わかりやすい解説シリーズ「税効果」 第2回:一時差異と永久差異、繰延税金資産と繰延税金負債

2011年12月22日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 鯵坂雄二郎
公認会計士 中村 崇

1. 『企業会計』と『税務会計』の違い(ズレ)の「発生」と「解消」

【ポイント】
『企業会計』と『税務会計』の違い(ズレ)の中には、「発生」した後「解消」されるものがあります。

それぞれの会計の目的が異なるため、『企業会計』と『税務会計』には違い(ズレ)があるとしましたが、この違い(ズレ)の中には、「発生」した後「解消」されるものがあります。
具体的に、第1回で使用した長期滞留在庫の例を用いて、「発生」と「解消」の流れを見ると次のようなイメージとなります。

  • 発生(×1年度)と解消(×2年度)

×1年度:発生 (『企業会計』と『税務会計』の違い(ズレ)100が発生)

×1年度:発生 (『企業会計』と『税務会計』の違い(ズレ)100が発生)

※1 損金として認められなかった在庫の評価損100を加算(プラス)

×2年度:解消 (『企業会計』と『税務会計』の違い(ズレ)100が解消)

×2年度:解消 (『企業会計』と『税務会計』の違い(ズレ)100が解消)

※2 ×1年度に評価損を計上した長期滞留在庫を廃棄し損金として認められたため、在庫の評価損100を減算(マイナス)

前提条件

  • ×1年度の収益は500、費用は400。費用400には損金(『税務会計』上の費用)として認められない長期滞留在庫の評価損100が含まれている(損金として認められるのは300)
  • ×2年度の収益は500、費用は300。×2年度に、×1年度に評価損を計上した長期滞留在庫を廃棄したため、×1年度に発生したズレが解消し、100が損金として認められている。

2. 税効果会計の適用対象となる差異(ズレ)

【ポイント】
『企業会計』と『税務会計』の違い(ズレ)は、「一時差異」と「永久差異」の二つに分かれます。
(1) 一時差異 → 税効果会計の対象となる差異
(2) 永久差異 → 税効果会計の対象外となる差異

一時差異と永久差異

『企業会計』と『税務会計』の差異(ズレ)は、二つに分かれます。

(1) 一時差異:
『企業会計』と『税務会計』の認識時期のズレによるもの(いずれ解消されるズレ)
(2) 永久差異:
『企業会計』と『税務会計』の考え方自体が異なるもの(永久に解消されないズレ)
すなわち、一時差異は「発生」したら「解消」される差異と言え、永久差異は「発生」しても「解消」されない差異と言えます。

  • 一時差異、永久差異の具体例

    一時差異 永久差異
    • 税務上認められない評価損(棚卸資産 等)
    • 貸倒引当金の損金算入限度超過額
    • 退職給付引当金
    • 賞与引当金
    • 積立金方式による圧縮積立金
    • 交際費等の損金不算入額
    • 受取配当金の益金不算入額

    ※ 上記とは別に、一時差異に準じる項目として「繰越欠損金」があります。

    (一時差異)
    ここまで例として使用している、長期滞留在庫の評価損100について、以下で考えます。
    まず、×1年度において、『企業会計』で評価損100を費用とする一方、『税務会計』では損金としては認められなかったことから、『企業会計』と『税務会計』で違い(ズレ)100が「発生」しています。
    そして、×2年度において、×1年度に『企業会計』で評価損を計上した長期滞留在庫を廃棄したため、『税務会計』で100が損金として認められたことから、結果として、×1年度に発生した『企業会計』と『税務会計』の違い(ズレ)100が「解消」しています。
    従ってこれは、×1年度に「発生」した後、×2年度に「解消」していることから「一時差異」に該当します。

    (永久差異)
    例えば交際費について、『企業会計』では全てが費用となりますが、『税務会計』では政策的観点から損金としての計上が制限されており、ここで生じた差異は永久に解消しません。
    このように『企業会計』と『税務会計』の考え方の違いで、永久に解消しないものが永久差異に該当します。

    一時差異、永久差異の具体例
  • 税効果会計の対象となる差異(ズレ)

    『企業会計』と『税務会計』の差異(ズレ)のうち、いつか解消されるものが税効果会計の対象となるため、一時差異が税効果会計の対象となります。
    一方、永久差異については永久にその差異は解消されないため、税効果会計の対象とはなりません。

3. 一時差異の種類

【ポイント】
一時差異は、その解消する際のパターンで「将来減算一時差異」と「将来加算一時差異」の二つに分かれます。

(1) 将来減算一時差異:
将来解消する時に、課税所得が『減算』(マイナス)される一時差異

(2) 将来加算一時差異:
将来解消する時に、課税所得が『加算』(プラス)される一時差異

税効果会計の適用対象となる一時差異はさらに二つに分かれます。

(1) 将来減算一時差異:

将来解消する時に、課税所得が『減算』(マイナス)される一時差異

特徴

税務会計>企業会計・税務会計<企業会計

(2) 将来加算一時差異:

将来解消する時に、課税所得が『加算』(プラス)される一時差異

特徴

税務会計<企業会計・税務会計>企業会計

ここまでを要約すると、差異は次のように分類されます。

将来加算一時差異

4. 繰延税金資産・繰延税金負債とは

【ポイント】
「将来減算一時差異」・「将来加算一時差異」に、それぞれ税率を乗じることで「繰延税金資産」・「繰延税金負債」が計算されます。

(1) 繰延税金資産:
将来の税金が安くなる権利(実質的には、法人税の前払い)

(2) 繰延税金負債:
将来の税金が高くなる要因となるもの(実質的には、法人税の未払分)

ここまで説明した「将来減算一時差異」・「将来加算一時差異」というものに、それぞれ税率を乗じることで「繰延税金資産」・「繰延税金負債」の金額が計算されます。

なお、「繰延税金資産」・「繰延税金負債」という勘定科目を使う際には、法人税等調整額(P/L科目)という勘定科目を相手勘定として使用します。

  • 繰延税金資産
将来減算一時差異 → 繰延税金資産

将来、課税所得が『減算』(マイナス)される一時差異

将来の税金が安くなる「権利」のため、繰延税金資産(資産勘定)を使用する。
(実質的には、法人税の前払い)

~仕訳~
【借方】繰延税金資産(資産) / 【貸方】法人税等調整額 (P/L)

  • 繰延税金負債
将来加算一時差異 → 繰延税金負債

将来、課税所得が『加算』(プラス)される一時差異

将来の税金が高くなる要因となるため、繰延税金負債(負債勘定)を使用する。
(実質的には、法人税の未払分)

~仕訳~
【借方】法人税等調整額(P/L) / 【貸方】繰延税金負債(負債)

  • 繰延税金資産の発生・取り崩しのイメージ

【前提】
税引前利益500
将来減算一時差異100が×1年度に発生し×2年度に解消
税率は40%

繰延税金資産の発生・取り崩しのイメージ
  • ×1年度

    【要納税額の計算】
    課税所得(500+100)×税率40%=要納税額240

    【税効果の計算】
    将来減算一時差異の「発生」100×40%=40 ... 実質的な法人税の前払い(将来の税金が安くなる権利)

    (仕訳)
    【借方】繰延税金資産(資産)40/【貸方】法人税等調整額(P/L)40

    ×1年度
  • ×2年度

    【要納税額の計算】
    課税所得(500-100)×税率40%=要納税額160

    【税効果の計算】
    将来減算一時差異の「解消」△100×40%=△40 ... 将来の税金が安くなる権利を使用

    (仕訳)
    【借方】法人税等調整額(P/L)40/【貸方】繰延税金資産(資産)40

    ×2年度
  • 繰延税金負債の発生・取り崩しのイメージ

【前提】
税引前利益500
将来加算一時差異100が×1年度に発生し×2年度に解消
税率は40%

繰延税金負債の発生・取り崩しのイメージ
  • ×1年度

    【要納税額の計算】
    課税所得(500-100)×税率40%=要納税額160

    【税効果の計算】
    将来加算一時差異の「発生」100×40%=40 ... 実質的な法人税の未払分

    (仕訳)
    【借方】法人税等調整額(P/L)40/【貸方】繰延税金負債(負債)40

    ×1年度
  • ×2年度

    【要納税額の計算】
    課税所得(500+100)×税率40%=要納税額240

    【税効果の計算】
    将来加算一時差異の「解消」△100×40%=△40 ... 実質的な法人税の未払が解消

    (仕訳)
    【借方】繰延税金負債(負債)40/【貸方】法人税等調整額(P/L)40

    ×2年度

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