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退職給付(平成10年会計基準)

第5回:小規模企業等における簡便法の適用

2010.10.12
新日本有限責任監査法人 公認会計士 井澤依子

1.簡便法が適用できる範囲

従業員の比較的少ない企業について、簡便法による退職給付債務の計算が認められています。これは、小規模企業等にとって原則法による退職給付計算を義務付けると事務的負担が過大になり、また数理計算上の見積もりに高い精度を持たせることは困難であることなどを考慮したためです(退職給付会計実務指針34項)。
簡便法による計算が認められる小規模企業等とは、300人未満の従業員数の会社をいいますが、300人以上であっても年齢・勤務期間に偏りがあるなどの理由により、退職給付計算結果に一定の信頼性が得られないと判断できる場合にも適用されます。ここでいう従業員数とは、退職給付計算の対象となる従業員のことですので、複数の退職給付制度を有する事業主についてはそれぞれの制度ごとに判定することになります(退職給付会計実務指針34項)。
従業員数は毎期変動することが一般的であるため、簡便法の適用は将来一定期間を予測して判断することになります。

2.連結財務諸表における連結子会社の取扱い

連結子会社であっても、小規模企業等に当たる場合には独自に簡便法をとることができます。この場合、連結上の調整も必要ありません。これは、簡便法をとることができる規模の連結子会社の場合、一般的に連結財務諸表における当該連結子会社の重要性は低く、簡便法の処理のまま連結しても連結財務諸表に与える影響は低いと考えられるからです(退職給付会計実務指針35項)。

3.簡便法による退職給付債務の計算

簡便法をとる場合、以下の表のとおり退職一時金制度、企業年金制度それぞれにおいて、三つずつ、計六つの方法が示されています。各企業が実態から合理的と判断される方法を採用することになります。なお、いったん選択した方法は、原則法に変更する場合または、より合理的な方法に変更する場合を除き、継続適用が必要となります(退職給付会計実務指針36項)。

種類 内容
(1)退職一時金制度
  1. a.適用初年度の期首において原則法による退職給付債務を計算し、この退職給付債務の額と自己都合要支給額との比である比較指数を、期末時点の自己都合要支給額に乗じた金額を退職給付債務とする方法
    なお、合理性があると判断することができれば、比較指数に原則法により計算された親会社の比較指数を用いることができます。
  2. b.期末自己都合要支給額に、平均残存勤務期間に対応する割引率、昇給率の各係数を乗じた金額を退職給付債務とする方法(割引率、昇給率については、退職給付会計実務指針 資料5-1、5-2参照)
  3. c.期末自己都合要支給額の金額を退職給付債務とする方法
(2)企業年金制度
  1. a.適用初年度の期首において原則法による退職給付債務を計算し、この退職給付債務の額と年金財政計算上の責任準備金との比である比較指数を、直近の年金財政計算における責任準備金の額に乗じた金額を退職給付債務とする方法。
    なお退職一時金制度と同様に、合理性があると判断することができれば、比較指数に原則法により計算された親会社の比較指数を用いることができます。
  2. b.在籍する従業員については、退職一時金制度のb.またはc.の方法により計算した金額を退職給付債務とし、年金受給者および待期者については直近の年金財政計算上の責任準備金の額を退職給付債務とする方法。
  3. c.直近の年金財政計算上の責任準備金をもって退職給付債務とする方法

4.簡便法による退職給付引当金等の計算

(1)退職給付信託を設定していない退職一時金制度

退職給付信託を設定していない退職一時金制度については、計算された退職給付債務の額が退職給付引当金の金額となります。

(2)企業年金制度および退職給付信託を設定している退職一時金制度

企業年金制度および退職給付信託を設定している退職一時金制度については退職給付債務の額から年金資産の額を控除した額を退職給付引当金とします。
年金資産の額についても期末日における公正な評価額の代わりに、直近の年金財政計算における公正な評価額を基礎として合理的に算定された金額等を用いることができます。

5.簡便法による退職給付費用の計算

簡便法による退職給付費用の金額は、期首退職給付引当金残高から退職一時金制度に係る当期退職給付額および企業年金制度への当期拠出額を控除した後の残高と期末の退職給付引当金の金額との差額で計算されることになります(退職給付会計実務指針39項)。計算式にすると以下のようになります。
従って、退職給付費用は期末に計算されることになり、原則法のような勤務費用、利息費用に分けることはなく、過去勤務債務についても認識されません。

退職給付費用=期末退職給付引当金-(期首退職給付引当金-退職一時金制度に係る当期退職給付額-企業年金制度への当期拠出額)

6.簡便法から原則法への変更

簡便法から原則法への変更は認められています。そもそも、簡便法を採用する趣旨は事務的負担の過大等であるため、企業が事務的負担の増加等に対応できるようになった場合には、簡便法から原則法への変更は問題ありません。
それに対し、原則法から簡便法への変更は以下のような場合にしか認められていません(退職給付会計実務指針41項)。

  • 従業員数の著しい減少もしくは退職給付制度の改定等により合理的に数理計算上の見積もりを行うことが困難になった場合
  • 退職給付の重要性が乏しくなった場合

退職給付(平成10年会計基準)

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