新日本有限責任監査法人
業種別会計
自動車産業

第3回:メーカー・ディーラーの事業・会計処理の特徴

2016.04.19
新日本有限責任監査法人 自動車セクター
公認会計士 舟本孝史/魚橋直子/藤井優貴

1.はじめに

第3回は、自動車産業のうちメーカー及びディーラーにおける事業及び会計処理等の特徴について解説します。

なお、意見にわたる部分は自動車セクターナレッジの私見であることをあらかじめお断りしておきます。

2.メーカーの事業の特徴

メーカーの事業の主な特徴として、次の点を挙げることができます。

(1) 幅広い海外展開

メーカーは、海外に子会社・関連会社を多数持ち、海外拠点で製造を行い海外市場にて販売するケースが多く見受けられます。日本の自動車産業は、世界でも最高水準の品質管理や多品種少量生産を要求される市場で高い評価を受け、ヨーロッパ市場を除き一般的に競争優位性が高いため、輸出や海外事業に依存する割合も高くなっています。

(2) リコール制度等

自動車のリコール制度は、対象台数が多くなるとマスコミで報じられるため、一般に広く知られるケースが多く見受けられます。リコール制度のほかにもこれと同様に、車両に関する個別の不具合案件についてメーカーが自主的に無償で修理を実施する改善対策やサービスキャンペーン、保証期間や距離を延長する延長保証などがあります。

※リコール制度
事故を未然に防止し、自動車ユーザー等を保護することを目的とするもので、自動車が道路運送車両の保安基準に適合しなくなるおそれがある状態、又は適合していない状態で、原因が設計又は製作の過程にある場合に、その旨を国土交通省に届け出て自動車を回収し無料で修理する制度

※改善対策
自動車が道路運送車両の保安基準に不適合状態ではないが、安全上又は公害防止上放置できなくなるおそれがある場合に、その旨を国土交通省に届け出て自動車を無料で修理する制度

※サービスキャンペーン
リコールや改善対策に該当しないもので、商品性改善のためメーカーが自主的に行う無償修理・改修で国土交通省の通達に基づくもの

※延長保証
各メーカーで定める一般的な保証期間や距離に加え、特定の不具合に限定して保証期間や距離の延長を行うもの

(3) 研究開発

定期的なフルモデルチェンジ等に対応するため、研究開発は活発であり投資額も一般に多額となります。研究開発の区分としては、基礎研究、フルモデルチェンジ、マイナーチェンジ、部分的な改善研究などが一般的です。なお、マイナーチェンジには、車体形式は維持しながらも外観等について大きな変更を行うビッグマイナーチェンジという形態もあります。自動車産業の裾野は広く、製品に高い技術力が要求されることから、他社と共同で研究開発を実施する場合や外部に研究開発を委託する場合、逆に研究開発を受託する場合も少なくありません。

(4) 棚卸資産

メーカーの棚卸資産は、総じて標準原価計算にて原価計算が行われ、決算時に原価差額の調整を通じて金額が確定します。

棚卸資産の内訳をみると原材料の比率が非常に高く80%~90%に及びます。この比率の高さは、自動車は数万点に及ぶ部品点数から組み立てられ、ほとんどをサプライヤーから調達していることによると考えられます。

メーカーが計上する棚卸資産の内容は、一般的に以下のとおりとなります。

  1. 製品:完成した車両、販売用部品
  2. 仕掛品:組立途上の車両
  3. 原材料:素材(鋼板等)、購入部品
  4. 貯蔵品:補助材料、設備補修の予備品等

(5) 金融子会社

自動車は消費者からすれば高額品のため、販売に当たってはリースやクレジットなどの利用が不可欠な面があり、メーカーはグループの中に金融子会社を有している場合があります。この場合の「事業の種類別セグメント」は、「自動車産業(2輪・4輪)」と「金融」に区分されることが一般的です。

(6) 係争事件

メーカーは様々な特許を有しているため特許侵害も発生しやすく、知的財産に関するリスクは高いといえます。また、北米を中心に自動車による障害・死亡事故に関連するPL訴訟が提起され、その件数は多数かつ賠償金の請求も比較的多額といわれます。

3.メーカーの会計処理の特徴

メーカーの会計処理の主な特徴として、以下の点を挙げることができます。

(1) 輸出や海外事業

メーカーは輸出販売のウェイトが相対的に大きく、円高等による為替リスクが高いため、会計処理上は為替予約等のデリバティブ取引など為替関係の会計処理が重要になります。
また、グローバルで生産体制を確立するメーカーも多く、海外での事業展開を積極的に進めていることから、海外メーカーへの技術供与等によるロイヤリティの収受に係る会計処理や、移転価格等の税務リスクにも留意が必要になります。

(2) リコール制度等に基づく製品保証費用

製品保証費用には保証約款に基づく一般保証費用のほか、リコール等に基づく個別の不具合案件ごとの修理費用が含まれます。これらに対しては将来の発生見込み額を負債計上することになります。 一般保証に対する見積もり方法は、保証期間の1台当たりの保証費用を見積もる方法等が考えられますが、実務上の対応は各社各様です。

リコール費用はリコール発動直後に多額に発生し、その後逓減しますが、完全に収束するまでに時間がかかるため、見積計上した金額と実際に発生した金額との事後的な比較・検証が重要となります。リコールの原因がサプライヤーから供給された部品にある場合、サプライヤーから一定の補填を受けることもあり、補填割合やその金額をどのようなタイミングで未収計上するかの会計処理上の検討も重要です。

なお、リコール等に対応した修理作業は、ディーラーが実施することが一般的なため、ディーラーは修理等にかかった費用をメーカーに請求し、メーカーは請求と対応させ、計上した負債を取り崩していきます。

  製品保証の方法 会計処理等
一般保証 通常の保証約款に基づく保証(無償修理) 過去の実績等に基づく一般引当
リコール等 道路運送車両法に基づくリコール制度
  • リコール
  • 改善対策
  • サービスキャンペーン
  • 延長保証
案件毎に負債を個別に見積もる
例)予想対象台数(※)×1台当たり見積費用
※主な考慮要素
  • 市場に残存する台数
  • 修理に来る割合
なお、案件ごとに個別に見積もる方法に加え、過去の発生状況を基礎にして包括的に見積もる方法を併用しているケースもある

(3) 研究開発

研究開発費については、特定のメーカー専用の部品の開発をサプライヤーに依頼した場合、サプライヤーから開発費相当額を前払い負担するように求められる場合があります。この場合、開発の成果はあくまでもサプライヤーに帰属するため、委託研究ではなく前渡金として処理することになります。研究開発費の費用処理方法には、一般管理費とする方法と当期製造費用とする方法があります。研究開発費を当期製造費用として計上するか否かはメーカーによって対応が分かれており、各社の実態にあった会計処理がなされています。

(4) 棚卸資産

標準原価計算を採用している場合には、標準原価の設定精度や原価差額の発生状況の把握、差額理由の分析、原価差額の期末棚卸資産への適切な按分といった論点が存在します。

原材料の検収から保管、ラインへの払い出し、組み付けといった一連の生産の流れの中で、原材料と仕掛品をどのタイミングで区分するかは、メーカーによって認識が異なり、各社の実態にあった会計処理がなされています。

また、メーカーは補給用部品を一定期間保管し、顧客に供給する義務を負うため、補給用部品の保管期間が長くなる傾向にあります。従って、通常は保管期間や保管数量、不要になった部品の廃棄ルールなどが定められ、会計上の在庫に関する評価損の会計処理とリンクさせることになります。

(5) 金型

完成車に組み込まれる各部品の製造工程において、金型への投資は金額的に重要です。金型の取引形態は、金型をメーカーが調達しサプライヤーに貸与する場合と、サプライヤーが調達しメーカーが金型相当分を分割(24か月が実務上よくみられる)で支払う場合があります。

前者の場合はメーカーにて固定資産として計上されますが、後者の場合にはファイナンス・リース取引として取り扱って、リース資産及びリース債務を認識する必要があるか否かについて慎重に検討することになります。なお、金型の所有権がどちらに帰属するかといった点や、生産が打ち切りになった場合の補償関係が契約書上あいまいなまま取引が行われるケースも実務においてはあるため、実態判断を行う場合においては慎重な検討が必要です。

4.ディーラーの事業の特徴

ディーラーの事業の主な特徴として、以下の点を挙げることができます。

(1) 収益体系の特徴

ディーラーにおける主な取引として、新車販売、中古車販売、修理等売上が挙げられます。一般的に新車・中古車販売の車両本体からの利益率は低く、販売時のクレジット手数料や保険手数料、代行手数料など顧客に付加価値を提供することで利益を維持しているケースが多くみられます。また、修理等売上の利益率は相対的に高いという傾向にあり、車両販売後のアフターサービスに利益依存しているケースが多くなっています。さらに、特定の企業グループでは、同系列のメーカーから一定の条件のもと様々な名目の販売奨励金(インセンティブ)が交付されるため、このようなインセンティブ収入への依存度が高いケースもあります。

(2) 新車売上の収益認識のタイミング

ディーラーが新車販売の売上計上する場合、国内では陸運局における車検登録時に売上を計上する登録基準を採用しているケースと消費者への車両の実際に納車したときに売上を計上する納車基準を採用しているケースがあります。

新車登録台数はメーカー、ディーラーともに主要な業績指標として重視する業界慣行があり、登録台数をベースにディーラーへの報奨金を算定するケースが一般的であることから、登録実績を増加させようというインセンティブがディーラーに働くケースがあります。ただし、昨今は年度末に向けて登録台数を達成するための施策が打たれるケースよりも、登録後の車検に関する修理等業務の平準化のために通年レベルで景気の動向を踏まえた販売戦略に移行しているともいえます。

(3) 中古車の取引形態

ディーラーは中古車を、新車販売時の下取り、オークションでの仕入、自社使用車両の転用などにより取得します。ディーラーが中古車事業を営んでいれば、取得した中古車を個人消費者や中古車業者向けに販売します。中古車オークションに出品し売却する場合もあります。

(4) 修理等売上

修理等売上は利益率が高く、ディーラーの主要な利益の源泉となっています。ただし、その内容は車検などの法定点検や一定のサイクルで実施する自主点検、事故等の修理対応などのため、1件当たりの売上金額は一般的に小さいといえます。

事故等で破損した車両の修理対応時は保険の適用可否の確認が必要となりますが、事前確認が十分でないうちに修理を実施した場合や保険協議が不調となる場合、修理代の回収遅延や回収不能となるケースもあります。

5.ディーラーの会計処理の特徴

ディーラーの会計処理の主な特徴として、次の点を挙げることができます。

(1) 新車販売の会計処理

新車販売は登録時又は納車時に売上計上の処理を実施します。この会計処理自体に特段の特徴はありませんが、売上計上の妥当性を示す資料として登録基準であれば車検証、納車基準であればユーザーからの車両受領書などを具備する必要があります。

登録基準は登録後納車という流れになり、売上処理とモノの動きが一致せず決算期末には登録済未納車が存在することもあるため、会計処理上は未出荷売上の論点に留意することになります。

また、ディーラー自身が所有者となって車両の登録を行い使用することもあります。この理由としてデモカーとして自社の看板がわりの車両として使用する場合や修理時の代車として利用する場合が考えられます。この場合、新車在庫勘定から固定資産勘定等、実態に応じた勘定科目に振り替えることになります。

平成26年5月に公表されたIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」によれば、財又はサービスに対する支配が顧客に移転したときに収益を認識することが明確化されたため、IFRS第15号を適用する際には売上計上基準の具備要件を再検証する必要があります。

(2) 中古車販売及び在庫の評価

中古車の販売は、登録日基準や納車基準などで売上処理をすることになります。オークションでの販売は、オークションで売却されると主催者から精算書が届くため、この精算書に基づき売上等の処理を行うことになります。なお、IFRS適用時においては、オークション以外の中古車販売について、新車販売と同様の課題が生じます。

期末時に在庫となった場合は、収益性の低下を評価に反映させるために必要な会計処理を実施します。顧客からの下取りとして引き取った中古車の場合、新車の値引き名目額を抑える代わりに新車販売の値引き分を含めたいわゆる「高取り」することがあるため、期末の中古車在庫の評価時に留意が必要となります。

また、新車と異なり中古車の時価は、年式や型式、使用頻度や保全状況が車両によって異なるため、画一的な評価基準を設けることが難しいとされます。一般的には過去の売買事例やオークション相場を参照にした価格、車両毎に現車の査定をすることにより評価額を決定するなどの評価方法が用いられるようです。

(3) 修理等売上

修理等売上の計上基準は、対価を得るために必要な修理等が完了した時点で売上処理をする修理等完了基準と消費者へ納車した時点で売上処理をする納車基準があります。なお、平成26年5月に公表されたIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」によれば、財又はサービスの支配を顧客が獲得したか否かの判断基準として検収条項を考慮する必要があるとされています。そのため、IFRS第15号を適用する際には修理等売上の計上基準の具備要件を再検証する必要があります。

売上計上の妥当性を裏付ける資料として、修理等完了基準の場合は、修理等が完了した日を明確にすることができる修理完了報告書などを具備する必要があり、納車基準の場合は、車両受領書を入手する必要があります。

<参考文献等>


自動車産業

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