内部統制 第2回:内部統制の評価範囲の決定

2012年3月22日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 湯本純久

Q5. 財務報告の範囲について教えてください。

Answer

内部統制報告制度において評価・報告の対象となる「財務報告」とは、財務諸表及び財務諸表の信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項等に係る外部報告をいいます。具体的には<表5-1>のものをいいますが、必ずしも財務報告の全てが評価対象とならないことに留意が必要です。

表5-1 財務報告の範囲

財務報告の
範囲
定義/例示
留意点
財務諸表
  • 連結財務諸表
  • 個別財務諸表

 

財務諸表の表示等を用いた記載
  • 財務諸表に記載された金額・数値・注記を要約・抜粋・分解・利用して記載すべき開示事項
    • 企業の概況:主要な経営指標等の推移
    • 事業の状況:業績等の概況、生産、受注及び販売の状況、事業等のリスク、研究開発活動、財政状態及び経営成績及びキャッシュ・フローの分析
    • 設備の状況
    • 提出会社の状況:株式等の状況、自己株式の取得等の状況、配当政策、コーポレート・ガバナンスの状況
    • 経理の状況:主な資産及び負債の内容、その他
    • 保証会社情報:保証の対象となっている社債
    • 指数等の情報
  • 財務諸表に記載された内容が適切に要約・抜粋・分解・利用されるような体制が整備・運用されているかどうかのチェックに限定
  • 財務諸表上の数字等の転記、開示内容の検証に関する統制(開示統制)の整備・運用状況の有効性を評価
財務諸表作成における判断に密接に関わる事項
  • 関係会社の判定、連結範囲の決定、持分法適用の要否、関連当事者の判定等
    • 企業の概況:事業の内容、関係会社の状況
    • 提出会社の状況:大株主の状況における関係会社・関連当事者・大株主等の記載事項
  • あくまで財務諸表作成における重要な判断に及ぼす影響の大きさを勘案
  • 関係会社の判断に重要な影響を及ぼすようなことがある場合のみ評価

Q6. 評価対象となる内部統制の範囲について教えてください。

Answer

1. 全社的な内部統制の評価範囲

全社的な内部統制については、原則として、全ての事業拠点について全社的な観点での評価が必要ですが、財務報告に対する影響の重要性が僅少な事業拠点を評価対象としないことが可能です。改訂前の実施基準では僅少である事業拠点についての具体的な判断基準がありませんでしたが、改訂実施基準では、例えば売上高で全体の95%に入らないような連結子会社は僅少なものとして外すといった取扱いが考えられるとされ、全社的な内部統制の評価範囲の明確化が図られました。なお、財務報告に対する影響の重要性が僅少である事業拠点の判断は、経営者によって、必要に応じて監査人と協議して行われるものであり、特定の比率を機械的に使用すべきものでないことに留意する必要があります。また、財務報告に対する影響の重要性が僅少である事業拠点の判断については、例えば、売上高の一定比率といった基準を全ての連結子会社に適用するのではなく、各連結子会社の事業の内容等に応じ、異なる基準を適用する方法も考えられることが示されました。

2. 決算・財務報告プロセスの評価範囲

決算・財務報告プロセスのうち、全社的な観点で評価することが適切と考えられるものの評価範囲は、1の全社的な内部統制の評価範囲と基本的に一致します。もし、両者に差異が生じている場合は、その理由を記録しておく必要があります。それ以外の決算・財務報告プロセスの評価範囲は、次の3(2)の評価範囲と同様の考え方により決定します。

3. その他の業務プロセスの評価範囲

その他の業務プロセスは、事業目的に大きく関わる勘定科目と、個別に評価対象に追加すべき重要性の大きいプロセスで、評価範囲の選定方法が異なります。

(1) 事業目的に大きく関わる勘定科目

a. 重要な事業拠点の選定

企業が複数の事業拠点を有する場合には、評価対象とする事業拠点を売上高等の重要性により決定します。例えば、本社を含む各事業拠点の売上高等の金額の高いものから合算していき、連結ベースの売上高等の一定割合に達するまでの事業拠点を評価対象とします。一定割合については、全社的な内部統制の評価が良好であれば、連結ベースの売上高等の概ね3分の2程度とされています。これに関して、改訂実施基準において内部統制報告制度の過去の整備運用の実績により評価手続の簡素化を図る観点より、以下の要件を充足した場合には、当該事業拠点をその事業年度の評価範囲としないことができるようになりました。

  • 当該事業拠点が前年度に重要な事業拠点として評価範囲に入っていること
  • 前年度の当該拠点に係る内部統制の評価結果が有効であること
  • 当該拠点の内部統制の整備状況に重要な変更がないこと
  • 重要な事業拠点の中でも、グループ内での中核会社でないことなど特に重要な事業拠点でないことを確認できること

上記要件の検討により評価手続の簡素化が行われた結果、改訂実施基準で例示されている一定割合である「連結ベースの売上高等の概ね3分の2」という比率を相当程度下回ることもあり得ることが明示されました。なお、改訂実施基準の解釈により、評価対象とされなかった重要な拠点は、翌事業年度は評価範囲に含まれることになります。このため、一定の要件を充足した重要事業拠点でも2年に1度は評価範囲に含めることに留意が必要です。

b. 評価対象とする業務プロセスの識別

選定された重要な事業拠点における、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスは、原則として、全てを評価対象とする必要があります。一般的な事業会社の場合、原則として、売上、売掛金及び棚卸資産と例示されていますが、重要な勘定科目は経営者が事業の特性などを踏まえて慎重に検討すべきです。

また、当該重要な事業拠点が行う重要な事業又は業務との関連性が低く、財務報告に対する影響の重要性も僅少である業務プロセスについては、それらを評価対象としないことができるとされています。その判断基準について、例えば、売上を「企業の事業目的に大きく関わる勘定科目」としている場合において、売上に至る業務プロセスの金額を合計しても連結売上高の概ね5%程度以下になる業務プロセスを、売上に至る業務プロセスを重要な事業又は業務との関連性が低く、財務報告に対する影響の重要性も僅少なものとして評価の対象から外す取扱いが考えられるとされています。また、この概ね5%の程度の取扱いについては、実質的に判断して行うもので機械的に適用すべきでないことが示されています。

(2) 個別に評価対象に追加すべき重要性の大きいプロセス

重要な事業拠点か否かにかかわらず、財務報告への影響を勘案して重要性の大きい業務プロセスについては、個別に評価対象に追加します。実施基準によれば、以下のような視点で選定します。

  • リスクが大きい取引を行っている事業又は業務に係る業務プロセス
  • 見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセス
  • 非定型・不規則な取引など虚偽記載が発生するリスクが高いものとして、特に留意すべき業務プロセス

なお、追加的に評価対象に含める場合、財務報告への影響を勘案して、事業又は業務の全体でなく、特定の取引又は事象(あるいは、その中の特定の主要な業務プロセス)のみを評価対象に含めれば足りる場合には、その部分だけを評価対象に含めることでよいとされています。

Q7. 評価範囲の決定における留意点について教えてください。

Answer

1. 評価範囲の決定時期

評価範囲は、前期の実績値や対象年度の予算値をベースに、評価対象年度の早い段階で決定しておくことが必要です。さらに、期中における事業内容や組織の変更などを含め、期末日近くに評価範囲が適切であるかを再検討することに留意が必要です。

また、全社的な内部統制の有効性の評価結果が業務プロセスの評価範囲に影響するので、全社的な内部統制の評価は早い段階に実施することが望まれます。

2. 監査人との協議

監査人による評価範囲の妥当性の検討の結果、経営者の決定した評価範囲が適切でないと判断された場合、時間的な制約により経営者の評価が困難となる場合が想定されるため、経営者は評価の範囲を決定した後に監査人と協議を行っておくことが適切です。

Q8.評価範囲の決定で記録すべき内容及び記録上の留意点について教えてください。

Answer

経営者により決定された内部統制の評価範囲の妥当性は監査人の監査対象となるため、評価範囲を決定した過程は適切に記録しておく必要があります。

記録しておく評価範囲の決定資料としては、例えば以下のようなものが考えられます。

(1) 事業拠点の一覧表
(2) 全社的な内部統制の評価範囲の決定のための判定シート(僅少な事業拠点の判定シート)
(3) 重要な事業拠点の決定のための判定シート
(4) 重要な事業拠点における企業の事業目的に関わる勘定科目及び財務報告に重要な影響を及ぼす業務プロセスの決定のための判定シート

上記以外にも、重要性の判定のために利用した指標や比率の考え方、全社的な内部統制の評価結果を踏まえた評価範囲の調整、監査人との協議なども記録しておくことが必要と考えられます。

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