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金融商品の時価等の開示

第6回: 実務上のポイント その3

2009.12.14
新日本有限責任監査法人 ナレッジセンター 公認会計士 金子裕子

8.勘定科目ごとの時価の算定例

(1)現預金

短期間で決済される預金や満期のない預金の場合には、時価はほぼ帳簿価額に等しいことから、帳簿価額によることができます。そうでない場合には、期間に基づく区分ごとに、新規に預金を行った場合の預金金利で割り引いた現在価値を時価とする等の方法が考えられます。

(2)売掛金・受取手形・貸付金等(金銭債権)

①基本的な考え方

短期間で決済される場合には、時価はほぼ帳簿価額に等しいことから、帳簿価額によることができます。そうでない場合には、期間に基づいて区分した債権ごとに、満期までの期間および信用リスクを加味した利率により割り引いた現在価値を時価とする等の方法が考えられます。

②短期間の判断

現預金、金銭債権および金銭債務について、短期間で決済される場合には、時価はほぼ帳簿価額に等しいことから帳簿価額によることができるとされています。この場合の「短期間」をどのように判断するかが論点となります。この判断基準として、一律に期間を示すことはできませんが、「金融商品会計に関するQ&A」Q19では、投資信託および合同運用の金銭の信託のうち時価で評価しなくても実務上の弊害がないものの考慮事項として「短期間(おおむね3カ月以内)に運用成果が分配等されること」と記載されています。そこで、3カ月以内に決済される場合には、「短期間」と判断して問題ないものと考えられ、さらに、6カ月から1年後のように短期間で決済される場合で、時価と帳簿価額の差に重要性がない場合は、短期間として取り扱うことができるのではないかと思われます。

なお、短期間で決済される債権であっても、信用リスクが増大する等の理由により、簿価を時価と見なせない状況になる場合があることに留意が必要です。

③貸倒引当金との関係

債権の時価を算定する場合には、信用リスクを反映することが必要であり、信用リスクは、将来キャッシュ・フローまたは割引率のいずれかに織り込むことになります。債権の時価を、債権金額から貸倒引当金を控除した金額と考えることは、通常は適当でないと考えられます。これは、主として次の理由によるためです。

  • 貸倒引当金は、債権残高に過去の貸倒実績率を乗じるなどの一定のルールに基づいて算定されており、「時価算定の際に算出される信用リスク」と必ずしも同じではない場合があること。
  • キャッシュ・フロー見積法(改正会計基準第28項(2)②)を用いて貸倒引当金を算定している場合にも、期末の割引率ではなく約定利子率または債権取得当初の実効利子率を用いて割引計算しており、割引現在価値法における金額とは異なると考えられること。

(3)有価証券

①基本的な考え方

上場株式の場合には、取引所の価格を時価としますが、非上場株式の場合には、将来キャッシュ・フローが約定されていないことから、時価を算定することが極めて困難な有価証券に該当します。

債券については、取引所の価格または取引金融機関から提示された価格を時価とします。将来キャッシュ・フローが約定されている場合には、時価を算定することが極めて困難と認められる場合は限定的とされています(適用指針第39項)。

②非上場の優先株式(優先出資証券)の取り扱い

非上場の優先株式(優先出資証券)について、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券に該当する場合には、取得原価をもって貸借対照表価額とするとされています(改正会計基準第19項(2))。

ただし、将来キャッシュ・フローが約定されているような一定の種類株式に関しては、時価で貸借対照表に計上するとともに、時価等の開示が必要になると考えられます。また、非上場の種類株式について、容易に市場価格のある普通株式に転換し、取引できるような場合(現時点で普通株式への転換が可能であり、ディープ・イン・ザ・マネーの状態にある場合など)には、当該種類株式について市場価格のある株式として取り扱われることになるとされています(種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い Q2)。

③非上場投資事業組合出資金および匿名組合出資金の取り扱い

非上場出資金については、非上場株式と同様に時価を把握することが極めて困難と認められるかが論点となります。投資事業組合等への出資の場合には、事業目的が限定されることから、資産や負債が特定のもの(有価証券、不動産、借入金など)で構成され、この場合には時価の算出が可能なケースが考えられます。また、株式についても、将来のキャッシュ・フローが約定されている優先株式等では時価のある株式とするとされていることから(適用指針第39項)、出資金についても、時価の算出が可能かどうかによって、時価開示の要否が判断されることになります。

④信託受益権証券の取り扱い

金融商品取引法第2条第2項第1号および第2号に該当する信託受益権は、信託受益権が優先劣後等のように質的に分割されており、信託受益権の保有者が複数である場合(金融商品実務指針第100項(2))などを除き、有価証券として取り扱わないとされています(金融商品会計に関するQ&A Q1)。また、金銭以外の信託の受益者は、信託財産を直接保有する場合と同様に会計処理することが原則とされていますが、受益者が多数となる受益権を取得した場合は、信託財産を直接保有するとみなして会計処理を行うことが困難であることから、受益権を当該信託に対する有価証券と見みなして会計処理します(信託の会計処理に関する実務上の取扱いQ3、Q4)。

有価証券と見なされる場合、合理的に算定された価額が算出可能であれば、時価のある有価証券として会計処理を行い、時価等の開示が行われます。また、信託財産を直接保有する場合と同様の会計処理を行う場合には、当該信託財産が金融商品の時価等の開示の範囲に含まれるかどうかによって、時価等の開示が行われるか否かが決まります。

(4)敷金・保証金

敷金・保証金は、改正会計基準等の適用対象となる金融資産または負債(他の企業から現金もしくはその他の金融資産を受け取るまたは引き渡す契約上の権利)に該当する場合に、原則として時価等の開示の対象になります。一方、将来返還されない差入保証金、返還されない敷金などは、償却により費用となる資産であり金融資産でないことから時価等の開示対象から除外されます。

時価は将来キャッシュ・フローを現在価値に割引いて算定することが考えられますが、将来のキャッシュ・フローがいつ発生するのかについての見積もりが困難なことが想定されます。過去の実績から返還予定時期等を見積もることができる場合には、その見積もりに基づいて時価を算定することが考えられます。また、事業計画などでテナントの入れ替わりなどを想定している場合には、これらとの整合性も考慮することが必要です。

なお、合理的に算定される価額は、実態に応じて算定されるべきであり、契約書上の年限を形式的に用いて時価を算定することは、一般に合理的な見積もりとはいえないと考えられます。