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棚卸資産の評価に関する会計基準

第2回:棚卸資産の評価に関する会計基準(評価基準、評価方法)

2010.12.16
新日本有限責任監査法人 公認会計士 湯本純久

第1回では、基準が設定された経緯、損益計算書の計上区分等を取り上げましたが、今回は、通常の販売目的で保有する棚卸資産の評価基準、収益性低下の判断および簿価切り下げの単位、洗替え法と切放し法の選択適用を取り上げます。なお、文中の意見に関する部分は私見であることをお断り申し上げます。

1.通常の販売目的で保有する棚卸資産の評価基準

(1)棚卸資産の評価基準

通常の販売目的で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とします。この場合において、取得原価と当該正味売却価額との差額は当期の費用として処理します(棚卸資産会計基準第7項)。

(2)正味売却価額とは

期末に保有する棚卸資産の収益性が低下した場合は、正味売却価額を貸借対照表価額とします。正味売却価額は以下のように算定されます。

  1. 正味売却価額=売価-(見積追加製造原価+見積販売直接経費)
    ここで正味売却価額とは売却市場における売価から見積追加製造原価および見積販売直接経費を控除したものをいいます(棚卸資産会計基準第5項)。見積販売直接経費は、一般的には、販売手数料、物流関連費など販売の都度、把握できる費用が考えられ企業の実態に合わせて判断することになります。
  2. 内部統制の観点からは期末時点における棚卸資産の評価は、決算財務報告プロセスの1つとして、棚卸資産の正味売却価額が低下している事実を把握し集計する仕組みを構築することが課題となります。

(3)収益性が低下していないことが明らかである場合

  1. 実務上の事務負担を配慮して収益性が低下していないことが明らかであり、事務負担をかけて収益性の低下の判断を行うまでもない場合には、正味売却価額を見積もる必要はないとされています(棚卸資産会計基準第48項)。ただし、これに該当するケースは、過去からの販売が好調で将来も安定的に十分な粗利率が高い棚卸資産の品目に限定されるものと考えられます。
  2. 内部統制の手続きとして、収益性が低下していることが明らかかどうかは、棚卸資産を管理する製造部門または営業部門の損益の状況や、品目別の損益管理を行っている場合における当該損益の発生状況などにより判断することになります。そのため、自社で収益性が低下している事実としてどのような資料が利用できるかを把握しておく必要があります。

(4)正味売却価額が観察できない場合

売却市場において市場価格が観察できないときには、合理的に算定された価額を売価とします。これには、期末前後での販売実績に基づく価額を用いる場合や、契約により取り決められた一定の売価を用いる場合を含みます(棚卸資産会計基準第8項)。

(5)正味売却価額に代わる方法

営業循環過程から外れた滞留または処分見込等の棚卸資産について、合理的に算定された価額によることが困難な場合には、正味売却価額まで切り下げる方法に代えて、その状況に応じ以下のような方法により収益性の低下の事実を適切に反映するように処理します(棚卸資産会計基準第9項)。

  1. 帳簿価額を処分見込価額(ゼロまたは備忘価額を含む)まで切り下げる方法
  2. 一定の回転期間を超える場合、規則的に帳簿価額を切り下げる方法

これまでの実務でも棚卸資産に関する社内規定を設けて、一定の回転期間を超える棚卸資産について規則的な簿価切り下げを行い、収益性の低下を財務諸表に反映させてきたものと思われます。社内規定が棚卸会計基準に照らして収益性の低下を反映しているといえない場合には、現状の社内規定を見直す必要があります。内部統制の手続きとしては、当該取り扱いが棚卸資産会計基準に従ったものであるか、当該取り扱いを変更する必要があるか否かの確認を行うべきであると考えます。

(6)再調達原価の適用

製造業における原材料等のように再調達原価の方が把握しやすく正味売却価額が当該再調達原価に歩調を合わせて動くと想定される場合には、継続して適用することを条件として再調達原価(棚卸資産会計基準第10項)や最終仕入原価を正味売却価額の代理数値とすることができます。実務に配慮し最終仕入原価を用いることも認められています。

(7)小売業において売価還元法を採用している場合の留意点

スーパー、百貨店などの小売店では、棚卸資産の評価について売価還元法を採用しているケースが多いと考えられます。棚卸資産会計基準においては、売価還元法を採用している場合においても正味売却価額が帳簿価額よりも下落しているときには、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とすることが必要であるとされます。他方、値下額および値下取り消し額を除外した売価還元低価法を採用している企業は、売価還元低価法の算式により算出した帳簿価額をもって収益性の低下に基づく簿価引き下げ額を反映したものと見なすことができるとしています。売価還元低価法の算式により算出した帳簿価額は、収益性の低下に基づく簿価引き下げと必ずしも整合するものではありませんが、棚卸資産会計基準においては、実務上の取り扱いを考慮して、値下額等が売価合計額に適切に反映されている場合には、収益性の低下に基づく簿価引き下げ額を反映したものと見なすことができるとされています(棚卸資産会計基準第13項)。

2.収益性低下の判断および簿価切り下げの単位

(1)原則的な方法は個別品目

棚卸資産会計基準では、収益性の低下の有無に係る判断および簿価引き下げは、原則として個別品目ごとに行います。これは、棚卸資産に関する投資の成果は、通常、個別品目ごとに確定することから収益性の低下を判断し簿価切り下げを行う単位も個別品目単位であることが原則と考えられます。

ただし、企業の状況によっては、収益性の低下の有無に係る判断および簿価の切り下げを、グルーピングした単位で行うことが認められています。つまり、複数の棚卸資産を一くくりとした単位で行う方が投資の成果を適切に示すことができると判断されるときにはグルーピングを行った単位で収益性の低下を認識することができます。

(2)複数の棚卸資産を一くくりとした単位で行う方法

この収益性の低下を認識する棚卸資産の単位は個々の企業の状況によって十分な検討が必要です。棚卸資産会計基準では、以下に示すようなものは複数の棚卸資産を一くくりとした単位で行う方が投資の成果を適切に示すことができると判断されるためこれらを一くくりとして取り扱うことが適切とされています(棚卸資産会計基準第53項)。

  1. 補完的な関係にある複数商品の売買を行っている企業においていずれか一方の売買だけでは正常な水準を超えるような収益は見込めないが双方の売買で正常な水準を超える収益が見込めるような場合
  2. 同じ製品に使われる材料、仕掛品および製品を1グループとして取り扱う場合

実務上は粗利を管理している単位等を一くくりとして扱う方法はどうかという指摘もありますが、その結果、正味売却価額が低下している事実を見失うようなことがあっては、財務諸表の信頼性が損なわれることとなります。よって、グルーピングを検討する際には、個別品目単位で行った結果と会計処理が相違することになるかどうか、投資の成果を適切に示すことができるかどうかを十分に検討する必要があります。

3.洗替え法と切放し法の選択適用

棚卸資産会計基準においては、継続適用を原則として棚卸資産の種類ごとに簿価の切り下げの要因ごと(物理的な劣化、経済的な劣化、市場の需給変化に起因する売価の低下)に前期の簿価切り下げ額の戻し入れを行う方法(洗替え法)と行わない方法(切放し法)が選択適用できます(棚卸資産会計基準第14項)。
内部統制の観点からは、棚卸資産の一部を切放し法、一部を洗替え法とする場合は、新しい棚卸資産が発生する都度、当該棚卸資産につき、切放し法を適用するのか、洗替え法を適用するのかを決定し、製品入庫の手続きなどの業務フロー(内部統制の整備)を整備することも必要であると思われます。

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