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「無形資産に関する論点の整理」について

第2回:取得形態と無形資産の認識

2010.05.13
新日本有限責任監査法人 ナレッジセンター
公認会計士 森さやか
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第1回では、「無形資産に関する論点の整理」の【論点1】定義と【論点2】認識要件を紹介しました。これを踏まえて、第2回では、【論点3】取得形態の違いによる無形資産を認識するための定義や認識要件の充足の判断についての検討内容を解説します。

なお、この【論点3】においては、自己創設による取得として社内研究開発費の取扱いが取り上げられています。わが国の取扱いでは、研究開発費はすべて発生時に費用として処理するとされていますが、論点整理では、無形資産の定義に該当し、認識要件を満たす限り、開発に係る支出も資産計上するという方向性が示されている点が大きなポイントです。


I 【論点3】取得形態別の認識

論点整理では、企業が無形資産を取得する方法として、外部から承継的に取得する方法と、自ら無形資産を創出し、原始的に取得する方法とに区分し、さらに、外部から承継的に取得する場合は、一定の無形資産そのものを買い入れる場合と、企業結合に伴ってその一部として無形資産を受け入れる場合が考えられるとして、大きく三つの区分に分けて、それぞれの取得形態別の認識について検討しています。

検討に当たっては、第1回で解説した無形資産の定義と認識要件に照らして、それぞれにつき「識別可能性」、「経済的便益をもたらす蓋然性」および「取得原価の測定可能性」に着目しています。

【図表2:【論点3】取得形態と無形資産の認識】(筆者作成)

取得形態と無形資産の認識

以下、それぞれの取得形態別の検討事項を解説します。


1.【論点3-1】個別買入れによる取得

企業が第三者から通常の取引価額で買い入れて取得した場合についても、定義と認識要件をもとに検討されることになります。

IAS第38号では、通常無形資産を取得するために支払う価額には、発生可能性の影響が反映されていることから、経済的便益をもたらす蓋然性の要件は常に満たされているとみなされるとしています。また、その原価も通常信頼性をもって測定できるため、測定可能性の要件についても通常満たされるとしています。

【検討と今後の方向性】

先に挙げた検討のポイントに照らすと、識別可能な無形資産が個別買入の対象となると考えられ、また実際に分離して譲渡がなされる以上、識別可能性があることについては自明であると考えられるとされています。

また、通常は不確実性を反映して対価が定められるため、このような形態で取得されたものについては、一般的に経済的便益をもたらす蓋然性の要件を満たしているものとしています。

さらに実際に支出した対価があるため、測定可能性についても特に問題はないとしています。ただし、研究活動の成果を買い入れる場合などについては、経済的便益をもたらす蓋然性の要件を満たしていると判断できるのか、他の取得形態との関係も踏まえ、引き続き検討するとしています。

論点整理ではこの検討を踏まえ、企業が外部から個別に買い入れた場合、通常は無形資産としての認識に必要なすべての条件を満たすことになるものと考えられるとしています。

【論点整理公表後の検討状況】

この論点に関しては、研究活動の成果を買い入れる場合についてのコメントが多く寄せられ、ASBJではこの場合の取扱いについて引き続き検討しています。

研究活動の成果を買い入れる場合については、経済的便益の蓋然性を満たしているといえない場合もあるとして、個別買入の場合であっても、自己創設(後述)と同じ厳格な要件を求めるのがよいなどの意見が挙げられています。

ASBJではその後、会計処理について、特定の研究目的にのみ使用するための資産を買い入れる場合、通常はその対価に将来の経済的便益の不確実性が反映されていない事から、発生時に費用処理する。外部に研究開発を委託する場合、通常はその対価に将来の経済的便益の不確実性が反映されていない事から、研究の成果は費用処理し、開発については自己創設無形資産の認識要件を満たすものを除き費用処理することなどが提案されています。


2.【論点3-2】企業結合による取得

【現行の取扱い】

企業結合会計基準では、企業結合により受け入れた資産および負債のうち、識別可能なものについては取得原価を配分し、認識することとされており、企業結合により受け入れた無形資産が、法律上の権利など分離して譲渡可能な場合には、識別可能なものとして取り扱うこととしています(第32項参照)。また、分離して譲渡可能であるためには、対象となるものの独立した価格を合理的に算定できる必要があるとされています(「企業結合会計基準および事業分離等会計基準に関する適用指針」第59項)。

【国際的な会計基準の取扱い】

IAS第38号では、企業結合時において法的権利または分離可能な無形資産はのれんから区別して識別しなければならないとしています。また、そのような無形資産は、その公正価値に当該無形資産の発生可能性の影響が反映されていることから、経済的便益をもたらす蓋然性の要件は常に満たされ、さらに、企業結合で取得した識別可能な無形資産の公正価値は、のれんと別に認識するに当たって、通常、十分な信頼性をもって測定できるとしています。

【検討と今後の方向性】

ここでも、先に挙げた検討のポイントに照らして検討しています。

経済的便益をもたらす蓋然性の要件については、将来の経済的便益をもたらす不確実性が時価に反映されていると考えられるため、この要件は満たされているとされています。

さらに、企業結合においては、取得する企業または事業全体の取得原価が特定され、この取得原価が識別可能資産および負債に配分されるという手続きがとられることとなっており、通常は測定可能性についても確保され得るとしています。

論点整理では、この検討を踏まえ、識別可能性に関する具体的な内容(表現)については、企業結合により無形資産を受け入れる場合においても、国際会計基準と同様に「法律上の権利又は分離して譲渡可能なもの」とすることを示し、取得形態にかかわらず首尾一貫した無形資産の会計処理を行うことができるようにするとともに、コンバージェンスに資するとしています。また、企業結合によって無形資産の定義に該当するものを受け入れた場合には、例外的な場合を除き、当該無形資産に関する認識要件は満たされているものとしています。

【現行の実務への影響】

IAS第3号では、企業結合で取得された無形資産の例が収録されています。これを見るとわが国で認識されている無形資産と比較して、とても幅広い項目がのれんから分離して認識される可能性があることが分かります。

私見になりますが、これに比較するとわが国では、のれんにしても償却が求められているため、無形資産とのれんの区分があまり厳密に行われてこなかったとも考えられます。将来、のれんや一部の無形資産を非償却とする会計処理も検討されていることから、今後の実務においては、無形資産とのれんとの間の線引き(識別可能性の有無)について、より厳密な判断が求められることになると思われ、単なる差額としてのれんに含まれていたものについても、適切な無形資産へ計上することがより厳密に求められるものと思われます。


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