企業会計ナビ
棚卸資産の評価に関する会計基準

第1回:棚卸資産の評価に関する会計基準(制度趣旨、適用範囲)

2010.12.09
新日本有限責任監査法人 公認会計士 湯本純久

1.はじめに

企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」(以下、「棚卸資産会計基準」という)が平成20年4月1日以後に開始する事業年度から適用されています。その後、平成20年9月に改正されて(以下「改正棚卸資産会計基準」という)、棚卸資産の評価方法から後入先出法が削除されています。これは、国際財務報告基準における会計基準第2号「棚卸資産」において、後入先出法が認められていないことを受けて、会計基準の国際的なコンバージェンスを図るため選択できる棚卸資産の評価方法から後入先出法が削除されたものです。

この解説シリーズにおいては、棚卸資産会計基準の適用に当たっての実務上のポイントを解説します。なお、文中の意見に関する部分は私見であることをお断り申し上げます。

2.棚卸資産会計基準が設定された経緯、基準適用の範囲

棚卸資産会計基準は、近年整備されてきた他の会計基準の整合性や棚卸資産の評価基準として低価法を原則とする国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点からこれまでの原価法と低価法の選択適用を見直し、収益性の低下による簿価引き下げという考え方に基づいた評価基準や開示方法に関して整備したものです。本会計基準の適用の範囲は、棚卸資産を「通常の販売目的で保有する棚卸資産」と「トレーディング目的で保有する棚卸資産」に区分して、前者については、収益性の低下によって帳簿価額を切り下げること、後者については、市場価格に基づいて評価することを定めています。

3.トレーディング目的で保有する棚卸資産の評価基準

トレーディング目的で保有する棚卸資産については、市場価格に基づく価額をもって貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額(評価差額)については、当期の損益として処理します(棚卸資産会計基準第15項)。トレーディング目的で保有する棚卸資産として分類するための留意点や保有目的の変更の処理については、「金融商品に係る会計基準」における売買目的有価証券の取り扱いに準ずるものとされています(棚卸資産会計基準第16項)。

トレーディング目的で保有する棚卸資産に係る損益の表示は、原則として関連損益を純額で売上高の計上区分に計上します。ただし、当該金額の重要性が乏しい場合には営業外収益または営業外費用として計上することができます(財務諸表等規則第72条の2、連結財務諸表規則第51条の2)。

4.棚卸資産に係る損益計算書の表示

棚卸資産の収益性の低下による簿価切り下げ額は、売上原価として処理しますが、棚卸資産の製造に関連し不可避的に発生すると認められるときには製造原価として処理します(棚卸資産会計基準第17項)。また、収益性の低下に基づく簿価切り下げ額が臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには特別損失に計上します。この場合の具体的な例としては重要な事業部門の廃止、災害損失の発生などが挙げられますが限定的なケースです。

棚卸資産会計基準が適用になる前の実務では、費用計上した品質低下や陳腐化による評価損と低価法評価損との間にはその発生原因や棚卸資産の状態、販売価額の回復の可能性について相違があると考えられていましたが、棚卸資産会計基準では、棚卸資産の収益性の低下という考えに基づき会計処理上の取り扱いに相違を設ける意義は乏しく、また、特に経済的な劣化による収益性低下と市場の需給変化等に基づく正味売却価額の下落による収益性の低下は、実務上必ずしも明確に区分できないため、これらの取り扱いについて相違がないものと考え、当該収益性の低下は原則として売上原価として処理することとされました(棚卸資産会計基準第39項 図表参照)。

■図表
  棚卸資産評価損の計上区分の比較
  品質低下評価損 陳腐化評価損 低価法評価損
発生要因 物理的な劣化 経済的な劣化 市場の需給変化
棚卸資産の状態 欠陥 正常
売価の回復可能性 なし あり
従来の会計処理 製造費用、売上原価、販売費又は営業外費用 売上原価又は
営業外費用
棚卸資産会計基準の取扱い 原則すべて収益性の低下として売上原価として処理する

5.平成20年改正棚卸資産会計基準

(1)当初の棚卸資産会計基準においては、先入先出法などの棚卸資産の評価方法については取り扱っていませんでした。改正棚卸資産会計基準においては、棚卸資産の評価方法に関する定めとして6-2項、6-3項が追加されています。改正棚卸資産会計基準6-2項では、棚卸資産の評価方法として個別法、先入先出法、平均原価法及び売価還元法の定めはありますが、後入先出法の定めはありません。また、最終仕入原価法は期末棚卸資産の大部分が最終の仕入価格で取得されているときのように期間損益の計算上弊害がないと考えられる場合や、期末棚卸資産に重要性が乏しい場合にのみ容認されています(改正棚卸資産会計基準第34項-4)。

(2)後入先出法が棚卸資産の評価方法から削除された経緯

  1. 棚卸資産の価格水準の変動時には後入先出法を用いる方が、他の評価方法に比べ棚卸資産の購入から販売までの保有期間における市況の変動により生じる保有損益を期間損益から排除することができます。このため、後入先出法は、当期の収益に対して、これと同一の価額水準の費用を計上すべきという考え方と整合している評価方法と考えられます。実際にわが国において後入先出法は、主として原材料の仕入価格が市況の変動による影響を受けこの仕入価格の変動と製品の販売価格の関連性が強い業種に多く選択される傾向がありました。
  2. 後入先出法では、棚卸資産が過去に購入した時からの価格変動を反映しない金額で貸借対照表に繰り越され続けるため、その貸借対照表価額が最近の再調達原価の水準と大幅に乖離する可能性があります。この場合、棚卸資産の貸借対照表価額は、棚卸資産の受払いが生じているにもかかわらずに市況の変動を長期間にわたって反映しない可能性があります。
  3. 棚卸資産の期末の数量が期首の数量を下回る場合には、期間損益計算から排除されてきた保有損益が当期の損益に計上され、その結果、期間損益が変動することになります。この点に関して企業が棚卸資産の購入量を調整することにより、当該保有損益を意図的に当期の損益に計上することができてしまうという指摘があります。

以上のように後入先出法については、棚卸資産の評価方法として長所及び短所について様々な意見がありますが、国際的なコンバージェンスの観点から、改正棚卸資産会計基準において、選択できる評価方法から削除され、後入先出法はわが国の会計実務においても棚卸資産の評価方法として認められなくなりました。

棚卸資産の評価に関する会計基準

情報量は適当ですか?

文章はわかりやすいですか?

参考になりましたか?