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インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告(公開草案)のポイント

2018.12.21
EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 鈴木 真策

<日本公認会計士協会が平成30年12月14日付で公表>

日本公認会計士協会(会計制度委員会)は平成30年12月14日付で会計制度委員会研究報告「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(公開草案)(以下「本公開草案」という。)を公表しています。

日本公認会計士協会(会計制度委員会)では、平成29年2月にインセンティブ報酬等検討専門委員会を設置し、役員や従業員(執行役員を含む。)に対するインセンティブ報酬の会計上の取扱いについて研究を重ねてきました。

本公開草案は、このインセンティブ報酬の会計上の取扱いに関する現時点における考え方を取りまとめたものであり、会計上の論点と会社法の関係、インセンティブ報酬に関する会計上の論点、スキーム別の会計処理上の論点等について考察がされています。

なお、本公開草案に対しては平成31年1月25日(金)までコメントが募集されています。また、最終版の公表は3月中が予定されています。

Ⅰ. 本公開草案の概要

1. 会計上の論点と会社法の関係

法務省・法制審議会が平成29年4月に立ち上げた会社法制(企業統治等関係)部会で、会社法改正に向けた議論を行っており、取締役の報酬等のうち金銭でないもの(会社法第361条第1項第3号)に関して、新株の発行及び自己株式の処分にあたって、金銭の払込みを要しないことができるものとすること等を検討しています。

この点現状では、自社株型報酬について、資本充実の原則との関係から、役員等に金銭報酬債権を付与し、当該債権を現物出資するスキームによる実務対応が取られていますが、会社法の改正動向を踏まえて、資本会計上の論点について会計処理の考え方を整理することが必要であるとの考察がなされています。

2. インセンティブ報酬に関するその他の会計上の論点

(1) 費用化の期間
規程上ないし契約上の名目的なサービス提供期間を単純に費用化の期間とするのではなく、その実態を適切に判断する必要があるとされています。この実態の判断に際しては、報酬制度において設けられている勤務対象期間に相当する期間のほか、譲渡制限付株式を用いたスキームにおいては、譲渡制限期間も判断の一つの要素となり、また、業績評価期間、権利不確定の条件や役員を対象とする場合にはその任期などとすることも考えられるとされています。

(2) 費用総額の測定
対価が現金の場合には、当該現金支出額で費用計上額が測定され、対価が株式である場合には、契約成立時点(ストック・オプションにおける「付与日」時点)で、将来の株式の交付(譲渡制限の解除を含む。)と将来の追加的な労働等サービスの提供が等価で交換されていると考えられるため(ストック・オプション会計基準第49項)、契約成立時点の「時価」で費用総額を測定することになると考えられるとされています。
なお、ここでいう「時価」とは、契約成立時点の「株価」のみを指すのではなく、等価交換の対象となった「対価の時価」を、一定の評価技法をもって算定するケースを含むと考えられる旨が示されています。

(3) 事後的な時価変動の反映の要否
対価が現金の場合には、当該現金支出額で費用計上額が測定されることから、将来の現金支出額の最善の見積りとして、株価を参照する報酬制度の場合には、株式ないし株式オプションの時価変動を反映させることが考えられるとされています。一方、対価が株式の場合にも、ストック・オプションと同じく、契約成立時点(ストック・オプションにおける「付与日」時点)以後の時価の変動は労働等サービスの価値とは直接的な関係を有しないと考えられるため、時価の変動を反映しない処理が会計的には適切と考えられる旨が示されています。

(4) 親子会社間の制度の取扱い

  • 親会社及び子会社の個別財務諸表における会計処理
    親会社が自社の株式を用いるインセンティブ報酬を子会社の役員等に付与する場合における、親会社及び子会社の個別財務諸表における会計処理についてもストック・オプション等に関する会計基準の適用指針第22項、第62項から第65項と同様の会計処理となるとの考えが示されています。
  • 連結財務諸表における会計処理
    親子会社間で精算が行われないようなケースでは、親会社と子会社の個別財務諸表の双方で報酬費用が計上されているため、子会社における報酬受入益と相殺し、親子会社間で精算が行われるケースでは、損益計算書における相殺項目はないが、貸借対照表に未精算の債権債務が計上されている場合、当該債権債務は相殺消去するとされています。

(5) 税効果会計適用上の論点
インセンティブ報酬において、損金算入時期が対象勤務期間の終了時期になるような形態のものは、税効果会計の適用対象となるかどうか検討する必要があるとの考えが示されています。

(6) 開示上の論点

  • 1株当たり利益への影響
    事前交付型譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)と業績連動発行型パフォーマンス・シェア(パフォーマンス・シェア・ユニット)を取り上げて、(潜在株式調整後)1株当たり当期純利益に与える具体的な影響について考察がされています。
  • その他の開示上の論点
    ストック・オプションに関する注記、関連当事者取引に関する注記、重要な後発事象に関する注記、有価証券報告書のコーポレート・ガバナンスの状況の開示、会社法事業報告における役員報酬の開示に関する論点に対する考えが示されています。

3. インセンティブ報酬のスキーム別の会計処理上の論点

以下の各報酬制度について、スキームの概要及び税務上の取扱いの概要を記載するとともに、会計処理の背景や具体的な実務上の論点についての考察がなされています。

スキーム スキームの概要
株式報酬型ストック・オプション 権利行使価格を1円に設定した株式報酬型のストック・オプション
権利確定条件付き有償新株予約権 企業がその従業員等に対して権利確定条件(業績条件など)が付されている新株予約権(ストック・オプション)を付与する場合に、当該新株予約権の付与に伴い当該従業員等が一定の額の金銭を企業に払い込む報酬制度において付与される新株予約権(実務対応報告第36号第1項)
事前交付型譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック) 譲渡制限を付した株式を事前に交付し、勤務に応じて当該制限を解除する形の株式報酬
初年度発行型パフォーマンス・シェア 中長期的な一定の業績等条件の達成によって譲渡制限が解除される譲渡制限付株式を、対象期間の開始時に交付する形態の株式報酬
役員向け株式交付信託 役員への企業価値向上のインセンティブ付与を目的として、自社の株式を受け取ることができる権利(受給権)を付与された役員に信託を通じて自社の株式を交付する株式報酬
業績連動発行型パフォーマンス・シェア(パフォーマンス・シェア・ユニット) 中長期的な業績目標の達成度合いに応じた株式数(又は金銭)が交付される株式報酬
株価連動型金銭報酬 株式の発行や自己株式の処分は伴わず、金銭(現金)によって役員等に給付される報酬であるものの、当該報酬の額が自社ないし親会社等の株価に連動して決定されるような報酬

Ⅱ. 適用時期等

研究報告は、実務上の指針として位置付けられるものではなく、また、実務を拘束するものではないものとされています。
また、研究報告という性格から適用時期は特に示されていませんが、公表日から適用となるものと考えられ、3月中に公表された場合、同年6月に提出される有価証券報告書や、公表日を含む事業年度である平成30年3月期決算の会計処理において、研究報告の取扱いを斟酌することが考えられます。

なお、本稿は本公開草案の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

日本公認会計士協会ウェブサイトへ


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