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外貨建取引

第1回:外貨建取引と在外支店の換算

2010.09.02
新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡
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はじめに

「外貨建取引等会計処理基準」(以下、会計基準)および会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」(以下、実務指針)が適用される範囲は、通常の営業取引のみならず、金融商品や在外子会社等の換算等多岐にわたるものであり、取引に応じて異なる会計処理が求められます。
今回の解説シリーズでは、実務において必要と思われるポイントを中心に解説していきます。
なお、文中意見にかかわる部分は私見であることをあらかじめお断りしておきます。

第1回では、外貨建取引について取引発生時から決算時の処理、在外支店の財務諸表項目の換算について解説していきます。
なお、外貨建有価証券およびヘッジ会計に関しては後述するため、解説の記載から除いています。

1.外貨建取引
(1) 外貨建取引の定義

外貨建取引とは、売買価額その他取引価額が外国通貨で表示されている取引をいい、主な例を示すと、以下のとおりです。

外貨建取引の主な例
  • 取引価額が外国通貨で表示されている物品の売買または役務の授受
  • 決済金額が外国通貨で表示されている資金の借入または貸付
  • 券面額が外国通貨で表示されている社債の発行
  • 外国通貨による前渡金、仮払金の支払または前受金、仮受金の受入
  • 決済金額が外国通貨で表示されているデリバティブ取引等

なお、国内の製造業者等が商社等を通じて輸出入取引を行う場合であっても、為替リスクを製造業者等が負担するなど、実質的に取引価額が外国通貨で表示されている取引と同等と見なされるものは、外貨建取引に該当します(会計基準注解1)。

(2) 取引発生時の処理

(原則)
外貨建取引は、原則として、当該取引発生時の為替相場による円換算額をもって記録します。
ただし、外貨建取引高のうち、前渡金または前受金が充当される部分については、前渡金または前受金の金銭授受時の為替相場による円換算額を付し、残りの部分については、取引発生時の為替相場により換算します(実務指針26項)。
また、外貨建取引に係る外貨建金銭債権債務と為替予約等との関係が金融商品に関する会計基準におけるヘッジ会計の要件を満たしている場合には、当該外貨建取引についてヘッジ会計を適用することができるとされています。

外貨建取引の実務における事例

外貨建取引は原則として取引の都度、取引時の為替相場を把握する必要がありますが、外貨建取引を多く行う場合や多通貨にわたる外貨建取引を行っている場合等においては、実務上の煩雑性が生ずることが想定されます。 このため、会計基準注解2では実務上の煩雑性を考慮し、取引発生時の為替相場を取引が発生した日の直近の一定の日における直物為替相場によることも妨げないとされ、実務においては前月末の直物為替相場等を用いて外貨建取引を換算することが行われております。 また、外貨建取引発生時に社内想定レートを用いて換算し、月次決算時において会計基準等が求める為替相場による数値へ調整することにより、社内の業績管理および実務上の効率性の向上を図っているケースもあります。 (外貨の為替相場は、場合によっては急激な変動が生ずるため、いずれの場合も原則通りの処理結果と大きく異なることが無いように注意する必要があります。)


外貨建売掛金の実務における管理・処理事例

  • 売掛金管理台帳の管理
    外貨建ての売掛金において、売掛金管理台帳を外貨額で管理するケースが通常です。これは、売掛金の回収および与信管理は外貨額で行われることが主な理由として挙げられます。
    また、売掛金管理台帳を外貨額および円貨額の両面で管理するケースもあります。これは、円貨額と外貨額の比較を容易にすることにより為替変動による影響とリスクを適時に把握することが主な理由として挙げられます。
  • 期末に生じた換算差額を翌期首に戻す処理
    前期末に生じた売掛金の換算差額を翌期首に戻し、回収時あるいは期末時における換算差額を取引時の為替相場による円貨額との差額により計上する処理を行うと、取引発生時から回収までに生じた為替変動による影響を回収時に明確にすることができます。

(外国通貨による記録)

本邦内の事業単位において、外国通貨による取引が行われており、それらの取引の決済による外貨が円転されることなく、他の外貨建金銭債権債務の決済に恒常的に用いられていることから、外貨建取引について取引発生時の外国通貨により記録することが合理的であると認められる場合には、取引発生時の外国通貨の額をもって記録する方法を採用することができます(会計基準注解3、実務指針2)。
この場合、外国通貨の額をもって記録された外貨建取引は、各月末等一定の時点において、当該時点の直物為替相場または合理的な基礎に基づいて算定された一定期間の平均相場による円換算額を付するものとされています。
なお、在外支店においても、同様の状況にある場合には、現地通貨以外の外国通貨による取引を当該通貨により記録することができます。

(外貨建債券等の外貨による非貨幣性資産等への再投資)

外貨建債券、外貨建預金および外貨建貸付金等の貨幣性資産に係る受取外貨額を円転せずに外貨による有形固定資産等の取得に再投資する目的で保有し、次の二つの条件のいずれも満たす場合には、外貨建預金および外貨建貸付金等の換算差額を繰り延べ、当該外貨による非貨幣性資産等の取得価額に加減することができます。
なお、再投資までの期間がおおむね1年を超える場合には、取引の実行可能性について十分に吟味する必要があります(実務指針24項)。

  • 外貨建債券等の取得の当初から再投資することを計画していることが正式な文書により明確であること
  • 同一通貨同士の取引であること
(3) 決済に伴う損益の処理

外貨建金銭債権債務の決済(外国通貨の円転換を含む)に伴って生じた損益は、原則として、当期の為替差損益として処理します。

(4) 決算時の処理

a. 換算方法と換算差額の処理

外国通貨、外貨建金銭債権債務等について、決算時においては以下の換算と処理を行います。

科目 原則 その他
換算方法 換算差額の処理 換算方法
a. 外国通貨 決算時の為替相場 為替差損益
b. 外貨建金銭債権債務 決算時の為替相場 為替差損益 発行時の為替相場※
c. 外貨により授受された前渡金および前受金 金銭授受時の為替相場
d. 外貨建未収収益および未払費用 b.外貨建金銭債権債務に準ずるものとして換算
e. 上記a~d以外のデリバティブ取引等 決算時の為替相場 当該デリバティブ取引に係る評価差額に含めて処理
f. 外貨建自社発行新株予約権 発行時の為替相場
g. 保証債務の注記 決算時の為替相場

※ 外貨建自社発行社債のうち転換請求期間満了前の転換社債(転換請求の可能性がないと認められるものを除く)については、発行時の為替相場により円換算した額を付します。

(為替相場の定義)

用語 定義 例示
取引発生時の為替相場
取引が発生した日における直物為替相場または合理的な基礎に基づいて算定された平均相場とされています(会計基準注解2)。 合理的な基礎に基づいて算定された平均相場の例としては、下記の直近の一定期間の直物為替相場に基づいて算出されたものが挙げられます。
a. 取引の行われた月の前月の平均
b. 取引の行われた週の前週の平均






ただし、取引が発生した日の直近の一定の日における直物為替相場によることも妨げないとされています(会計基準注解2)。 直近の一定の日の例としては、下記の直物為替相場が挙げられます。
a. 取引の行われた月の前月の末日
b. 取引の行われた週の前週の末日
c. 当月または当週の初日
決算時の為替相場
決算時の為替相場とは、決算日の直物為替相場とされています(会計基準注解8)。 決算時の直物為替相場とされています。

ただし、決算日前後の為替相場の変動状況から判断して、決算日の直物為替相場が異常と認められる場合にのみ、決算日の前後一定期間の直物為替相場に基づいて算出された平均相場を用いることができます。
この場合には、決算日の直物為替相場と決算時に適用した平均相場を、財務諸表等に注記することが必要となります(実務指針11項)。
決算日の前後一定期間とは、決算日を含むおおむね1カ月以内をいいますが、為替相場の変動の推移、外貨建金銭債権債務残高およびその決済日等を考慮して合理的に判断して決定するものとされています。

流通性の低い外国通貨の実務

外国通貨の中でも、ドルやユーロといったメジャーな外国通貨がある一方で、発展途上国等における外国通貨といった流通性の低いマイナーな外国通貨があります。このような外国通貨は適時に為替相場を把握することができない場合があります。
このため、実務においては直近に入手した前月末の直物為替相場を用いて換算する等、入手し得る情報に基づき最善の処理を実施できるように管理することが必要です。
また、発展途上国等の外国通貨は不安定要素も強く、著しい為替相場の変動や通貨体制の変更等により、企業にとっては異常な為替差損益が発生する場合も想定されます。このような場合には、為替差損益を営業外損益ではなく、特別損益として表示することが妥当とされます(実務指針69項なお書き)。

b. 為替差損益の表示

外貨建金銭債権債務等に係る決済差と換算差から生じた差損益は、ともに為替差損益として処理し、差益と差損を相殺した純額で「営業外損益」として表示します。
ただし、以下のいずれかの事象が認められる場合には、「特別損益」の一項目として表示します(実務指針28項、69項なお書き)。

  • 当該為替差損益の発生の要因となった取引が経常取引以外の取引であり、かつ、金額に重要性があると認められる場合
  • 特殊な要因により一事業年度に異常、かつ多額に発生したと認められる場合

会計システムが外貨建取引に非対応である場合の弊害と管理

会計システムが外貨建取引に未対応である場合、外貨換算等は取引台帳等といったシステム外での管理が必要となります。このような場合には、以下の弊害が生ずることが考えられます。

(弊害の主な例)

  • 全社的な外貨の取扱量や外貨変動リスクを適時、かつ、適切に把握できない。
  • 取引台帳上で換算および会計処理がなされるため、取引台帳を支店や現地拠点等で作成・管理している場合には、換算方法および会計処理方法において全社的な統一がなされていない場合がある。
  • 決算時に外貨建金銭債権債務の期末換算を漏らしてしまう。

このため、会計システムが外貨建取引に未対応である場合、管理を本社経理等に一元化することや、社内の経理・報告規定を見直す等といった、システム外での管理体制の見直し・構築が必要となります。


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