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金融商品の時価等の開示

第4回: 実務上のポイント その1

2009.12.04
新日本有限責任監査法人 ナレッジセンター 
公認会計士 金子裕子

はじめに

平成22年3月31日以後終了する事業年度の年度末から、改正企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下、改正会計基準)および企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」(以下、適用指針)が適用となり、金融商品全般について時価等の開示が求められます。寄せられたさまざまな質問を基に、本稿では実務上のポイントを解説します。

1.新会計基準の適用と会計方針の変更

改正会計基準等の適用により、主に2点の改正がされています。a)の会計処理に影響を及ぼす事項と、b)の開示にのみ影響のある事項では、適用初年度における会計方針の変更等の取り扱いが、次のように異なります。

改正内容 会計方針の変更等の注記の要否
a) 例外的に時価で貸借対照表に計上しないことが認められる範囲が、「市場価格のない有価証券」から「時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券」に限定された(会計処理に影響を及ぼす事項)。
会計方針の変更に該当し、原則として会計方針の変更の注記が必要である。
b) 時価開示の対象が金融商品全般に拡大された(注記にのみ影響する事項)。
会計方針の変更に該当しないが、原則として改正会計基準等を適用している旨を追加情報として注記する。

2.開示対象となる金融商品の範囲

従来、時価等の開示は、有価証券およびデリバティブについて行われてきましたが、原則としてすべての金融商品に拡大されています(適用指針第2項)。このため、現金および預金、受取手形および売掛金、貸付金、支払手形および買掛金、借入金、リース債務等の幅広い項目が対象となります。

ただし、次のものは開示対象から除かれます。

  • 改正会計基準の適用対象外となる項目(保険契約、退職給付債務および年金資産など)
  • 純資産の部に計上されるもの(発行者における新株予約権など)
  • 重要性が乏しいもの

3.開示の概要と開示対象の重要性

(1)開示の概要

今回の改正では、金融商品全般について、金融商品の状況に関する事項(定性的情報)と金融商品の時価等に関する事項(定量的情報)の開示が求められます。適用指針では、定性的情報・定量的情報ともに、重要性が乏しいものは注記を省略できるとしています(適用指針第3項、第4項)が、具体的な数値基準は設けられていません。この重要性については、次のように考えることができるでしょう。

(2)定量的情報における重要性

金融商品の時価等の開示の判断における重要性と、貸借対照表に独立掲記する重要性は、必ずしも同じではないと考えられます。ただし、適用指針では、原則として貸借対照表の科目ごとに一定の事項を開示するとされており、貸借対照表の「その他」に含められている項目の開示は任意とされています(第20項)。これは、財務諸表との関連を明確にするという観点とともに、重要性を考慮したものと考えられます。

連結財務諸表に独立掲記される表示科目は、原則的として時価の開示が必要と考えられることから、連結貸借対照表の独立掲記基準(総資産の5%)を判断基準の一つとして使用することが考えられます。なお、有価証券とデリバティブについては貸借対照表に独立掲記されていない場合でも、時価の開示が求められます(適用指針第4項)。これをまとめると次の通りです。

  • 金融商品の時価等の開示の判断における重要性は、貸借対照表の独立掲記の基準と必ずしも同一ではないと考えられる。
  • 適用指針では、連結貸借対照表で独立掲記されている科目は、原則として、開示が必要としていることから、連結貸借対照表の独立掲記基準(総資産の5%)を判断基準の一つとすることが考えられる。
  • 有価証券およびデリバティブについては、連結貸借対照表で独立掲記されていない場合にも時価の開示が必要である。

(3)定性的情報における重要性

定性的情報と定量的情報は、両方の記載があって十分な意味を持つと考えられることから、定性的情報は、定量的情報の記載がされている範囲について記載することになると考えられます。

(4)個別財務諸表における重要性

連結財務諸表を作成していない会社の場合には、個別財務諸表で注記を行うことになります。個別財務諸表では、連結財務諸表よりも詳細な科目の独立掲記が求められ、独立掲記基準も総資産の1%と小さくなっています。これを形式的に当てはめると、連結財務諸表より多くの情報開示が求められることになり、必ずしも適切な結果にならないことが考えられます。

しかし、連結財務諸表と個別財務諸表の開示趣旨の違いにより、独立掲記基準の違いが生じているとの考え方もあることから、連結財務諸表よりも独立掲記が増える部分については、個別に時価開示の要否を検討することになると考えられます。

4.会社法計算書類における取り扱い

(1)開示の要否

会社計算規則(以下、計算規則)が平成21年3月に改正され、次の事項の記載が必要とされています。

  • 金融商品の状況に関する事項(計算規則第109条第1項第1号)
  • 金融商品の時価等に関する事項(計算規則第109条第1項第2号)

なお、関連当事者情報の注記と異なり、計算書類においても、連結注記表で注記されている場合には、個別注記表での注記を要しないとされています。また、会計監査人設置会社以外(公開会社を除く)では、当該注記は不要です(計算規則第98条第2項第1号)。

(2)開示における重要性

計算規則では貸借対照表に記載する科目についての基準がありません。また、計算規則は、有価証券報告書提出会社だけでなく、会計監査人設置会社を対象としていることから、会社の実情に応じて必要な限度での開示を可能とするため、財務諸表規則の注記事項と比べて概括的なものとされています。そこで、時価等の開示の重要性については、会社の実情や科目の実態に応じて判断することになると考えられます。

5.保証債務などの注記項目における重要性

当座貸越契約、貸出コミットメントおよび債務保証契約の注記項目については、次の二つの要件をいずれも満たす場合に、時価および時価の算定方法を注記することが必要です(適用指針第22項、第23項)。

  • 注記額が総資産額に対して重要な割合を占めること
  • 時価に重要性があること

貸借対照表に計上されている科目と異なり、時価の重要性が判断基準として設けられていますので、注記額の総資産額に対する割合だけではなく、時価の損益計算書への影響を考慮することが適当と考えられます。

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