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税効果会計

第2回:繰延税金資産の回収可能性

2010.08.06
新日本有限責任監査法人 公認会計士 井澤依子

1.繰延税金資産の回収可能性判断

繰延税金資産は、将来の課税所得を減少させることにより、将来の税負担を軽減することが認められることを条件に資産計上が認められる資産です。よって将来の課税所得を減少させ、税負担を軽減すると認められる範囲での計上が要求されており、繰延税金資産の計上は、将来減算一時差異のスケジュ-リングなど、慎重かつ十分な検討を行い決定することが必要です。以下では、その判断要件及び留意事項についてご説明いたします。

(1)回収可能性の判断要件

①収益力に基づく課税所得の十分性

繰延税金資産の回収可能性の判断において、まず収益力に基づく課税所得の十分性が問題とされます。収益力に基づく課税所得の十分性は、将来減算一時差異の解消年度ないし税務上の繰越欠損金の繰越期間において課税所得が発生する可能性が高いと見込まれるか否かにより判断されることとなります。

課税所得が発生する可能性が高いかどうかを判断するためには、過年度の業績及び将来の業績予測等を総合的に勘案し、課税所得の額を合理的に見積る必要があります。実務においてこの将来の課税所得を合理的に見積ることが最も難しいと考えられます。

なお、ここで言うところの「課税所得」とは、一時差異のうち解消が見込まれる各年度の解消額を加算ないしは減算する前及び税務上の繰越欠損金を控除する前の繰越期間の各年度の所得見積額であり、税法上の課税所得と異なる点に注意してください。

②タックス・プランニングの存在

タックス・プランニングとは、将来減算一時差異の解消年度や税務上の繰越欠損金の繰越期間において、具体的な課税所得を発生させることを計画することをいいます。含み益のある固定資産または有価証券を売却するなどタックス・プランニングが存在することにより、将来減算一時差異等の減算が生じる年度における課税所得を確保することで繰延税金資産の回収可能性が確実なものとなります。

③将来加算一時差異の十分性

(イ)将来減算一時差異に係る税効果の認識

将来減算一時差異の解消年度に将来加算一時差異の解消が見込まれること。

(ロ)税務上の繰越欠損金に係る税効果の認識

繰越期間に税務上の繰越欠損金と相殺される将来加算一時差異の解消が見込まれること。

2.繰延税金資産の計上限度額と回収可能性の見直し

将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産は、回収可能性の判断要件を考慮した結果、当該将来減算一時差異(複数の将来減算一時差異が存在する場合には、それらの合計)及び税務上の繰越欠損金が将来の課税所得を減少させ、税金負担額を軽減することができると認められる範囲を超える部分が生じることがあります。当該超過部分については、評価性引当額として繰延税金資産を計上しないことになります。

また、繰延税金資産の計上額は会社の決算日ごとに見直し、回収可能性の判断要件を満たさなくなった場合には、計上されていた繰延税金資産のうち過大となった金額を取り崩さなければなりません。

3.将来年度の課税所得による繰延税金資産の回収可能性に関する判断指針

将来の課税所得の見積りの問題は、監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(以下、委員会報告66号)が公表されているためこれに従った対応が要求されます。

「委員会報告66号」では、繰延税金資産の回収可能性は、多くの場合、将来年度の会社の収益力に基づく課税所得に基づいて判断することになりますが、将来年度の会社の収益力を客観的に判断することは実務上困難であるとした上で、過去の業績等の状況を主たる判断基準として、会社の状況を代表的な五つの場合に分け、回収可能性を判断するに当たっての考え方を示しています。

① 期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期計上している会社

将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期計上している会社で、その経営環境に著しい変化がない場合は、将来においても一定水準の課税所得を発生させることが可能であると考えられます。

② 業績は安定しているが、期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得がない会社

過去の業績が安定していて、当期及び過去(概ね3年以上)連続してある程度の経常的な利益を計上している会社は、将来においても同水準の課税所得の発生が見込めると判断します。この②分類に属する会社は、一時差異等のスケジューリング結果に基づいて、それにかかる繰延税金資産につき、回収可能性があると判断します。

③ 業績が不安定であり、期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得がない会社

過去の経常的な損益が大きく増減しているような会社の場合は、通常、長期にわたる安定的な課税所得を見積ることができないと考えられます。よって合理的な見積可能期間(概ね5年)内の課税所得の見積額を限度として、当該期間内の一時差異等のスケジューリング結果に基づいて計上した繰延税金資産は回収可能と判断します。

②分類と③分類との相違点は、③分類においては、スケジューリング期間を見積り可能な5年間と限定していますが、②分類においては、そのようなスケジューリング期間の限定はないということにあります。

④ 重要な税務上の繰越欠損金が存在する会社

税務上の繰越欠損金に重要性が存在する会社、過去(概ね3年以内)に重要な税務上の欠損金が期限切れとなったような会社または当期末において重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる会社は、通常、将来の課税所得を合理的に見積ることは困難であると判断されます。従って、そのような会社においては、翌期の課税所得の発生が、確実に見込まれる場合であって、かつその範囲内において、翌期の一時差異のスケジューリング結果に基づき繰延税金資産を計上している場合には、当該繰延税金資産に回収可能性があるものと判断します。

しかし、税務上の繰越欠損金が、リストラを実施したなどの特別な要因に基づいて発生したものであり、それを除けば課税所得を毎期計上しているような場合は、将来の合理的な見積可能期間(概ね5年)内の課税所得を限度に繰延税金資産を計上することができると考えられます。

④分類と③分類との相違点は、重要な税務上の繰越欠損金が存在する点であり、④分類本則と④分類ただし書きとの相違点は、税務上の繰越欠損金の発生原因です。③分類と④分類ただし書きは、いずれも5年間の課税所得の見積りと一時差異等のスケジューリングによりますが、④本則では、翌期の課税所得の確実な見積りと一時差異等のスケジューリングによるということになります。

⑤ 過去連続して重要な税務上の欠損金を計上している会社

過去連続して重要な税務上の欠損金を計上している会社や、債務超過又は資本の欠損が長期間続いているような会社は、通常、将来の課税所得の発生を合理的に見積ることができないと考えられるため、繰延税金資産の回収可能性はないものと考えられます。また、債務超過の状況にある会社や資本の欠損の状況が長期にわたっている会社で、かつ、短期間に当該状況の解消が見込まれない場合には、これと同様に取り扱うものとされます。

4.違法配当の危険性について

繰延税金資産は、その後の事業年度に回収不能が明らかになり、取り崩しがなされることがあります。繰延税金資産が計上されている事業年度に繰延税金資産に相当する金額が、配当の原資として使われている場合には、繰延税金資産計上時点にさかのぼって繰延税金資産計上の妥当性を問われることがあり、当時の配当決議が違法配当と判断される可能性があることに十分留意する必要があります。

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