。

工事施工後は、施工の進捗の都度、工事原価の見積りと実績を対比し、適時・適切に予算原価の見積りの見直しを行いますが、そこで、予算原価は実績値に置き換わっていきます。その過程で、施工上の出来高(出来形)を把握し、これと発生原価を比較し、もし乖離があれば、工事原価の集計漏れ(請求書の漏れ)の有無を検討します。このように、予算原価と発生原価を比較しながら、工事原価を統制する手段として利用します。

このような実行予算は原価を工種別に集計して作成されますが、完成工事原価報告書における材料費・労務費・外注費・経費の形態別(要素別)に原価を設定しておくと、事前の原価である実行予算と事後の原価である発生原価の財務会計上の差異分析に有効になります。