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企業結合(平成15年会計基準)

第3回:逆取得の会計処理

2010.10.15
新日本有限責任監査法人 公認会計士 井澤依子

5.逆取得について

企業結合が議決権のある株式の交付により行われる場合は、通常、議決権のある株式を交付する企業が取得企業とされますが、吸収合併の場合など、法律上存続する会社(存続会社)が議決権のある株式を交付するものの、法律上消滅する会社(消滅会社)の株主が合併後、存続会社の議決権総数の過半数を保持または受け取る結果、企業結合会計上、消滅会社が取得企業に該当し、存続会社が被取得企業に該当する場合があります。このような事象は、議決権のある株式を交付した会社と企業結合会計上の取得企業とが一致しないという意味で「逆取得」と呼ばれます。

(1)吸収合併の場合

a. 逆取得の具体例

吸収合併の場合には、前述のように消滅会社=取得企業、存続会社=被取得企業となるケースが逆取得に当たります。図表では、合併後に消滅会社の株主である旧B社株主が議決権の過半数(60%)を獲得することにより、消滅会社であるB会社が取得企業と判定された例です。

図表4,5

b. 個別財務諸表上の会計処理

ア. 消滅会社の受入資産・負債の受入

消滅会社が取得企業となる場合、存続会社の個別財務諸表では、当該取得企業(消滅会社)の資産および負債を合併直前の適正な帳簿価額により計上します(結合分離指針84)。

イ. 受入資産・負債の差額の会計処理

株主資本は、払込資本として引き継ぎ、評価換算差額は適正な帳簿価額で引き継ぎます(結合分離指針84(1)①ア ②)。

c. 連結財務諸表上の会計処理

逆取得となる吸収合併が行われた場合には、存続会社を被取得企業としてパーチェス法を適用します。

ア. 取得原価の算定

逆取得の場合、取得の対価の基礎となる交付株式数は、存続会社(被取得企業)の株主が合併後の会社(結合後企業)に対する実際の議決権比率と同じ比率を保有するのに必要な数の消滅会社(取得企業)の株式を、消滅会社(取得企業)が交付したものと見なして算定する(企業結合会計基準注1、結合分離指針85(1))こととされます。みなし交付株式数の計算式は以下です(すべて普通株式の場合を前提)。

合併後の消滅会社株主の議決権比率= X
X+合併前の消滅会社発行済株式総数

上式をXについて解くことにより、みなし交付株式数が得られます。消滅会社(取得企業)の企業結合日の株価にみなし交付株式数を乗じて取得の対価を計算し、これに取得に直接要した費用を加算して算定します(結合分離指針36(1))。

イ. 取得原価の配分

存続会社(被取得企業)の資産・負債を時価に置き換えます(結合分離指針85(2))。

ウ. 増加すべき株主資本の会計処理

ア.取得原価の算定で算定された取得の対価を払込資本に加算します。ただし、連結財務諸表上の資本金は存続会社(被取得企業)の資本金とし、これと合併直前の連結財務諸表上の資本金(消滅会社の資本金)が異なる場合には、その差額を資本剰余金に振り替えます(結合分離指針85(3))。

(2)株式交換の場合

a. 逆取得の具体例

株式交換の場合には、株式交換完全子会社=取得企業、株式交換完全親会社=被取得企業となるケースが逆取得に当たります。
図表6は、株式交換が行われる前の状態を表していますが、A社は、B社の発行済株式の60%を保有しているB社の親会社であるとします。両者との発行済株式はすべて普通株式であり、株式交換比率をB社株式1株に対し、A社株式を2株とします。B社のA社以外の少数株主はW社です。

図表6

株式交換により、B少数株主(W社)が持っていたB社株式40株に対し、A社株式80株が割り当てられます。よって、株式交換後では、交換前からA社株式を保有する旧A株主の保有株式数(議決権数)が70株、交換前にB社少数株主であった旧B少数株主の株式保有数(議決権数)は80株となり、株式交換後は、図表7のようになります。

図表7

図表7では、株式交換後に株式交換完全子会社の株主であったW社が議決権の過半数(53.3%)を獲得することにより株式交換完全親会社であるA社の支配を獲得します。よって、逆取得として、株式交換完全子会社であるB会社が取得企業となります。完全子会社化により、少数株主を排除したつもりが、逆に完全親会社の支配力を奪われてしまうということになるので、株式交換に当たっての株式交換比率には注意が必要と思われます。

b. 個別財務諸表上の会計処理

株式交換おいて逆取得となるときには、当該株式交換完全親会社が取得する株式交換完全子会社株式(取得企業株式)の取得原価は、株式交換日の前日における株式交換完全子会社(取得企業)の適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて算定します(企業結合会計基準36 、結合分離指針118)。
企業結合の対価として、株式交換完全親会社が新株を発行した場合には、払込資本(資本金または資本剰余金)の増加として会計処理します。なお、増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金またはその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定します。また、増加すべき株主資本の額は、株式交換完全子会社株式(取得企業株式)の取得価額に準じて算定されます(結合分離指針117-2)。

c. 連結財務諸表上の会計処理

株式交換完全子会社(取得企業)は、株式交換完全親会社(被取得企業)を被取得企業としてパーチェス法を適用します。具体的には、株式交換日の前日における株式交換完全子会社(取得企業)の連結財務諸表上の金額(連結財務諸表を作成していない場合には個別財務諸表上の金額)に、次の手順により算定された額を加算します。

ア. 取得原価の算定

取得の対価に、取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る)を加算して算定します。具体的な算定方法は、取得の場合に準じます。
取得の対価の基礎となる交付株式数は、株式交換完全親会社(被取得企業)の株主が結合後企業(株式交換完全親会社)に対する実際の議決権比率と同じ比率を保有するのに必要な数の株式交換完全子会社(取得企業)の株式を、株式交換完全子会社(取得企業)が交付したものと見なして算定する(企業結合会計基準注1、結合分離指針119(1))こととされます。みなし交付株式数の計算式は以下です(すべて普通株式の場合を前提)。

株式交換後の株式交換完全子会社(取得企業)の議決権比率
X
 X+株式交換前の株式交換完全子会社(取得企業)発行済株式総数 

上式をXについて解くことにより、みなし交付株式数が得られます。株式交換完全子会社(取得企業)の企業結合日の株価にみなし交付株式数を乗じて取得の対価を計算し、これに取得に直接要した費用を加算して算定します(結合分離指針36(1))。
なお、投資会社が持分法適用関連会社と企業結合した場合には、株式交換日の前日の被取得企業の株式(関連会社株式)の持分法による評価額と株式交換日の時価との差額は、当期の段階取得に係る損益とし、これに見合う金額は、のれん(または負ののれん)の修正として処理します。
株式交換日の前日の個別財務諸表上の関連会社株式の帳簿価額と持分法による評価額との差額は、のれん(または負ののれん)の修正として処理されます(結合分離指針46-2)。

イ. 取得原価の配分

株式交換完全親会社(被取得企業)となる企業から受け入れた資産および引き受けた負債の会計処理については、取得の場合に準じて処理します(結合分離指針119(2))。

ウ. 増加すべき株主資本の会計処理

上記ア.取得原価の算定で算定された取得の対価を払込資本に加算します。ただし、連結財務諸表上の資本金は株式交換完全親会社(被取得企業)の資本金とし、これと株式交換直前の連結財務諸表上の資本金(株式交換完全子会社の資本金)が異なる場合には、その差額を資本剰余金に振り替えます。