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退職給付(平成10年会計基準)

第4回:計算基礎率および過去勤務債務・数理計算上の差異

2010.10.04
新日本有限責任監査法人 公認会計士 井澤依子

1.計算基礎率

(1)割引率

a.割引率とは

割引率とは、将来の退職給付見込額を現在の価値に直すために用いる率のことをいいます。退職給付債務の計算における割引率は、安全性の高い長期の債券の利回りを基礎として決定しなければなりません(退職給付会計基準二2(4))。
ここで、「安全性の高い長期の債券」(退職給付会計基準 注解(注6))は、長期の国債、政府機関債、複数の格付け機関よりダブルA格相当以上を得ている社債等とされています。
この場合の長期とは、退職給付の見込支払日までの平均期間を原則としますが、実務上は従業員の平均残存勤務期間に近似した年数とすることもできるとされています。
また、退職給付会計基準 注解(注6)では、従来「一定期間の債券の利回りの変動を考慮して決定することができる」としていましたが、国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点から、この部分が削除されました。このため平成21年4月1日以後開始する事業年度の年度末からは、原則として貸借対照表日の割引率を用いることになりました。詳細は、解説シリーズ 第7回「『退職給付に係る会計基準』の一部改正(その3)適用と実務上の対応」をご参照ください。

b.割引率の見直し

割引率は毎期見直す必要がありますが、重要な変動が生じていない場合には、これを見直さないことができるとされています。
具体的には、前期末に用いた割引率により算定されている退職給付債務と比較して、期末の割引率により計算した退職給付債務が10%以上変動すると推定される場合には、重要な影響を及ぼすものとして期末の割引率を用いて退職給付債務を再計算しなければならないとされています(退職給付会計実務指針18項)。

(2)期待運用収益率

期待運用収益率とは、各事業年度において、期首の年金資産額について合理的に期待される収益額の当該年金資産額に対する比率をいいます。年金資産は、将来の退職給付の支払に充てるために積み立てられているものであり、期待運用収益率は、保有している年金資産のポートフォリオ、過去の運用実績、運用方針および市場の動向等を考慮して算定します(退職給付会計実務指針12項)。
当年度の退職給付費用の計算に用いられる期待運用収益率は、前年度における運用収益の実績等に基づいて再検討し、当期損益に重要な影響があると認められる場合のほかは、見直さないことができます(退職給付会計実務指針19項)。

(3)退職率と死亡率

a.退職率の設定方法

退職率とは、在籍する従業員が自己都合や定年などにより生存退職する年齢ごとの発生率のことであり、在籍する従業員が今後どのような割合で退職していくかを推計する際に使用する基礎率です。従って、将来の予測を適正に行うために、基礎率は、異常値(リストラに伴う大量解雇、退職加算金を上乗せした退職の勧誘による大量退職等に基づく値)を除いた過去の実績に基づき、合理的に算定します(退職給付会計実務指針13項)。

b.死亡率の設定方法

死亡率とは、従業員の在職中および退職後における年齢ごとの死亡発生率のことです。年金給付は、通常、退職後の従業員が生存している期間にわたって支払われるものであることから、生存人員数を推定するために年齢ごとの死亡率を使うのが原則とされています。この死亡率は、事業主の所在国における全人口の生命統計表等を基に合理的に算定します(退職給付会計実務指針14項)。

c.退職率・死亡率の変更の要否

退職率・死亡率の重要性の判断に当たっては、それぞれの企業固有の実績等に基づいて退職給付債務等に重要な影響があると認められる場合は、各基礎率を再検討し、それ以外の事業年度においては、見直さないことができるとされています。ただし、企業年金制度における財政再計算時の基礎率の見直しは、退職給付債務の計算に反映させる必要があるとされています(退職給付会計実務指針20項)。

(4)昇給率

退職給付見込額の見積もりにおいて、「合理的に見込まれる退職給付の変動要因には確実に見込まれる昇給等が含まれる」(退職給付会計基準 注解(注3))ため、予定昇給率等を見積もることが必要となります。従って、退職給付額が給与に比例して(給与の一定部分に比例している場合も含む)定められている退職給付制度の場合には、給与が将来どのように上昇するかを推定し、それに基づき算定された昇給額を反映して退職給付見込額を計算します(退職給付会計実務指針15項)。

2.過去勤務債務と数理計算上の差異

(1)過去勤務債務

過去勤務債務とは、退職給付水準の改訂等に起因して発生した退職給付債務の増加または減少部分(退職給付会計基準一5)であり、退職金規程等の改訂に伴い退職給付水準が変更された結果生じる、改訂前の退職給付債務と改訂後の退職給付債務の改訂時点における差額を意味します。
なお、このうち費用処理(費用の減額処理または費用を超過して減額した場合の利益処理を含む。以下同じ。)されていないものを未認識過去勤務債務といいます。
過去勤務債務のうち、退職従業員に係る過去勤務債務は、他の過去勤務債務と区分して発生時に全額を費用処理することができるとされています(退職給付会計基準 注解(注11))。

(2)数理計算上の差異

数理計算上の差異とは、以下の三つから構成されます(退職給付会計基準一6)。

  • 年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異
  • 退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異
  • 見積数値の変更等により発生した差異

この定義で示されているとおり、数理計算上の差異には、 あらかじめ定めた基礎率と各事業年度における実際の数値との差異および基礎率を変更した場合に生じる差異があります(退職給付会計実務指針23項)。

(3)平均残存勤務期間の算定方法

平均残存勤務期間は、在籍する従業員が貸借対照表日から退職するまでの平均勤務期間であり、その算定には、退職率と死亡率を加味した年金数理計算上の脱退残存表を用いて算定する方法を原則としますが、実務上は標準的な退職年齢から貸借対照表日現在の平均年齢を控除して算定する方法も認められています(退職給付会計実務指針24項)。
平均残存勤務期間は原則として毎年度末に算定します。ただし、従業員の退職状況に大きな変化が見られない場合は、直近時点で算定した平均残存勤務期間を用いることもできるとされています。他方、従業員の年齢構成が大きく変化した場合や企業年金制度において財政再計算時の基礎率を見直した場合には、平均残存勤務期間についても見直しを行わなければならないとされています(退職給付会計実務指針25項)。

(4)過去勤務債務および数理計算上の差異の費用処理方法

a.費用処理方法の選択

過去勤務債務および数理計算上の差異の費用処理方法には、定額法と定率法があります。両者は選択適用できますが、いったん採用した費用処理方法は、正当な理由により変更する場合を除き、継続的に適用しなければなりません(退職給付会計実務指針27項)。

種類 内容
定額法(原則) 各年度の発生額について発生年度に費用処理する方法または平均残存勤務期間内の一定の年数で按分する方法
定率法(容認) 未認識過去勤務債務残高および未認識数理計算上の差異残高の一定割合を費用処理する方法

なお、退職金規程等の改訂による過去勤務債務については頻繁に発生するものでない限り、発生年度別に一定の年数にわたって定額法による費用処理を行うことが望ましいとされています。
また、過去勤務債務および数理計算上の差異は、原則として、各年度の発生額について平均残存勤務期間内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理しなければならない(退職給付会計基準三2(4))と定められていますが、過去勤務債務と数理計算上の差異は発生原因または発生頻度が相違するため、費用処理年数はそれぞれ別個に設定することができます(退職給付会計実務指針26項)。

b.過去勤務債務および数理計算上の差異に係る費用処理年数の変更

過去勤務債務および数理計算上の差異の費用処理年数は、発生した年度における平均残存勤務期間内の一定の年数を継続的に適用する必要があります。従って、一度採用した費用処理年数を変更する場合には合理的な変更理由が必要となります(退職給付会計実務指針29項)。
過去勤務債務または数理計算上の差異の費用処理に当たっては、費用処理年数として発生年度における平均残存勤務期間を選択している場合には、当然に発生年度ごとの当該期間が費用処理年数となりますが、発生年度における平均残存勤務年数を採用していない場合には、会社が平均残存勤務期間内の費用処理年数を任意に選択することができます。
ただし、この場合、過去勤務債務または数理計算上の差異ごとにいったん採用した費用処理年数は、原則として各期間を通じて継続して適用しなければならず、発生した年度ごとに費用処理年数を定めることはできないとされています(退職給付会計Q&A Q8)。従って、単に経済環境の変化のみを理由とする費用処理年数の変更は認められないため、留意が必要です。

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