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退職給付(平成10年会計基準)

第7回:「退職給付に係る会計基準」の一部改正(その3) 適用と実務上の対応

2009.10.06
(2013.02.06更新)
新日本有限責任監査法人 公認会計士 中村崇

1.はじめに

「「退職給付に係る会計基準」の一部改正(その3)」(以下、改正基準)が企業会計基準委員会から平成20年7月31日に公表されました。平成21年4月1日以後開始する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用されます。

今回の解説シリーズでは改正基準適用に伴う実務上の対応を中心に解説します。なお、文中意見にかかわる部分は私見であることをあらかじめお断りしておきます。

2.従来との改正点

改正基準においては、退職給付債務の計算における割引率の取り扱いについて、「割引率の基礎とする安全性の高い長期の債券の利回りとは、期末における長期の国債、政府機関債及び優良社債の利回りをいう。」とされ、従来の「割引率は、一定期間の債券の利回りの変動を考慮して決定することができる。」という文言が削除されました。

これにより、従来のように過去5年間の債券の利回りの平均値を割引率とすることはできなくなり、期末時点における市場利回りを基礎とすることとなりました(改正基準第2項)。

なお、この改正によってもこれまでと同様、割引率に重要な変動が生じていない場合、つまり、前期末に用いた割引率により算定されている退職給付債務と比較して、期末の割引率により計算した退職給付債務が10%以上変動することが推定されない場合には、これを見直さないことができます(改正基準第11項なお書き、退職給付会計基準(注10)、退職給付会計に関する実務指針(中間報告)第18項)。

3.改正基準適用に伴う実務上の対応

期末時点の利回り予測に基づき、割引率を指定して依頼しますが、改正基準では過去の平均値を利用できなくなることから、期末日の状況次第では割引率の変更が必要となる可能性が高くなります。

一般的に退職給付債務の計算は、外部委託の場合1~2カ月程度の計算期間を要するため、3月決算会社の場合、11月ごろに割引率を含めた基礎率等の計算根拠データを委託機関に送付、計算依頼をすることが多いと思われます。このため、期末日付近になって退職給付債務の再計算を依頼したとしても、決算スケジュール等を勘案した場合、実務上困難です。

この点、改正基準では、「割引率のみ異なる複数の結果をもとに、合理的な補正方法によって、それら以外の割引率による計算結果を求める」とされています(改正基準第12項)。

改正基準に合わせて改正された「退職給付会計に関するQ&A」(以下、Q&A)Q1(1)においても、「企業会計基準その3第12項では、『従来から、割引率のみ異なる複数の結果をもとに、合理的な補正方法によって、それら以外の割引率による計算結果を求めることができる』とされ」ており、「期末日における割引率を予測して複数の計算結果を準備し、これらを基に、期末日における実際の割引率による退職給付債務を求める方法も、それが合理的な補正方法であるならば適用することが可能」とされています。

従って、実務上は期末時点の割引率を予測し、その前後の割引率による退職給付債務の数理計算を依頼し、補正計算を行うことで、期末時点の割引率による退職給付債務を計算するといった対応を行うことになります。

<補正計算の設例>(前提)
前期末の割引率 2.5%
当期の重要性の範囲 1.9%~3.2%
当期末の割引率 1.8%
計算依頼した割引率 1.5%、2.0%、2.5%(実務上は、依頼時には前期末から変更の必要がない場合も考慮するものと考えられるため)
割引率1.5%のPBO 500
割引率2.0%のPBO 400

補正計算グラフと計算式

上記の設例では、補正計算した退職給付債務は440となります。

補正計算を行うに当たり、改正基準、Q&Aのいずれにおいても「合理的な補正方法」としてどのような補正方法を採用すべきかは記載されていません。

この点、(社)日本アクチュアリー会および(社)日本年金数理人会の「退職給付会計に係る実務基準」(平成20年12月19日改正)(以下、実務基準)Ⅵ.割引率に関する合理的な補正計算方法(例示)には上記の設例の直線補間により補正計算する方法(線形補間方式)のほか、平均割引期間の概念を用いた近似式を使用する方法(対数補間方式)が例示されています。

いずれの方法を採用するにしても、実際の計算結果と補正計算の結果に大きな差異が生じないように、補正計算のために利用する割引率の幅等に留意し、また、補正計算方法が合理的であると判断した根拠を残すことが内部管理上は必要になると考えられます。

4.適用初年度の取り扱い

改正基準の適用は会計基準の変更に伴う会計方針の変更として取り扱います(改正基準第17項)。なお、改正基準の適用により、割引率の決定方法を変更するものの、従来の方法と同一の割引率を使用することとなる場合にも、会計基準の変更に伴う会計方針の変更に該当し、これによる財務諸表への影響がないものとして扱われることとなります(改正基準第19項)。

改正基準の適用に伴い発生する退職給付債務の差額は、当事業年度に発生した数理計算上の差異に含めて会計処理します(改正基準第4項)。

当該差異の「適用初年度費用処理額」および「未処理残高」は適用初年度の損益計算書の金額に影響を与えない場合であっても、重要性が乏しい場合を除き、当該影響額の注記が必要です(改正基準第18項)。

なお、影響額は、改正基準の適用によって従来と異なる割引率を用いる場合に、従来と改正後とのそれぞれの割引率を用いて計算した退職給付債務の差額となります(改正基準第17項)。

<影響額の設例>(前提)
前期末の割引率 2.5%
当期の重要性基準の範囲 1.9%~3.2%
当期の割引率(期末時点) 1.6%と予想
当期の割引率(5年平均) 1.8%と予想

上記の設例の場合、前期末の割引率2.5%を1.6%に変更することになりますが、改正基準を適用しない場合でも、割引率を2.5%から1.8%に変更する必要があるため、割引率の変動は、当期の割引率(5年平均)である1.8%から当期の割引率(期末日)である1.6%への変動となります。このため、会計方針の変更による影響額は、1.8%、1.6%それぞれの割引率を用いて計算した適用初年度の年度末における退職給付債務の差額として計算されます。

ここで、影響額の算定の際にも、実務上は3.で記載した合理的な補正計算を行う必要があります。従って、適用初年度には、設例における5年平均の割引率(1.8%)、期末時点の割引率(1.6%)のそれぞれによる退職給付債務が算定可能となるよう、割引率を指定し、計算依頼を行う必要があることに留意が必要です。また、実務基準別表3において、補正計算時には、補正する割引率が補正元となる二つの割引率の外側(外分補正)となる場合、内側(内分補正)の場合と比べて精度が低くなるとされていることにも留意する必要があります。

よって、実務上、適用初年度においては、外分補正とならない合理的な補正計算のため、また、依頼時には前期末から変更の必要がない場合も考慮するため、設例の状況下では、例えば、以下の三つの計算結果を依頼することが考えられます。割引率が更に下落すると予想される場合には内分補正とするため、1.5%未満の割引率を指定し、四つの計算結果を依頼することも考えられます。

  • 2.5%
    前期末の割引率
  • 1.5%、2.0%
    期末時点の予測割引率1.6%、5年平均の予測割引率1.8%を算出するため(予測割引率が内分補正となるように指定)

5.適用時期等

平成21年4月1日以後開始する事業年度の年度末から適用されます。改正基準は年度末からの適用とされているため、四半期会計期間末、中間会計期間末からの適用は認められません。

また、制度変更などにより期中に退職給付債務を再計算する場合にも適用されません。


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