わかりやすい解説シリーズ「連結」 第4回:未実現利益の消去

2012年7月11日 PDF
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 蟹澤啓輔

1. 未実現利益とは

未実現利益とは、連結グループ会社間の内部取引から生じた利益のうち、期末までに実現していないものをいいます。

連結グループ会社間取引利益がすべて実現しているケース

連結グループ会社間取引利益がすべて実現しているケース

連結グループ会社間取引利益が実現していないケース

連結グループ会社間取引利益が実現していないケース

連結グループ会社間で例えば商品の売買取引を行った際に、商品を販売した連結会社が計上した利益は、連結グループにおける内部利益となります。内部利益は、内部取引の対象商品が連結外部に販売されることによって実現します。しかし、期末時点で内部取引の対象商品が棚卸資産として連結グループ内で保有されている場合には、当該内部利益は期末に商品を保有している連結会社の棚卸資産残高に含まれており、期末時点で、まだ実現していません。このように、連結グループ会社間の内部取引から生じた利益のうち、期末までに実現していないものを未実現利益といいます。

  • 未実現利益の消去

    内部取引に係る未実現利益が生じている場合、個別財務諸表の単純合算をしただけでは、損益計算書の利益が未実現利益に相当する金額だけ過大に計上され、貸借対照表の棚卸資産残高は、連結グループにおける取得原価より未実現利益に相当する金額だけ過大に計上されています。従って、連結上で当該未実現利益を消去する必要が生じます。

2. 棚卸資産の未実現利益の会計処理

未実現利益が計上される典型的な取引は、連結グループ会社間で行われる製商品など棚卸資産の売買取引です。棚卸資産のグループ内部取引で内部利益が計上され、売買取引に係る商品が期末に在庫として保有されている場合には、連結上当該商品に含まれる未実現利益を消去する必要があります。

未実現利益が発生しているケース

未実現利益が発生しているケース
  • 具体的な手続

    ① 連結グループ間取引の相殺消去

    設例では、A社の売上25,000とP社の仕入原価25,000を相殺消去します。

    (連結仕訳)
    (借方) 売上
    25,000
    (貸方) 売上原価
    25,000

    ②未実現利益を相殺消去

    設例ではA社がP社に販売した商品25,000のうち、5,000が期末に棚卸資産として資産に計上されます。個別財務諸表に計上されている棚卸資産5,000にはA社の利益相当額が1,000(=5,000×利益率20%)が含まれているため、当該棚卸資産の未実現利益相当額と売上原価の棚卸資産振替額をそれぞれ消去します。結果的に連結損益計算書においては連結グループとして実現している利益6,000が計上されることになります。

    (連結仕訳)
    (借方) 売上原価
    1,000
    (貸方) 棚卸資産
    1,000

3. 固定資産の未実現利益

連結グループ会社間の固定資産の売買取引によって生じた未実現利益についても、棚卸資産の場合と同様に、連結財務諸表の作成上、当該固定資産に係る未実現利益を消去する必要があります。

図3 未達取引の調整

図表は機械を親会社が外部より購入し子会社に譲渡した場合を想定しています。当該親会社から子会社への機械の譲渡取引は、連結グループでは内部取引となります。

  • 固定資産の未実現利益の消去(親会社から子会社へ譲渡のケース)

    当該固定資産の譲渡により、親会社に計上された固定資産売却益は、当該固定資産が連結外部に売却される時点まで未実現利益となります。期末時点において、子会社により当該固定資産が保有されているのであれば、親会社で計上された固定資産売却益は、未実現利益として連結上消去する必要があります。

    固定資産の未実現利益の会計処理は、固定資産の譲渡が行われた期に親会社の固定資産売却益と機械装置に含まれる未実現利益相当額を消去します。

    (連結仕訳)
    (借方) 固定資産売却益
    1,000
    (貸方) 機械装置
    1,000

    関係会社間取引の対象資産が販売を目的とした棚卸資産の場合は、期末後比較的短期間に連結外部に販売されることから、棚卸資産に含まれる未実現利益もまた比較的短期間で実現することになります。これに対して、固定資産の場合、売却時点において未実現利益が実現するというのは棚卸資産と同じですが、継続的に使用する目的で保有される固定資産は譲渡先企業に比較的長期間とどまるのが通常です。なお、関係会社間取引の対象資産が償却性資産であれば、減価償却が行われるため、子会社の個別財務諸表上の取得原価に基づいて計算された減価償却費に、未実現利益の消去に係る修正を行い、当該固定資産の計上額と減価償却費額を連結上の金額にする必要があります。消去した未実現利益に関する減価償却の修正については、「4.減価償却」で解説します。

4. 減価償却

連結上消去した固定資産の未実現利益に関して、子会社の個別財務諸表において計上した減価償却を修正し、連結上の減価償却費計上額を適正額とする必要があります。

減価償却
  • 連結上の固定資産減価償却費の修正

    減価償却とは、固定資産の通常使用に伴う資産価値の減価を、その使用される期間に費用配分するために行われますが、A社の個別財務諸表においては、連結上の未実現利益を含むA社の個別財務諸表上の取得原価が減価償却によって費用化されます。 設例のように、A社の個別財務諸表においては、減価償却費に連結上の未実現利益部分が含まれて費用化されることになります。

    このため、個別財務諸表の単純合算をしただけでは、減価償却費が連結上の減価償却費の適正額よりも過大となっていることから、未実現利益部分に関する減価償却費の修正が必要になります。

    (連結仕訳)
    (借方) 減価償却累計額
    200 (貸方) 減価償却費
    200

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