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退職給付(平成24年改正会計基準)

第1回:従来からの変更点

2013.02.06
新日本有限責任監査法人 公認会計士 鯵坂雄二郎
新日本有限責任監査法人 公認会計士   牧野    幸享

1. はじめに

「退職給付に関する会計基準」(以下、平成24年改正会計基準)及び「退職給付に関する会計基準の適用指針」(以下、平成24年改正適用指針、会計基準と適用指針を総称して「平成24年改正会計基準等」)が、企業会計基準委員会から平成24年5月17日に公表されました。

企業会計基準委員会と国際会計基準審議会(IASB)は、平成19年8月に「東京合意」(会計基準のコンバージェンスの加速化に向けた取り組みへの合意)を公表し、国際的な会計基準における見直しの議論と歩調を合わせ、退職給付に関する会計基準の見直しについて、中長期的に取り組むこととしていました。

そして今回、財務報告を改善する観点、及び国際財務報告基準(IFRS)を意識した国際的な会計基準とのコンバージェンスを図る観点から改正されたものです。

具体的な改正点としては、従来、遅延認識が認められていた数理計算上の差異等の即時認識が求められること(未認識数理計算上の差異等のオンバランス化)、退職給付債務・年金資産の期首残高と期末残高の調整表が注記されることなどが挙げられます。また、平成24年改正会計基準等の一部は「連結財務諸表」のみの適用であり、「個別財務諸表」での扱いは従来どおりとされている項目があります。IFRS導入に当たっての議論で出てくる、いわゆる「連結先行」の考え方が含まれる会計基準等となっています。

第1回である本稿では、従来との変更点を集約して解説します。

2.改正される会計基準等

平成24年改正会計基準等は、次の会計基準等を改正するものであるとされています。

【改正される会計基準等】

会計
基準
企業会計審議会「退職給付に係る会計基準・同注解」
企業会計審議会「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書」
企業会計基準第3号「『退職給付に係る会計基準』の一部改正」
企業会計基準第19号「『退職給付に係る会計基準』の一部改正(その3)」
適用
指針
日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第13号「退職給付会計に関する実務指針(中間報告)」
企業会計基準第14号「『退職給付に係る会計基準』の一部改正(その2)」
日本公認会計士協会「退職給付会計に関する Q&A」
  • 企業会計基準適用指針第1号「退職給付制度間の移行等に関する会計処理」については、平成24年改正会計基準の適用に当たっても参照することとされています。

従来との主な変更点は次の六つとされています。

主な変更点 主な関連条項
(平成24年改正会計基準等)
(1)未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理方法 13、15、24、25、39
(2)退職給付債務及び勤務費用の計算方法 19、注5、適用指針24
(3)開示の拡充 30
(4)複数事業主制度の取扱いの見直し 適用指針64、適用指針121
(5)長期期待運用収益率の考え方の明確化 適用指針25、適用指針98
(6)名称等の変更 39、52、74、適用指針98

これらの変更点を整理すると、「表示・開示」に係る改正と「退職給付債務等の計算方法等」に係る改正」の大きく二つに区分できます。

区分 項目
「表示・開示」
に係る改正
(1) 未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理方法
(3) 開示の拡充
「退職給付債務等の
計算方法等」に係る改正
(2) 退職給付債務及び勤務費用の計算方法
(4) 複数事業主制度の取扱いの見直し

なお、(5)は従来の取扱いを明確にしたものであり、(6)は平成24年改正会計基準等において、以下の用語に関して名称等を変更しています。

改正前 改正後 変更の主な背景
退職給付引当金 退職給付に係る負債(注) 従来の引当金に、さらに未認識数理計算上の差異等を加えて貸借対照表に計上
前払年金費用 退職給付に係る資産(注)
過去勤務債務 過去勤務費用 年金財政計算上の「過去勤務債務」とは異なることを明確化
期待運用収益率 長期期待運用収益率 用語の明確化
  • (注)「連結財務諸表」のみの適用であり、「個別財務諸表」は従来どおりの名称を使用。

さらに「連結先行」の考え方が含まれると上述しましたが、「連結財務諸表」と「個別財務諸表」の適用関係は次のようなイメージとなります。(平成24年改正会計基準第39 項)

主な変更点 連結 個別
(1)未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理方法
(2)退職給付債務及び勤務費用の計算方法
(3)開示の拡充※
(4)複数事業主制度の取扱いの見直し
(5) 長期期待運用収益率の考え方の明確化
(6) 名称等の変更※
  • ただし、「(3)開示の拡充」のうち個別財務諸表上は記載不要とされている注記項目があります。また、「(6)名称等の変更」のうち「過去勤務費用」という新たな名称は個別財務諸表でも使用されます。具体的には次回以降で触れていきます。

3. 未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理方法

(1)貸借対照表上での取扱い

未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用(以下、未認識数理計算上の差異等)について、税効果を調整の上、貸借対照表に「退職給付に係る調整累計額」(その他の包括利益累計額)として純資産の部で認識します。そして、オフバランスとなっていた未認識数理計算上の差異等がオンバランスとなる結果、積立状況を示す額がそのまま「退職給付に係る負債」(負債)または「退職給付に係る資産」(資産)として計上されることとなります。

改正前イメージ

(2)損益計算書及び包括利益計算書上での取扱い

損益計算書の当期純利益への影響はありません。
改正前と同様に、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用は平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に費用処理されます。

損益計算書上は変更なし

ただし、数理計算上の差異等の当期発生額のうち、費用処理されない部分については包括利益計算書において、「退職給付に係る調整額(その他の包括利益)」として計上されることとなります。また、その他の包括利益累計額に計上されている未認識数理計算上の差異等のうち、当期に費用処理された部分については包括利益計算書において、その他の包括利益の調整(組替調整)を行います。 なお、上記の処理に当たっては税効果を調整します。

(3)個別財務諸表における当面の取扱い

個別財務諸表においては、年金法制との関係、分配可能額に影響を与える可能性などについて、市場関係者の合意形成が十分に図られていない状況を踏まえ、当面の間、上記(1)及び(2)の改正は適用しません。
また、上記の経緯等も踏まえた結果、任意適用も認められていません(平成24年改正会計基準第89項)。

4.開示の拡充

退職給付債務の期首残高と期末残高の調整表、年金資産の期首残高と期末残高の調整表、年金資産の主な内訳(債券、株式等の区分)など開示項目の拡充が行われています。当該開示項目の開示例は以下のとおりです。

適用指針[開示例1]確定給付制度及び確定拠出制度に係る注記より一部抜粋

(1)退職給付債務の期首残高と期末残高の調整表

期首における退職給付債務 200,000
 勤務費用 6,900
 利息費用 6,000
 数理計算上の差異の当期発生額 500
 退職給付の支払額 △ 11,200
 過去勤務費用の当期発生額 750
 その他 △ 450
期末における退職給付債務 202,500

(2)年金資産の期首残高と期末残高の調整表

期首における年金資産 140,000
 期待運用収益 5,250
 数理計算上の差異の当期発生額 △ 1,050
 事業主からの拠出額 10,300
 退職給付の支払額 △ 8,100
 その他 100
期末における年金資産 146,500

(6)年金資産の主な内訳

年金資産合計に対する主な分類ごとの比率は、次のとおりである。

債 券 48%
株 式 39%
現金及び預金 8%
その他 5%
合 計 100%

5. 退職給付債務及び勤務費用の計算方法

(1)退職給付見込額の期間帰属方法の見直し

改正前 改正後
(原則)期間定額基準 期間定額基準または給付算定式基準(注)
  • (注)給付算定式基準とは、退職給付制度の給付算定式に従って各勤務期間に帰属させた給付に基づき見積った額を、退職給付見込額の各期の発生額とする方法です。この方法による場合、勤務期間の後期における給付算定式に従った給付が、初期よりも著しく高い水準となるときには、当該期間の給付が均等に生じるとみなして補正した給付算定式に従う必要があります。

例.給付算定式基準のイメージ図

【前提】
従業員が10年超20年未満の勤務後に退職した場合400の退職一時金を、従業員が20年以上の勤務後に退職した場合500の退職一時金を支給する。10年未満で退職した場合、退職一時金は支給しない。

給付算定式基準のイメージ図

最初の10年間(0~10年)の各年に40(400の退職一時金÷10年)、次の10年間(11~20年)の各年に10((500-400)の退職一時金÷10年)をそれぞれ帰属させます。

(2)割引率の見直し

改正前 改正後
(原則)
退職給付の見込支払日までの平均期間
(容認)
従業員の平均残存勤務期間に近似した年数
退職給付支払ごとの支払見込期間を反映するもの(注)
  • (注)例えば、退職給付の支払見込期間及び支払見込期間ごとの金額を反映した単一の加重平均割引率を使用する方法や、退職給付の支払見込期間ごとに設定された複数の割引率を使用する方法が考えられる。

(3)予想昇給率の見直し

改正前 改正後
「確実に見込まれる」昇給等が含まれる 「予想される」昇給等が含まれる

具体的にこの影響を受ける例として、将来における給与水準の変動(ベースアップ)があります。
改正前基準等では、ベースアップについて、確実かつ合理的に推定できる場合以外は、予定昇給率の算定には含めず、従業員個々人の実際のベースアップにより退職給付が増加したときの当該影響額は、数理計算上の差異となるとされていました。
一方、平成24年改正会計基準等では、合理的に見込まれる退職給付の変動要因について、確実に見込まれる昇給等ではなく、予想される昇給等を考慮するよう変更されたことから、上記のベースアップに関する定めについては引き継がないこととされています。

6. その他の論点

(1)複数事業主制度の取扱いの見直し

複数事業主制度のうち、自社の拠出に対応する年金資産の額を合理的に計算することができないケースでは要拠出額をもって費用処理されますが、この範囲の取扱いが見直されています。

改正前 改正後
複数事業主間において類似した退職給付制度を有している場合、このケースに当たらないものとみなす。 左記取扱いは削除されており、実態に応じて例外処理を採用できるか否かを判断する。

(2)長期期待運用収益率の考え方の明確化

従来の考え方から変更はありません。長期期待運用収益率の算定は、退職給付の支払に充てられるまでの期間等を考慮して設定するという取扱いの明確化がなされています。また、上記の理由から、この取扱いは会計方針の変更には該当しない(平成24年改正適用指針第98項)とされています。

7. 適用時期

適用時期は次のように整理されます。(平成24年改正会計基準第34項から第38項)

  区分 原則 容認 遡及処理
早期適用 実務上困難な場合
※1 下記を除く全て 平成25年4月1日以後開始する事業年度の年度末から 平成25年4月1日以後開始する事業年度の期首から 遡及処理はしない
適用に伴って生じる会計方針の変更の影響額は、その他の包括利益累計額に加減
※2 「退職給付債務等の計算方法等」に係る改正
(1.従来との主な変更点の(2)、(4))
平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首から 平成25年4月1日以後開始する事業年度の期首から 平成27年4月1日以後開始する事業年度の期首から 遡及処理はしない
適用に伴って生じる会計方針の変更の影響額は、当期純利益の計算に影響を与える変更であるため期首の利益剰余金に加減

3月決算会社の場合の適用時期のイメージ図

3月決算会社の場合の適用時期のイメージ図

※1の取扱いのうち、数理計算上の差異及び過去勤務費用の即時認識については、連結財務諸表のみの適用とされ、個別財務諸表では、従来どおり、退職給付債務に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した金額から、年金資産を控除した額を退職給付引当金として計上する


退職給付(平成24年改正会計基準)

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