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わかりやすい解説シリーズ「金融商品」

第5回:デリバティブとヘッジ会計

2013.07.23
新日本有限責任監査法人 公認会計士 伊藤 毅
新日本有限責任監査法人 公認会計士 友行貴久

1. デリバティブの会計処理

【ポイント】
デリバティブとは金融派生商品のことを指します。具体的には先物取引・先渡取引・オプション取引等が含まれます。これらの会計処理の特徴として、以下が挙げられます。

  1. 原則として期末で時価評価を行い、評価差額を当期の損益に計上します。
  2. ただし、ヘッジ会計の要件を満たすものについては、ヘッジ会計を適用することでヘッジ対象の損益が認識されるまで評価差額を繰り延べることができます。

(i)デリバティブとは

デリバティブとは金融派生商品のことであり、目的に応じて様々な金融商品により構成されます。具体的には先物取引、スワップ取引、オプション取引等が該当しますが、これらは金利や為替相場等の変動により価値が変動するという特徴があります。

図1

なお、デリバティブはその目的から以下の3種類に分類されます。

  1. リスクヘッジ(ヘッジ対象の損益の相殺を目的とする)
  2. スペキュレーション(少額の投資をもとに多額の利益を得ることを目的とする)
  3. アービトラージ(市場価値と比較して割高もしくは割安の金融商品を売買することにより利益を得ることを目的とする)
図2

(ii)デリバティブの会計処理の概要

デリバティブも金融商品の一種であるため、原則として契約時に発生を認識し、期末で時価評価して評価差額を当期の損益として計上します。ただし、ヘッジ会計の要件を満たすものについては評価差額を繰り延べ、ヘッジ対象の損益が計上されるタイミングに合わせて損益として処理することができます。

会計処理 詳細
原則的処理 時価で評価し評価差額を損益に計上します。
例外処理 ヘッジ手段として適格 原則として時価評価し、評価差額はヘッジ対象の損益計上時期に合わせて損益処理します。
時価を算定することが極めて困難 取得原価で評価します。
※ヘッジ会計といいます。(詳細は次項参照)
図3

2. ヘッジ会計の会計処理

(1)ヘッジ会計の意義

【ポイント】
ヘッジ会計とは、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益計上のタイミングを合わせることによってヘッジの効果を会計に反映させるための会計処理です。

取引によって生じる将来のキャッシュ・フローが市場相場の変動等により影響を受ける場合、これと逆の動きをする取引をしてキャッシュ・フローの変動による影響を相殺することで、経営の安定化を図ることができます。
この対象となる取引をヘッジ対象、手段となる取引をヘッジ手段と呼びます。後者のヘッジ手段となるのがデリバティブ取引です。
ここで、ヘッジ手段であるデリバティブ取引は原則として毎期末に時価評価され、評価差額がP/Lに計上されますが、ヘッジ対象については必ずしもそうではありません。そこで、ヘッジ手段とヘッジ対象の損益計上のタイミングを合わせることによりヘッジの効果をP/Lに適切に反映させるため、ヘッジ会計という特殊な会計処理が用いられます。

図4

具体的に、ヘッジ会計として繰延ヘッジと時価ヘッジの2種類が挙げられます。このうち、繰延ヘッジが原則的方法とされています。

方法 詳細
繰延ヘッジ
(原則的方法)
時価評価されているヘッジ手段に係る損益をヘッジ対象に係る損益が認識されるまで純資産の部で繰り延べる方法。
時価ヘッジ ヘッジ対象である資産又は負債に係る相場変動などを損益に反映させることにより、その損益とヘッジ手段に係る損益とを同一の会計期間に認識する方法。
(時価ヘッジのヘッジ対象としてはその他有価証券のみが考えられます。)

繰延ヘッジの例

ヘッジ対象: 商品(販売価格が相場変動の影響を受ける)
取引開始時の販売価格は500、売上原価は400とする
ヘッジ手段: 先物売契約(デリバティブの一種)

① ヘッジ会計を適用しない場合

図5

② ヘッジ会計を適用する場合

図6

時価ヘッジの例

ヘッジ対象: その他有価証券(時価の変動の影響を受ける)
ヘッジ手段: デリバティブ(ヘッジ対象となる有価証券の銘柄の時価とは反対の動きをするもの)

① ヘッジ会計を適用しない場合

図7

② ヘッジ会計を適用する場合

図8

(2)ヘッジ対象

【ポイント】
ヘッジ対象には(i)既にB/Sに計上されている取引と、(ii)将来履行される取引が含まれます。

典型例なヘッジ対象・ヘッジ手段は(相場変動しやすい)商品と商品先物ですが、まだ購入しておらず、これから購入する予定の商品に対して契約したデリバティブについてもヘッジと認められることがあります。

図9

(i)既にB/Sに計上されているもの

ヘッジ対象は商品・借入金など既にB/Sに計上されているものが基本です。
具体的には以下の3つが挙げられます。

  1. 相場変動による損失の可能性がある資産又は負債のうち、相場変動が評価に反映されていないもの。(⇒そもそも時価評価されていないもの)
  2. 評価には反映されているが評価差額が当期の損益として処理されていないもの 。(⇒時価評価されていても評価差額がB/Sに計上されるもの)
  3. 資産又は負債に伴うキャッシュ・フローが変動するものに対するキャッシュ・フローを固定化するもの 。(⇒借入金の利息の支払いが変動金利である場合等の、B/Sに計上されているものに関連するキャッシュの受払が相場の変動の影響を受けるもの)

(ii)将来履行される取引

また、既にB/Sに計上されているものだけでなく、将来B/Sに計上される予定の取引もヘッジ対象に含まれます。これは、将来実行する取引に係る相場変動の影響をヘッジするために、当該契約の履行前からヘッジ手段の契約をしている場合は、ヘッジの実態をP/Lに適切に反映させるためにヘッジ会計を適用することが必要になるからです。

具体的には以下の2つの取引が挙げられます。

  1. 契約は未締結であるが、主要な取引条件が合理的に予測可能で、かつ、実行される可能性が極めて高い取引(契約未締結取引)
  2. 未履行の確定契約に係る取引(未履行確定契約)
図10

(3)ヘッジ会計の適用要件

【ポイント】
ヘッジ会計を適用するためには、事前テストと事後テストの両方をクリアする必要があります。

ヘッジ会計では、ヘッジの効果をP/Lに適切に反映させるために、金融商品会計の原則的な会計処理とは異なった処理をします。さらに、行っているデリバティブ取引が、ヘッジを目的としているかどうかは、経営者の主観的な判断によります。
そのため、そもそもヘッジ取引がリスクをヘッジする効果がある(=有効性がある)ものなのか、ヘッジ取引後も継続してヘッジの効果が認められるものなのかを確認する必要があります。
具体的には以下のようにヘッジ取引開始時に事前テスト、ヘッジ取引開始後に事後テストの検討をします。

区分 詳細
事前テスト
  • ヘッジ対象のリスクとヘッジ手段を明確化する 。
  • ヘッジ有効性の評価方法を正式な文書で明示する。
  • ヘッジ手段の有効性を事前に予測する。
事後テスト
  • ヘッジ取引時以降も継続して高い有効性が保たれていることを確認する。
  • 有効性の評価方法にはヘッジ開始時からの時価またはキャッシュ・フロー変動の比率分析等を適用する。
  • 変動比率が80%~125%の範囲内であればヘッジ対象とヘッジ手段との間に高い相関関係が認められる。
  • ヘッジの有効性の評価は決算日には必ず行い、少なくとも6ヶ月に1度実施する。

(事前テストと事後テストの例)

ヘッジ対象: 商品(販売価額が相場変動の影響を受ける)
ヘッジ手段: 先物売契約(デリバティブの一種)
図11

【事前テスト】
ヘッジ取引時において、①ヘッジ対象のリスクとヘッジ手段の明確化、②ヘッジ有効性の評価方法の正式な文書での明示、③ヘッジ手段の有効性の予測が必要です。

【事後テスト①】
ヘッジ対象の時価が+100、ヘッジ手段の時価が△80の変動をしているので、これらの変動比率を計算すると80/100=80%になります。変動比率が80%~125%の範囲内にあり、ヘッジ対象とヘッジ手段の間に高い相関関係が認められるため、ヘッジが有効であると判断されます。
そこで、ヘッジ手段の含み損失である△80はヘッジ対象の損益が認識されるまで繰り延べられます。

【事後テスト②】
ヘッジ対象の時価が+50、ヘッジ手段の時価が△100の変動をしているので、これらの変動比率を計算すると100/50=200%になります。変動比率が80%~125%の範囲内になく、ヘッジ対象とヘッジ手段の間に高い相関関係が認められないため、ヘッジが非有効であると判断されます。
そこで、これ以降に発生するヘッジ手段の時価の変動は損益としてP/Lに計上されます。ただし、これまでに発生したヘッジ手段の含み損失である△100はヘッジ対象の損益が認識されるまで繰り延べられます。

【ヘッジ会計中止後の決算】
ヘッジ手段の時価が△120の変動をしていますが、事後テスト②までに発生した含み損失である△100はヘッジ対象の損益が認識されるまで繰り延べられます。
一方で、事後テスト②以降に発生したヘッジ手段の時価の変動である△20はP/Lに計上されます。

なお、ヘッジ対象が消滅した場合は「ヘッジ会計の終了」、ヘッジが有効でなくなった場合やヘッジ手段が消滅した場合は「ヘッジ会計の中止」となり、両者で会計処理の方法が異なるので留意が必要です。

項目 内容
ヘッジ会計の終了 ヘッジ対象が消滅したとき又はヘッジ対象である予定取引が実行されないことが明らかになったときは、繰り延べられていたヘッジ手段に係る損益又は評価差額を当期の損益として処理します。
ヘッジ会計の中止 ヘッジ会計の要件を満たさなくなった場合やヘッジ手段が消滅した場合は、その時点までのヘッジ手段に係る損益又は評価差額はヘッジ対象に係る損益が認識されるまで繰り延べます。

(下の図をクリックすると拡大します)

(4)金利スワップの特例処理

【ポイント】
金利スワップの特例処理の要件を満たす場合には金利スワップを時価評価せず、金銭の受払の純額等をヘッジ対象である資産又は負債の利息に加減して処理することができます。

金利スワップとは、異なる種類の金利間で受払条件を変換することを目的として利用される取引です。そのため、固定金利支払・変動金利受取の金利スワップを利用すれば、変動金利の借入金について、その利息負担を固定金利の借入金に係るものと同等のものに変えることができます。

(金利スワップの例)

  • A社はX銀行から変動金利で借入れ、B社はY銀行から固定金利で借入れをしている。
  • A社は市場金利の上昇を予想し、B社は市場金利の下落を予想している。

【金利スワップ前】
A社は将来の市場金利の上昇を予想していますが、X銀行から変動金利で借入をしているため、金利スワップをすることにより金利の変動の影響を回避したいと考えています。一方で、逆にB社は将来の市場金利の下落を予想していますが、Y銀行から固定金利で借入をしているため、金利スワップをすることにより金利の負担を軽減させたいと考えています。

図13

【金利スワップ後】
A社とB社の間で、A社から固定金利の支払いをB社へ行い、B社から変動金利の支払いをA社に行うという金利スワップ契約を締結します。

図14

具体的にA社の負担する利息について考えてみると、A社がX銀行へ支払う変動金利の支払いとB社から受け取る変動金利については相殺して考えることができるため、A社が実質的に負担する利息はB社に対して支払う固定金利になると言えます。
そのため、金利スワップをすることにより、将来の市場金利の上昇を予想するA社は金利負担を固定金利に変更することができたということができます。

図15

金利スワップはデリバティブに該当するため、原則として時価評価して評価差額をP/Lに計上する必要があります。ただし、金利スワップが金利変換の対象となる資産又は負債とヘッジ会計の要件を満たしており、かつ、その想定元本、利息の受払条件(利子率、利息の受払日等)及び契約期間が当該資産又は負債とほぼ同一である場合には、金利スワップを時価評価せず、その金銭の受払の純額等を当該資産又は負債に係る利息に加減して処理することができます(金利スワップの特例処理)。
そのため、金利スワップの特例処理を適用すれば、会計処理をするにあたり利息の受払額にのみ留意すればよいため、経理の作業は簡便的なものになります。

以上をまとめると、金利スワップの会計処理としては以下の3種類が考えられます。

  1. 金利スワップを時価評価して評価差額を当期の損益としてP/Lに計上する(原則)。
  2. 金利スワップを時価評価して評価差額を繰り延べる(繰延ヘッジ)。
  3. 金利スワップを時価評価せずに金利スワップの純受払額を対象となる資産又は負債の利息調整として処理する(特例処理)。
図16

わかりやすい解説シリーズ「金融商品」



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