設例で解説 「キャッシュ・フロー計算書」 第1回:営業活動によるキャッシュ・フロー(1)

2015年11月18日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 山岸 正典
公認会計士 七海 健太郎

1. はじめに

これから4回にわたり、キャッシュ・フロー計算書について設例を使って解説していきます。キャッシュ・フロー計算書は、そのキャッシュ・フローを生み出した企業活動の性格によって、営業活動によるキャッシュ・フロー、投資活動によるキャッシュ・フロー、財務活動によるキャッシュ・フローの3つの区分に分かれています。第1回と第2回は、まず営業活動によるキャッシュ・フローの区分を対象としますが、第1回は営業活動によるキャッシュ・フローの区分の中でも、「小計」欄より上の項目について解説します。なお、キャッシュ・フロー計算書の表示方法には、直接法と間接法がありますが、本シリーズは実務で多く採用されている間接法を使って解説します。

直接法と間接法

  • 直接法:
    商品の販売や仕入、給料の支払い、経費の支払いなどの主要な取引ごとにキャッシュ・フローを総額表示する方法です。
  • 間接法:
    税引前当期純利益に減価償却費などの非資金損益項目、有価証券売却益などの投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目を加減して表示する方法です。

2. 営業活動によるキャッシュ・フローの意義

営業活動によるキャッシュ・フロー区分

【ポイント】
「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分の小計欄(※1)の上では、企業の本業によるキャッシュ・フローの状況を表示し、小計欄(※1)の下では、投資活動および財務活動以外の取引によるキャッシュ・フローを表示します。

「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分には、税引前当期純利益、減価償却費などの非資金損益項目、有価証券売却損益などの投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目、営業活動に係る資産・負債の増減、利息および配当金の受取額等が表示されます。この中で、小計欄(※1)の上と下で性質が異なる取引が表示されている点に留意が必要です。小計欄の上では、商品の販売による収入や商品の仕入による支出など営業損益計算の対象となった取引等が記載され、表示方法として間接法を採用している場合、営業活動に係る資産・負債の増減の調整等を通じて利益と企業の本業に係るキャッシュ・フローとの関係が明示されます。一方、小計欄(※1)より下では、利息や配当の受け取り、利息の支払い、法人税等の支払い等、営業損益計算の対象にならない項目で、投資活動および財務活動以外の取引によるキャッシュ・フローが記載されます。

利息および配当金の表示方法

利息および配当金に係るキャッシュ・フローについては、受取利息、受取配当金および支払利息は「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載し、支払配当金は「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載する方法(第1法)と受取利息および受取配当金は「投資活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載し、支払利息および支払配当金は「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載する方法(第2法)が認められていますが(「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成に関する実務指針」11項)、ここでは第1法を採用していることを前提としています(第2回で解説)。

3. 営業活動に係る資産・負債の増減の設例による解説

ここから「営業活動によるキャッシュ・フロー」区分での主な項目について、T字勘定や精算表を使って解説していきます。まず、営業活動に係る資産・負債の増減について解説します。

【ポイント】
「営業活動によるキャッシュ・フロー」区分のスタートとなる「税引前当期純利益」に含まれている営業活動に係る損益を、キャッシュベースに修正するために、営業活動に係る資産・負債の増減について調整します。

【設例1】
(前提条件)

営業活動によるキャッシュ・フロー区分
T字勘定とキャッシュフロー精算表

損益計算書には、営業損益の対象となる商品の販売取引や商品の仕入取引に係る損益(例えば、売上高や売上原価)が含まれていますが、例えば、当期の売上高のうち期末の売掛金残高については、キャッシュとして回収されていません。このため、損益計算書をスタートとしてキャッシュベースの営業成果を表示するためには、営業損益計算の計算対象となる資産・負債(売掛金、買掛金、たな卸資産等)を調整することによって、利益をキャッシュベースの金額に調整する必要があります。

※2 損益計算書での営業活動の成果として売上総利益2,000となっていますが、キャッシュベースの金額は2,500(売掛金回収8,000-買掛金支払5,500)ですので、キャッシュ・フロー計算書上では、営業活動に関連する資産・負債の増減を計上して、+500(※3)の調整を行います。

※3 +500の具体的な算出方法としては、まず売掛金残高の増加2,000は未回収額の増加を意味するために、キャッシュのマイナス調整を行います。同様の調整をたな卸資産(+1,000)と買掛金(+1,500)についても行うことで、利益をキャッシュ・ベースの金額に調整します。

※3 +500の調整

(仕訳イメージ)

<売掛金の増減>

<売掛金の増減>

<たな卸資産の増減>

<たな卸資産の増減>

<買掛金の増減>

<買掛金の増減>

4. 非資金損益項目、投資財務損益の設例による解説

【ポイント】

  • 非資金損益項目は、キャッシュの変動を伴わない項目であるため、「営業活動によるキャッシュ・フロー」区分で調整します。
  • 投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目については、「営業活動によるキャッシュ・フロー」区分からその影響を除外するため、収益項目はマイナス、費用項目はプラスとして調整します。

【設例2】
(前提条件)

① 有価証券
期首残高:1,000、取得:500、売却簿価:1,000(売却価額1,200)、期末残高:500

② 有形固定資産
期首残高:3,000、取得:2,000、減価償却費:500、売却簿価:1,000(売却価額:500)、期末残高:3,500

③ 有価証券の取得と売却については、既に代金精算済みとなっている。

④ 有形固定資産の取得と売却については、既に代金精算済みとなっている。

T字勘定とキャッシュフロー精算表

損益計算書には、減価償却費のようなキャッシュの変動を伴わない項目(以下、非資金損益項目)が含まれています。税引前当期純利益に含まれているこのような非資金損益項目を除外することで、税引前当期純利益をキャッシュベースの金額に調整します。
また、損益計算書には、有価証券売却益や社債発行費のような投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目も含まれています。例えば、有価証券の売買は投資活動に該当するため、有価証券に関するキャッシュ・フローは投資活動によるキャッシュ・フローに記載することになりますし、社債の発行は財務活動に該当するため、社債の発行に関するキャッシュ・フローは財務活動によるキャッシュ・フローに記載することになります。このため、投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目を収益項目はマイナス、費用項目はプラスとして調整することによって、税引前当期純利益を営業キャッシュ・フローに調整します。

※1  損益計算書に計上されている減価償却費500を「営業活動によるキャッシュ・フロー」区分にプラスすることで、税引前当期純利益をキャッシュベースの金額に修正します。

※2,3 投資活動により発生した損益項目である有価証券売却益200と有形固定資産売却損500が税引前当期純利益に含まれているため、「営業活動によるキャッシュ・フロー」区分にプラス・マイナスすることで、その影響を営業キャッシュ・フローから除外しています。ここで調整された有価証券売却益と有形固定資産売却損は、投資活動によるキャッシュ・フローにおいて、「有価証券の売却による収入」と「有形固定資産の売却による収入」に含めて記載されることになります。(第3回で解説)

(仕訳イメージ)

<有価証券の売却>

<有価証券の売却>

<減価償却費>

<減価償却費>

<有形固定資産の売却>

<有形固定資産の売却>

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