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工事契約に関する会計基準

第1回:適用範囲、適用時期、工事進行基準の適用要件・会計処理

2008.12.11
新日本有限責任監査法人 公認会計士 湯本純久
新日本有限責任監査法人 公認会計士 井澤依子

1.はじめに

平成19年12月に企業会計基準委員会より、企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下、会計基準)及び企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」(以下、適用指針)が公表され、平成21年4月1日以後開始する事業年度から適用されています。本会計基準及び適用指針においては、工事契約に係る工事収益及び工事原価に関して、施工者における会計処理と開示について規定しています。

これまでわが国では、長期請負工事に関する収益の計上については、工事進行基準または工事完成基準のいずれかを選択適用することができるとされてきました(企業会計原則 注解7)。このため、同じような請負工事契約であっても、企業の選択により異なる収益等の認識基準が適用される結果、財務諸表間の比較可能性が損なわれる場合があるとの指摘がなされていました。こうした指摘を踏まえ、本会計基準は工事契約ごとに会社が適用すべき認識基準を明らかにしています。本解説シリーズにおいては、「工事契約に関する会計基準」の適用に当たっての留意事項を解説します。なお、文中の意見に関する部分は私見であることをお断り申し上げます。

2.適用範囲

本会計基準で「工事契約」とは、仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、土木、建築、造船や一定の機械装置の製造等、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うものをいいます(会計基準4項)。

受注制作のソフトウエアの制作費は、「研究開発費等に係る会計基準」四1において請負工事の会計処理に準じて処理されると規定されていることから、工事契約に準じて本会計基準を適用するとされています(会計基準32項)。また、業種、工期の長短にかかわりなく本会計基準で定められた工事進行基準の適用要件が満たされた契約について、工事進行基準が適用されます(会計基準52項)。

<ポイント>

  • 工事契約の適用範囲は、請負契約のうち基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うものが対象となる。
  • 受注制作のソフトウエアについても本会計基準の適用対象となる。
  • 建設業に限らず、工期の長短にかかわりなく、工事進行基準の適用要件が満たされた契約に適用される。

3.工事進行基準の適用の要件

本会計基準が適用される工事契約については、工事の進行途上においても、その進捗(ちょく)部分について成果の確実性が認められる場合には工事進行基準を適用し、この要件を満たさない場合には工事完成基準を適用します。

工事契約に関して成果の確実性が認められるためには、①工事収益総額②工事原価総額③決算日における工事進捗度の各要素について、信頼性をもって見積ることができなければなりません(会計基準9項)。

<ポイント>

工事進行基準適用の要件である成果の確実性が認められるための3要素

  1. 工事収益総額の信頼性
  2. 工事原価総額の信頼性
  3. 決算日における工事進捗度の信頼性

以下で工事進行基準適用のための要件である3要素について説明します。

①工事収益総額の信頼性

信頼性をもって工事収益総額を見積るためには、その前提として、最終的にその工事が完成することについての確実性が求められます。そのためには、施工者には当該工事を完成させるに足りる十分な能力が求められ、完成を妨げる環境要因が存在しないことが必要とされています。

また、工事契約において当該工事についての対価の定めがあることも、工事収益総額の信頼性を確保するために必要です(会計基準11項)。ここで「対価の定め」とは、当事者間で実質的に合意された対価の額に関する定め、対価の決済条件及び決済方法に関する定めをいいます。

②工事原価総額の信頼性

工事原価総額は、工事契約に着手した後もさまざまな状況の変化により変動することが多いという特徴を有します。このため、信頼性をもって工事原価総額の見積りを行うためには、こうした見積りが工事の各段階における工事原価の見積りの詳細な積み上げとして構成されているなど、実際の原価発生と対比して適切に見積りの見直しができる状態となっていることが必要です。また、工事原価の事前の見積りと実績を対比することによって、適時・適切に工事原価総額の見積りの見直しが行われる必要があります。この条件を満たすためには、当該工事契約に関する実行予算や工事原価等に関する管理体制の整備が不可欠です(会計基準12項、50項)。

③決算日における工事進捗度の信頼性

決算日における工事進捗度を見積る方法として原価比例法を採用する場合には、工事原価総額の信頼性をもった見積りができれば、通常、決算日における工事進捗度も信頼性をもって見積ることができると考えられます(会計基準13項)。ここで原価比例法とは、決算日における工事進捗度を見積る方法のうち、決算日まで実施した工事に関して発生した工事原価が工事原価総額に占める割合をもって決算日における進捗度とする方法をいいます。決算日における工事進捗度の合理的な見積方法として、原価比例法が広く適用されていますが、工事契約の内容によっては、工事進捗度をより合理的に反映する方法として原価比例法以外の基準(直接作業時間、施工面積等)が適用される場合もあります(会計基準56項)。