退職給付会計基準の改正に伴う税効果会計に関するQ&Aの改正のポイント

2013年2月15日
カテゴリー 会計情報トピックス

会計情報トピックス 吉田剛

日本公認会計士協会が平成25年2月7日付で公表

日本公認会計士協会(会計制度委員会)は、平成25年2月7日付で「『税効果会計に関するQ&A』の改正について」(以下「改正税効果Q&A」という。)を公表しています。

改正税効果Q&Aでは、平成24年5月17日にASBJ(企業会計基準委員会)から公表された企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」(以下「改正退職給付会計基準」という。)の適用による、税効果会計上の取扱いが示されています。具体的には、原則として平成25年4月1日以後終了する連結会計年度の年度末から、連結財務諸表に限り、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用(以下、これらを併せて「未認識項目」という。)を連結貸借対照表のその他の包括利益累計額に計上することとなりますが、これに伴う税効果会計への影響が改正税効果Q&Aでは示されている形となっています。

1. 改正税効果Q&Aの概要

改正税効果Q&Aでは、現行の「税効果会計に関するQ&A」に追加する形で、新たにQ15として改正退職給付会計基準の適用による税効果会計上の取扱いが示されています。具体的には、以下のそれぞれの論点について、税効果会計の適用の際の取扱いが示される形となっています。

  • 連結財務諸表でのみ計上される未認識項目に係る繰延税金資産の回収可能性(改正税効果Q&A Q15 (1))
    改正退職給付会計基準の適用により、連結財務諸表においてのみ、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用(未認識項目)が税効果を調整の上で、その他の包括利益累計額に計上されます。この連結手続上生じる一時差異である未認識項目に係る繰延税金資産の回収可能性は、個別財務諸表上の退職給付引当金に係る税効果額と、連結財務諸表上で計上される未認識項目に係る税効果額を合算した上で、これらに係る繰延税金資産の回収可能性を判断することになります。
  • いわゆる「66号会社分類」の取扱い(改正税効果Q&A Q15 (2))
    監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(以下「66号」という。)5(1)では、会社の過去の業績等の状況を主たる判断基準として、会社を5つのランクに分類し、繰延税金資産の回収可能性を判断することとされています。66号5(1)の会社分類の決定に際しては、期末の将来減算一時差異の金額が比較対象とされているケースがありますが、改正退職給付会計基準の適用により、個別財務諸表における将来減算一時差異(退職給付引当金等)と連結財務諸表における将来減算一時差異(退職給付に係る負債等)に相違が生じるケースが考えられます。このとき、連単のそれぞれの将来減算一時差異の額を基礎として66号5(1)の会社分類を判断すると、連単で当該会社分類が異なることになってしまうことも考えられますが、改正税効果Q&Aでは、個別財務諸表における当該会社分類が連結財務諸表において変更されることはないとする考え方が示されています。
  • 未認識項目の「長期性の一時差異」への該当の有無(改正税効果Q&A Q15 (2))
    66号5(2)では、退職給付引当金に係る将来減算一時差異については、その解消が長期にわたるものの、企業が継続する限り、長期にわたるが解消され、将来の税金負担額を軽減する効果を有するため、回収可能性の判断の特例として、一定の会社分類である場合には、当該一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性があると判断できるものとされています。改正税効果Q&Aでは、連結財務諸表上でのみ計上される未認識項目(負債計上されるもの)についても、償却により個別財務諸表上の退職給付引当金に振り替えられていくものであるため、同様に、66号5(2)に定められる長期性の一時差異の特例が適用になるものと考えられるとされています。
  • 回収可能性の見直し時の会計処理(改正税効果Q&A Q15 (3))

① 回収可能性なし→ありとなった場合の会計処理
退職給付に関連する将来減算一時差異に係る繰延税金資産について、これまで回収可能性がないと判断されていたものが、回収可能性があると判断された場合、まず、個別財務諸表における退職給付引当金に対応する将来減算一時差異に係る繰延税金資産について、回収可能な範囲で法人税等調整額を相手勘定として繰延税金資産を計上します。その上で、連結財務諸表上でのみ計上される未認識項目(負債計上されるもの)についても、回収可能性があると判断される場合には、当該将来減算一時差異に関して退職給付に係る調整額を相手勘定として繰延税金資産が計上されることになるとする考え方が示されています

② 回収可能性あり→なしとなった場合の会計処理
退職給付に関連する将来減算一時差異に係る繰延税金資産について、これまで回収可能性があると判断されていたものが、回収可能性がないと判断された場合、まず、個別財務諸表における退職給付引当金に対応する将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性について見直しを行い、回収不能な部分(回収可能性があるものと判断される額を超えて計上されている部分)について、法人税等調整額を相手勘定として繰延税金資産を取り崩します。この場合、連結財務諸表上でのみ計上される未認識項目(負債計上されるもの)については、すべてが回収可能性があると判断される金額を超えていることになるため、退職給付に係る調整額を相手勘定として繰延税金資産の取崩しが行われるとする考え方が示されています。

2. 適用時期等

Q&Aという性格から適用時期は特に示されていませんが、改正退職給付会計基準の適用日から併せて適用となるものと考えられます。

3. 公開草案から修正された点

公開草案から、重要な修正は加えられていません。

なお、本稿は本研究資料の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

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