アパレル業界 第2回:売上及び営業費用

2022年2月14日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 消費財セクター
公認会計士 田代隆志/柳本高志

1. アパレル業界における各種プロセスと企業が支出する費用

第1回ではアパレル業界の概況について記載しましたが、第2回では具体的に、アパレル業界の売上及び営業費用の会計処理及び内部統制を見ていきます。まずは、アパレル業界のプロセスと費用の関係について、まとめます。

<図表1>

<図表1>

(1) 商品企画

販売計画に基づいて、商品企画を実施していきます。マーケティング活動を基に投入する商品の方針を決め、サンプルを作成し、ブランドによっては展示会を開催し、取引先との交渉を実施していきます。社内外の反応だけではなく、投入する商品の原価等の要素も踏まえて最終的に確定することになります。商品の企画を行うことは同時に商品の想定原価を決めることになるので、アパレル企業の収益性にも大きな影響を与えることになります。

発生する費用:マーケティング費用、展示会開催費用、デザイン費用等

(2) 製造

実際の製造活動に入ります。多くのアパレル企業は販売と企画に軸足を置いており、製造機能を有していないため、外部企業への製造委託という形を取ります。製造拠点は、コスト競争力を考えて海外への発注がほとんどです。海外との取引が発生するため為替変動リスクにさらされることも多く、また、自社で製造を行うSPA(Specialty store retailer of Private label Apparel)の形態を取る企業は、製造リスクも負うことになります。

発生する費用:商品原価、製造原価(原材料や人件費等含む)

(3) 保管・配送

外部企業又は自社工場からの仕入れを受けて、倉庫で保管を行うことになります。海外からの仕入れについては、関税が発生することもあります。近年はECサイトからの販売も増えていますが、EC販売は個人顧客へ配送を行うため、店舗販売と比較して配送頻度が増え、運送料が膨れる傾向にあります。

発生する費用:倉庫費用(人件費含む)、関税、運送料

(4) 販売活動

販売活動で大きな割合を占める費用は広告宣伝費、販売員の人件費であり、実店舗の場合は賃料がかかります。広告宣伝費は、雑誌媒体やダイレクトメール等の広告料が多くを占めるケースがよくあるものの、近年はインターネット広告やメールマガジンの配信等、多額のコストを要しない広告へのシフトが見られます。人件費については、近年の人手不足の環境下で販売員の確保が難しいことから、派遣社員の採用や、契約社員の正社員への転換を進めている事例があります。また、実店舗ではブランド戦略に応じた魅力的な店舗とするため、デザイン料、什器・備品の購入費用等も必要となります。さらに、EC販売を伸ばすためのシステム開発に伴う減価償却費やモールの運営費用等が、近年増加傾向にあります。

発生する費用:広告宣伝費、販売員の人件費、賃借料、システム開発に伴う減価償却費及び運用費用

2. アパレル業界の売上に関わる会計処理

2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首より、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識会計基準)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、収益認識適用指針)、いわゆる新収益認識会計基準が適用となりました。これら新収益認識会計基準の適用を踏まえつつ、業種特有の論点について解説いたします。

(1) 販売チャネルと収益認識時点

アパレル業界では、アパレルメーカーが消費者へ直接販売するケースに加えて、小売業者を経由して消費者に販売するケースも多いです。また近年、EC販売も増加しています。このため、アパレルメーカーから見た場合、主な販売チャネルは、直営店販売・卸販売・EC販売に大別されます。

<図表2>

<図表2>

企業は顧客との間で約束した履行義務を充足した際に収益を認識します(収益認識会計基準第35項)。直営店販売の場合、アパレルメーカー(企業)が消費者(顧客)に直接販売するので、通常、アパレルメーカーが消費者に商品を引き渡した際に収益が認識されます(履行義務の充足)。一方、卸販売やEC販売は、商習慣や取引形態の違いにより収益認識時点が異なります。

卸販売の場合、アパレルメーカー(企業)の顧客は小売業者となるため、基本的に小売業者に商品を引き渡した際に、アパレルメーカーは履行義務を充足したこととなります。しかし、百貨店やショッピングモールとの取引においては、アパレル業界特有の消化取引(※)があります。消化取引においては、アパレルメーカー(企業)の顧客は消費者になると考えられるため、小売業者への商品引き渡し時ではなく、消費者への商品引き渡し時に、収益が認識されます。

(※)消化取引とは、各アパレルメーカーが百貨店等にある自社の店舗で消費者に対して販売した際に、百貨店等の当該商品の仕入れが成立するという取引形態です。契約上はアパレルメーカーと百貨店等での販売契約となっている場合もありますが、消費者に対して販売した価格(上代)の一定割合を乗じた百貨店利益相当額が歩合家賃とされている、実質的な消化取引もあります。また消化取引の場合には、百貨店等の店頭にある商品はアパレルメーカーが所有している商品であり、売れ残りや陳腐化等のリスクをアパレルメーカーが負うことになります。

EC販売の場合、自社サイトでの販売は、消費者に直接商品販売を行うため、アパレルメーカー(企業)消費者に商品を引き渡したタイミングで収益を認識します。ECモールでの販売は、①他社サイト上で出店・出品するケースと②ECモールが自らリスクを取って商品を買取り・販売をするケースに分けられます。アパレルメーカー(企業)の顧客は、①であれば消費者、②であればECモールになると考えられ、それぞれ①消費者への引き渡し時、②EC業者指定の倉庫などに商品を引き渡した際に、アパレルメーカーが収益を認識することになります。

<図表3>

<図表3>

(2) 販売価格と変動対価

各アパレルメーカーは、ブランド価値を維持するため、消費者が店頭で目にする小売価格(上代)と小売業者やECモールへの卸価格(下代)を明確に分けて管理しています。また小売業者やECモールが買い取った在庫に対しても、著しく小売価格(上代)が下がらない様に小売業者やECモールにも協力を要請しています。しかし、シーズン単位(SS:Spring Summer、AW:Autumn Winter)で新商品を投入することが多く、新シーズン商品を投入する際には、店頭陳列スペースを確保する必要があるため、過去シーズン商品の返品や様々な値引き施策を行うことがあります。これらの返品・値引きなどの変動対価(収益認識会計基準第50項)部分に関する会計処理について記載します。

a. 値引き・マークダウン

アパレルメーカーは、新シーズン商品を投入する前に、旧シーズン商品の売値をさげて(マークダウン)、旧シーズン商品の販売を促進します(セール販売)。この際、卸販売を一度行った在庫に対してもマークダウンに伴う値引きを行い、小売業者に対する売掛金の相殺や返金を行います。アパレル業界では、この値引き・マークダウンは継続して行われるビジネス習慣であることから、この値引き・マークダウン額を見積り、売上から控除して返金負債を計上する必要があります(収益認識適用指針 設例12)。

例:当期において10,000円の売上が生じたものの、翌期において1,000円の値引き・マークダウンが見込まれる場合、当期の仕訳は以下の通りとなります。

(当期)

(当期)

b. 返品

値引き・マークダウンと同様に、アパレルメーカーは、シーズン商品の入替えを行う際に小売業者から旧シーズン商品の返品を受けることがあります。返品もアパレル業界におけるビジネス習慣であるため、返品額を見積り、売上から控除して返金負債を計上します。さらに製品を回収する権利として資産の計上も行います(収益認識適用指針 設例11)。

例:当期において10,000円の売上(原価率50%)が生じたものの、翌期において1,000円の返品が見込まれる場合、当期の仕訳は以下の通りとなります。

(当期)

(当期)

なお上記の設例では、返品資産を当初の原価である500円で計上していますが、当初の販売から時間が経過し良好な状況でなければ(例:傷がついている、実質的に中古品等)、相当の減額を行って返品資産額を評価する必要があると考えられます。

c.(自社)ポイント値引き

アパレルメーカーや小売業者は、継続した商品の購買につなげるため、自社で商品を購入した際に、一定の販売金額に応じてポイントを付与し、顧客が再度来店した際に、当該ポイントに応じて値引きを受けられる仕組み(カスタマー・ロイヤルティ・プログラム)を提供するケースがあります。この場合、既存の商品の販売やサービスの提供に加えて、顧客に対して将来の商品やサービスとの引換えに使用できる重要な権利(ポイント)を与えていることになるため、当該ポイント部分に取引価格を配分し、配分した額を契約負債として収益の繰延を行います(収益認識適用指針 設例22)。

ただし、アパレル業界では様々なポイント制度の実務があり、新規顧客の獲得や来店を促すために、既存の商品販売・サービス提供とは関係なくポイントを付与するケース(アクションポイント:来店ポイント、店舗発行カードの入会ポイント等)もあり、この場合は企業会計基準注解【18】の要件に基づき、引当金計上の要否を検討する必要があります。引当金の計上が必要と判断されれば、販売促進的な性質に着目して、当該ポイントに関する費用を販売費及び一般管理費の区分で計上することが考えられます。

いずれのケースにおいても、付与したポイントの将来の利用率を見積って会計処理を行う必要があります。特性(失効期間や還元率等)に着目したポイント種類ごとの管理を行い、見積りに関する内部統制の構築が必要となります。

例:当期において10,000円の売上とともに1,000円相当の自社ポイントが付与され、当該ポイントの100%が使用される(ポイントの独立販売価格1,000円=1,000円×100%)と見込んだ場合、当期の仕訳は以下の通りとなります。

(当期)

(当期)

※1 9,091円=10,000円×10,000÷(10,000円+1,000円)
※2 909円=10,000円×1,000÷(10,000円+1,000円)

<参考文献>

『ポイント制度のしくみと会計・税務』(中央経済社・EY新日本有限責任監査法人編集)

d.(他社)ポイント値引き

アパレル業界の企業は、消費者側のメリット(ポイントカードを何枚も持たなくてよい等)を勘案して、第三者が運営するポイントプログラムに参加することがあります。この場合、自社でポイントの管理を行うことは難しく、商品販売やサービス提供時に他社ポイントを付与しても、次の商品販売やサービス提供と直接的な結びつきを見出すことは難しいと考えられます。このため、付与したポイントに相当する金額は、収益としては認識せず、他社に対する未払金として処理することが考えられます(収益認識適用指針 設例31)。

例:当期において10,000円の売上とともに1,000円相当の他社ポイントが付与され、当該ポイント相当額は後日他社に精算される場合、当期の仕訳は以下の通りとなります。

(当期)

(当期)

(3) パーソナルオーダーの販売に関する会計処理

従来は既製品の販売が多かったアパレル業界ですが、デジタル技術の発達により安価な採寸、裁断、縫製等が可能となり、個人の体形に合ったオーダー品の注文生産が増加してきました。主に、メンズのスーツで導入が進んでいます。

パーソナルオーダーの場合、採寸時に料金の支払いが行われることが多いですが、この時点では企業は履行義務を充足していません。このため、オーダー品の引き渡しにより履行義務が充足されることを前提にすると、オーダー品を引き渡すまでは契約負債として収益を繰り延べる必要があります。

(顧客採寸、料金支払い時)

(顧客採寸、料金支払い時)

(オーダー品引き渡し時)

(オーダー品引き渡し時)

アパレル業界ではPOS(Point of Sales:販売時点情報管理)等のシステムの導入が進んでいるため、新規にパーソナルオーダー事業に参入する場合には、システムの改修等が必要になることがあります。

(4) ファッションレンタル業に関する会計処理

アパレル業界においても、定額利用料を支払うことで好きなアイテムをレンタルする動きが広がっています。出費を抑えつつ最新のファッションを楽しむことができる、気になっているアイテムを試しにレンタルすることができる等のメリットがあり、特に女性消費者の間で広がりを見せています。

ファッションレンタル業における企業の履行義務は、消費者が希望するアイテムをレンタル期間中貸し出すことを通じて充足されます。料金は前払いとなることが多いため、この時点では契約負債として預かり計上し、上記の履行義務の充足(アイテム貸し出し期間の経過)に応じて収益を計上することになります。

(利用料の支払時)

(利用料の支払時)

(レンタル期間の終了時)

(レンタル期間の終了時)

なお収益に対応する費用に関して、カーシェアや映像配信などのビジネスにおいては、消費者がレンタルする資産を固定資産として計上し、減価償却として費用計上するケースが多いと考えられますが、ファッションレンタル業においては、レンタル期間終了時においてアイテムを販売することもあるため、対象資産を棚卸資産として計上しつつ、中古品である実態を適切に反映させるため相当の評価減を行うことで費用計上していると考えられます(企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」第7~9項)。

(5) 消化取引におけるファッション小売業者の収益の表示

消化取引を行っている場合、百貨店等のファッション小売業者の店頭にある商品はアパレルメーカーが所有している商品であり、売れ残りや陳腐化等のリスクをアパレルメーカーが負うことになります。商品の販売の主たる責任は、出店しているアパレルメーカーが負い、店頭の販売価格もアパレルメーカーが決めていると考えられます。

従って、収益認識適用指針第47項の3項目に照らすと、ファッション小売業者は代理人として判断され、収益を純額表示する必要があります(収益認識適用指針 第40項)。

例:アパレルメーカーからファッション小売業者への販売価格が9,000円で、店頭で商品が10,000円で販売された際、ファッション小売業者の仕訳は以下の通りです。

(店頭販売時)

(店頭販売時)

<参考>収益認識適用指針第47項の3項目

  • ファッション小売業者が、商品を顧客に販売する「主たる責任」を有しているか
  • ファッション小売業者が、「在庫リスク」を有しているか
  • ファッション小売業者が、「価格決定の裁量権」を有しているか

3. アパレル業界における賃料等

前述の通り、アパレル業界の販売チャネルは多岐にわたります。それに伴い、販売チャネルごとの賃借料等の費用項目が異なります。

<図表5>

<図表5>

*1 顧客への販売金額に比例して賃借料を徴収する方式。消化取引で採用されるケースが多い。販売金額に比例しない固定賃料を併用するケースや、歩合家賃の比率が通常販売時とバーゲンセール時には負担割合が変わるケース等、様々な契約がある。

*2 当該販売チャネルであることを起因として、直接的に費用を負担するケースは少ないものの、その代わり、上代よりも低い価格で小売業者に商品を提供する必要性が生じる。

販売チャネルと賃借料等の種類は前述のような結び付きが多くなっていますが、百貨店等においても固定家賃制度を採用する店舗が増える等、傾向に変化が生じています。従来は百貨店等が、テナントとして入居している店舗に対して手厚い顧客管理や販売促進活動を提供していましたが、合理化を行うことで費用を圧縮する動きがあるためです。

ECチャネルでは店舗家賃の発生はありませんが、自社サイトの運営費(ソフトウェア費用)や配送料、専用の倉庫代等がかかります。また、外部のインターネットモールへ出店している場合には出店料等のコストがかかります。

4. 売上債権の回収

アパレル業界での売上債権の回収に係る特徴を述べます。前述のように販売チャネルが多岐にわたるため、売上債権の回収パターンについても比較的、多岐にわたります。

<図表6>

<図表6>

小売業者(百貨店・ショッピングモール等)やECモール(他社サイト)を経由して商品を販売する場合、消費者は店頭で現金やクレジットにて決済を行いますが、歩合家賃やサイト運営手数料などを差し引いてアパレルメーカーに入金されるケースが多くなります。

5. 売上及び営業費用に関連する内部統制

アパレル業界の売上及び営業費用に関する内部統制で考慮すべきリスク要因について、財務諸表に影響を与えるリスクを中心に記載します。

(1) 従業員及び顧客の盗難リスク

アパレル業界では販売する製品が誰でも使用できる服飾類であり、昨今はネットでの販売等、換金も容易であるため、盗難リスクは高くなります。店舗や倉庫での定期的な棚卸を行い、実物と帳簿数量の差異について分析を行う必要があります。

(2) 現金等の盗難リスク

店頭で現金を扱うケースが多いため、現金等を店員が横領する可能性があります。

現金を扱う店舗では、日々の業務終了後、レジに記録された売上記録と現金残高の照合や、手許現金を多額に残さないよう頻繁な銀行への入金等により管理することが必要です。また、管理部門でも定期的なチェック(売上金額と現金等の一致を確認する等)を実施する必要があります。

(3) システムリスク

アパレル業界では、同じブランドデザインであってもサイズ違いや色違いにより異なる商品として取り扱われる(=SKU(Stock Keeping Unit)による在庫管理を行う)ため、商品点数が非常に多くなる傾向があります。店頭でのPOSシステムや在庫管理システム等を通じて管理することが多いため、システムに依拠する程度が高くなってきています。

このため、システム不具合により会計数値が正しく集計されない等のリスクがあり、顕在化した場合には大きな誤りが起きることがあります。システム構築時や改修時には、実態に即した要件定義を行い、実行する必要があります。

近年は、特にECサイトを構築しているケースが多くあり、既存システムとの連携についても事前に十分な検討を行うことが必要です。

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