関連当事者の開示に関する会計基準の概要 第1回:関連当事者の開示

2019年3月20日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 七海健太郎
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 中村崇

1.はじめに

会社と関連当事者との取引は、対等な立場で行われているとは限らず、会社の財政状態や経営成績に影響を及ぼすことがあります。そのため、その取引の実行にあたっては、取引の合理性を十分に検討し承認するための仕組みが整備されていることが重要と考えられます。また、関連当事者が取締役である場合は利益相反取引としての承認にも留意する必要があります。

関連当事者の開示は、会社と関連当事者との取引や関連当事者の存在が財務諸表に与えている影響を財務諸表利用者が把握できるように、適切な情報を提供するためのものです。

財務諸表の注記事項としての関連当事者の開示については、平成18年10月17日に公表された「関連当事者の開示に関する会計基準」(以下、会計基準)及びその適用指針において、その内容が定められています。

第1回である本稿で、関連当事者の開示の概要を解説し、第2回以降は、開示フローに従い項目ごとに解説します。なお、文中意見にかかわる部分は私見であることをあらかじめお断りしておきます。

2.関連当事者の開示フロー

関連当事者の開示は下記のようなフローに沿って開示対象か否かを検討します。今回のシリーズではこの開示フローでのポイントごとに論点の解説を行います。また、このシリーズでの解説は財務諸表等規則(以下、財規)による開示を前提としていますが、会社法における関連当事者取引の開示検討の基本的なフローも同様となります。

なお、会社法における関連当事者取引に関する注記は、会社計算規則(以下、計規)第112条に定められていますが、財規との開示の違いについては第8回に記載しています。

図1 開示フロー

図1 開示フロー

関連当事者の範囲について、会社との関係から本適用指針に記載されている四つのグループに区分し、要約すると図2のとおりとなります。

図2 関連当事者の範囲

図2 関連当事者の範囲

3.開示対象となる関連当事者との取引の範囲(概要)

連結財務諸表においては、連結会社と関連当事者との取引を開示対象とすることとされ、連結子会社と関連当事者との取引も開示対象となっています(会計基準第6項)。

なお、連結財務諸表の作成で相殺消去した取引は、開示対象外です(会計基準第6項)。また、連結会社が直接かかわらない関連当事者同士の取引については、正確かつ網羅的な情報の入手が困難であることや、影響が軽微な場合が多いと考えられることから開示対象外です(会計基準第34項)。

開示対象の関連当事者との取引の範囲を要約すると図3のとおりとなります。範囲も広くなることが予想され、開示の網羅性を確保するため、内部統制の観点から、連結子会社各社と情報共有する仕組み(共通の取引先マスターやパッケージなどによる連絡等)の事前準備が必要です。

図3 開示すべき取引の範囲

図3 開示すべき取引の範囲

① 開示対象となる関連当事者との取引の範囲

連結財務諸表作成会社の場合

4、5、6、7、9、10

  • 連結会社の枠の中の取引は連結財務諸表上、連結子会社は関連当事者の範囲から除くため、また、相殺消去される取引であるため、開示対象とはならない。
  • 連結会社の枠の外同士の取引は、関連当事者同士の取引であるため開示対象ではない。
  • 連結会社の枠の中と外との取引が開示対象となる。

連結財務諸表を作成していない会社の場合

1、2、4、5、6

  • 財務諸表提出会社と関連当事者との取引が開示対象となる。
  • 関連当事者同士の取引は開示対象ではない。

② 関連当事者の範囲

個別財務諸表上:B社、C社、D社、役員E、F社、G社

連結財務諸表上:D社、役員E、F社、G社

4.関連当事者の開示内容の概要

(1)一般的な取引条件の開示の条件

会社と関連当事者との取引条件について、開示が求められています(会計基準第10項(5)、35項)。

ここで、競争的で自由な取引市場が存在しない場合に、関連当事者との取引が独立第三者間取引と同様の一般的な取引条件で行われた旨を記載するためには、関連当事者以外の第三者との取引と比較して同等の取引条件であることを要すると明示されています(会計基準36項)。

従って、同等の取引条件であることを証明するため、第三者との同様の取引の資料を準備する必要があります。内部統制上、日々の業務の中に、当該資料が準備・保管される仕組みを構築することが有用と思われます。

(2)重要性の判断基準

関連当事者との全ての取引が開示対象となるわけではなく、重要な取引が対象となります。開示の重要性の判断基準は、関連当事者の所属するグループごとに、取引の内容に応じて定められています。例えば、法人グループで特別損益項目の取引がある場合、また、関連当事者が個人グループである場合の取引について、1,000万円を超える損益に係る取引が対象となっています。

重要性の判断グループについては、関連当事者の範囲で示した図2もご参照ください。

(3)開示対象の存在に関する開示

国際的な会計基準と同様に、関連当事者の存在に関する情報についても開示対象となっています。

具体的には親会社または重要な関連会社が存在する場合には、以下の項目を開示します。

(1)親会社が存在する場合には、親会社の名称等

(2)重要な関連会社が存在する場合には、その名称及び当該関連会社の要約財務情報

なお、要約財務情報は合算して記載できます。

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